正道
正道。
宵が覚め、暁によって照らされた道が出来始めた頃、私は都のはずれに着いた。テリテリとした日差しが肌を焼く。さらにジメジメ。蒸し熱い。私は自分の頭よりデカい笠を被っている。念の為の顔隠しとして。
ボロボロな都のはずれはクソとゴミの匂いで満ち溢れている。周りを見れば死体と何ら遜色ない人達が転がっている。死体かも。ガリガリな人間はただ緩やかな餓死を待っている。鼠が人間を齧ってる。
ボロボロの木造の家を通りすぎ、崩れかかった広い門を通りすぎる。広い門は所々丹塗りが剥げており、大きな円柱に、キリギリスが一匹止まっている。門の下には引き取りてのない死体が山を作っている。大量の烏が死体を啄んでいる。臭い。駆け足で都の方に向かっていく。
私がこんな所に来たのは、都の市に和尚が毎月、買い物に来ていたからだ。ここの人間なら和尚を恨んでいた人物を知っているかもしれない。そう思いこんな所に私は来たんだ。和尚殺しのほとぼりが冷めるまで半年も行けなかった。飢饉と疫病で天手古舞だから半年後にはそれどころではなくなる。
都の市に着いた、ここの人間は活気に溢れてる。都のはずれと違って、活気に溢れている。ここの市は役人どもが運営している。だからはずれよりは整備されていて綺麗。
私はまず鍛冶屋の方に向かった、男達から奪った刀と斧を売ろうと思ったからだ。さて何事もなければ良いのだがな。
私は昔、五年前ぐらいに一回だけ和尚と共に来た。そん時に巡ったところをうろ覚えながらに行こうと思っている。そう考えていると私は鍛冶屋に着いていた。
鍛冶屋の前で身分の高そうな中年の男が薄汚い十歳ぐらいのガリガリな少女に対し憤怒していた。
「貴様!よくも麻呂にぶつかったなッ!」
「……すみません……すみません……」
薄汚い少女が平謝りをしていた。市を行き交う人は誰も目を合わせず、無視して歩いている。誰も何も言わない。
「許すわけないだろッ!誤ってッ!」
刀を構え薄汚い少女に向かって刀を振り翳した。刃と刃がぶつかり、火花と金属音を散らした。
「なんだ!この餓鬼ッ!」
私は振り翳された刀を自分の刀で防いだ。男は私より身長が高く見下す姿勢になっている。左膝を木刀で殴りつけた。市を行き交う人が全員こちらを振り向く。
「痛てぇーッ!」
男は其の場で崩れ落ちた。すぐさま、両膝を何度も木刀で殴りつけた。
「ウグァッ!アアアアッ!」
私は男を見下しながら喋る。
「……人を殺してはいけないって知らんのか」
「うんなもん!知るかッ!餓鬼ッ!麻呂の殺しを邪魔する権利がテメェにあんのかッ!」
絶叫する男に対し私は腹部へ木刀を突いた。男は腹部を押さえながら悶絶した。
「私は身分で差別しないんだよ、高貴だろうが貧困だろうが関係ない。気分を害するから止めんてんだよ。それに、人を殺してはいけないからな」
「餓鬼が!テメェの思想を押し付けんじゃあねッ!殺したい時に殺すんだよッ!」
男は倒れながら、焦点の合わない目で睨みつける。男は刀を手に取る。
耳が飛ぶ。男の耳が飛ぶ。私が切り落とした。私の抜刀の方が早い。キラリと刀が太陽に照らされ輝く。
「いぎゃアアアアアア!」
右耳が切り落ち、血がダラダラ流れる。男は必死に右耳が合ったところを抑える。男は其の場で悶え続ける。
「……はぁーはぁー」
男は呼吸を整えるように何度も息を吐く。私は男の切断した右耳を持ち上げ自分の口に近づけ。
「次は首だ」
そう言い右耳を殴り捨てた。
「畜生ォ!」
なりふり構わず男は勢いよく逃げ出した。
「……だ、大丈夫ですか?」
