邪道
邪道。
男に言われた通り門の先に来た。石畳の道。まばらに石畳の隙間から草が生えている。雨が染み込む肌に、風も強くなってきた。寒い。
目の前に鬼がいた。三匹。赤鬼。青鬼。黒鬼。影がある。久しぶりに見た影がある奴は。だが、目を凝らすと血塗れ、耳を澄ますと悲鳴と呻き、鼻を利かすと腐ったような匂い。死体の山を漁っていた。着物を脱がしたり、髪を抜いたり。邪の道に生きるもの達。
「妖だなぁああッ!」
絶叫と共に私は刀を構える。刀がキラリと光る。私はビチャビチャと鳴らしながら駆けていく。
鬼達はこちらを見る。刀を構える。私は飛び込み刀を思いっきり脳天目掛けぶち込む。
防がれた。赤鬼の刀が私の目の前にある。蹴りを入れられた腹部をドンと蹴られ石畳の上を転がっていく。全身が痛い。血が出る。意識朦朧。
「はぁーはぁー……」
鬼達が近づいきた、全員手に刀を持ち、理解できない言語を話しあってる。
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
理解できねェー。鬼達がビチャビチャと地面を鳴らしながら近づいてくる。
赤鬼が刀を振りかぶる。私は濡れた地面を滑って刀を避け赤鬼の背面まで転がり、赤鬼の刀は地面に当たった。背面から斬った。右肩を斬り落とした。赤鬼の右腕が地面に落ちた。雨に濡れた地面に赤い血が広がっていく。
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
赤鬼の絶叫が流れる。雨の中でもハッキリと聞こえるほどの絶叫が流れる。赤鬼は必死になって切断された右肩を防いでいる。手の隙間から血がダラダラ流れる。
他の二人の鬼が刀を私の方に斬りかける。刀が私にあたる刹那に避け私は斬りかける。青鬼の腹部に切断された血の一文字が出来る。内臓までは到達できなかった。避けた青鬼は濡れた地面に足を取られ転んでしまった。
「チッ!」
私は舌打ちをこぼし、また刀を振る。転んだ青鬼脳天目掛けてぶち込んだ。私の顔に血がこべりついた。
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
青鬼が絶叫する。刀を引く抜く、ギュチャギュチャという音を立てながら引き抜いた。青鬼は其の場に倒れ込んだ。一匹死亡。
生き残った黒鬼が荒い息を溢しながら、涙をダラダラ流す。焦点の合ってない目で睨んでくる。なりふり構わず突っ込んでくる。
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
絶叫をしながら突っ込んでくる。冷静さを欠けてるな。突っ込んでくる刀を避け黒鬼は転げ落ちる。黒鬼はすぐさま、立ちあがろうとしたが、私は首を切り落とした。首から血が流れ水溜りに染み込んでいく。二匹死亡。
「ハハハ」
笑いが込み上げてくる。楽しい。
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
最後の右腕を切断した赤鬼はまだ必死に防いでいる。どうせ死ぬのに。
「ハハハハハハハハハ」
荒い呼吸が聞こえる。私の刀は血塗れだ。私は刀を振りかぶる。赤鬼が睨んでくる。
「ーーーーーーーーーーーー死ねーーーー」
赤鬼の首が吹き飛んだ。三匹死亡。
あれ烏の鳴き声が聞こえる。雨の中なのに聞こえる。また三本足の烏だ。何だんだろう。
あれ最後に赤鬼、「死ね」って言ってなかったか。妖の言語なんて理解できないはずなのに。
あれ烏に顔がある目を凝らしてくる、あの首の傷ついた男の顔だ。気持ち悪い。やはり何処かで見たこたある顔だ。
(あっ、思い出した。父の顔だ)
「人殺しッだアアアア!」
門の方から声が聞こえた。あの男だ。私が右耳を切断した中年の身分の高そうな男だ。やばい見つかった。しかも、仲間を連れてきやがった。
人殺し誰のことだ。これのことか。私は目の前の赤鬼の死体に目を遣る。
青年ぐらいの右肩が切断された首のない死体が合った。
「は?」
理解できない。さっき私が殺した赤鬼の死体は全て人間の死体に変わっていた。理解できない。血塗れの刀を持っている。
顔が父の顔になっている三本足の烏が首のない死体の上に佇んでる。
「へへへ……理解できないって顔だよなぁ……」
父の口が動く。憤怒に満ちた顔で絶叫する。
「思いだせよなぁ!お前が何をしたのか!」
頭が痛い。脳髄が痛い。いやだ思い出したくない。
(思い出したくない?私は何を言っているんだ)
変な気分だ吐き気がしてくる。呼吸が荒くなる。雨が染み込んでいく。気持ち悪い。
「はぁーはぁー……」
そうだ、私はあの日、父を殺したんだ。
これくらいの雨が降った時だったはず、あの日、父が私を殺そうとしたんだ。何でだっけ。あぁそうだ貧乏だったから私を育てることを放棄しようとしたんだ。だから、殺したんだ私は。
土砂降りの雨、外の音が遮断され、部屋の中から音も遮断した時。ボロボロの長屋にカビと苔臭い匂いが鼻に充満する。私が寝ている時、首を絞めてきた。母は父に頼まれ、何処かに行っていた。ヒュッという息を吐いた。父が顔を近づいてくる、耳に囁くように「ごめん、ごめん」という謝罪の言葉を羅列する。私は近づいてきた父の右目を思いっきりついた。父が右目を塞ぎ悶絶する、力が緩んだ。私は急いで父から離れすぐに釜戸から包丁を手にした。
「この餓鬼!」
今度は怒りに満ちた顔で近づいてくる。焦りはなかった、躊躇もなかった。私は駆け足で突っ切り腹部を刺した。ギュチャギュチャという音を立てながら引き抜いた、父は腹部を押さえながら倒れ込んだ。
ふぅーふぅーという父の吐息が雨の音で遮られる。その後、私は父を何度も切り刻んだ。大量の赤い血が部屋中に流れた。鉄のような匂いが鼻を刺激し続けた。父は何も言わなくなった。
血塗れになった包丁を父の首に置いた。そして、押して引いてを繰り返し始めた、血が吹きでる。包丁の刃はボロボロなため、なかなか上手く切断できない。結構な時間をかかった。骨が硬かった。父の首がポロリと落ちた。
母が帰ってきた。多分、父に私を殺すまで帰ってくるな。とか言われたんだろうな。母は父の無惨な死体を見るに息を飲み込んだ。
「あなた!」
母の絶叫を雨が飲み込む。
「どうしたの」
私はその時、理解出来なかった、人を殺すことの異常性を理解出来なかった。母が私を見る目は怒りというより恐怖に満ちていた。
「そうだ!櫛を買いに行こう!欲しがってたでしょう!」
母は急にそんなことを言ってきた。多分、母はこんな所にいたくなかったし、何より私はずっと包丁を握りしめていた。ご機嫌取りだろう。
「え!やったー!」
私は包丁を捨てて、母の元に近寄った。純粋だった私は母の手を握り締め、雨の中、一緒に駆け出した。父を殺したことなど疾うに忘れていた。
烏が私を睨んだ。