薄汚い少女はか弱なそうな声で喋りかけてきた。
「あ、あの……早く逃げた方が良いですよ……」
「ふふっ、あんなノミ、何人来たところで変わらないよ」
私は出来るだけ優しい声色を出すことを意識しながら喋った。
「いや……本当にありがとうございます……」
呼吸を整える。
「……わ、私の両親はあいつの仲間に殺されたんですよ……り、両親が殺された時も皆んな、見ないふりをしていたんですよ」
少女の呼吸は酷く荒れている、恐怖が再起したのか。
「……すみません……関係ないですよね……へへっ」
少女に乾いた笑いが浮かぶ。気まずい。こういうのにいい感じの言葉が返せない。
少しの沈黙が流れる。
「……それでは、私は行くよ」
「っあ……そうですか……早めにここを離れた方がいいですよ……本当に」
「そうだッ!最後にこれをやろう。襲われた時の対抗手段として」
私は背中に背負ってたボロボロの刀を差し出した。夜道で襲った奴から奪ったやつ。
「ありがとうございますッ!」
少女はお辞儀をする。何度も。
「じゃあなッ!正しい道を歩めよ!少女ッ!」
私は駆け足で其の場から去った。雲が青天を塞ぎ始めた。
雨が降ってきた、結構強い。服に染み込む。気持ち悪い。雨の日は頭が痛くなるから嫌いだ。私は都から離れ、さっきの都の外れところまで走った。ビチャビチャと音を立てながら走った。そして、崩れかった広い門のところまで来た。
(どうしよう、何であんなことしちゃっただろう、はぁ……ほとぼりが冷めるまで近づけないなぁ)
私は崩れかった広い門の下で雨宿りした。隣に今まで気づかなったが人がいた。
「へへへ……どうも……どうも……血腥せェ……そこの人……」
薄汚い五十ぐらいの男が喋りかけている、自分より身長が低く、猫背になっておりさらに低く見える。髪はなく完全に禿げており、所々に傷があり、さらに首を廻るように大きな傷があった。この顔見覚えがある気がする、何処だっけ。
「……なんだ……お前?」
私は自分でも気づかない内に嫌悪感がそのまま出たような声を吐き出してしまった。
「へへへ……なんでゲスゥ……そんな声を出さなくても……」
違和感。私はさらにジロジロと観察する。影がない。私は刀に手を添える。
「ヒィッ、なんでゲスッ!何も刀向けることないじゃないですか……」
「てめェ。妖だろ。切り落とす」
刀がキラリと光る。
「ひどい……私、今まで善良に生きてきたんですよ……」
私はもう一度、男をジロジロ見る。確かに妖特有の血が見えない。
「私に切り落とされる前にどっかいきな!」
「いや……へへへ……その数珠、見覚えがあってですね……」
「何だと?お前、この持ち主を知っているのか?」
「やはりゲス……ーー寺の和尚ゲスねェ……最近殺された……」
ーー寺、私が過ごした寺の名前だ。
「あぁ、そうさ、私は和尚を殺したやつを探すために旅に出たんだよ。お前知り合いだったんだろ、何か知らんか」
「へへへ……知ってますよ……殺したがっていたやつがいますよ」
「何だと!教えてくれ!」
「へへへ……ただというわけじゃいけませんぜ……へへへ……」
ニヤニヤとした笑いを浮かべる。汚い。
「何だ?金か?私はそんな持ってないぞ」
「いえいえ……妖、退治でゲスよぉ……」
「妖?」
「そう……妖……実はこの門の先にいるんでゲスよ……そしたら教えてやりますゲスぜ」
「わかった。妖を殺したら、教えてくれるんだな」
「ええええ……それはもう何でも教えますよ……」
「わかった。殺してくる」
私は門の先に進む、雨に当たりながら進んでいく。
烏の鳴き声が聞こえる。




