夜道
ヤタガラスノマワリミチ
夜道。
ここはどこだろう。宵に満たされた暗い荒れた夜道を母は私の手を引いて、どこかに連れてく。ザァーザァーと鳴る雨の中。水で重くなった、ボロボロの服に気持ち悪いと感じながら、母はどこかに連れてく。視界は雨のせいで見ずらい。
連れて行かれた場所は寂れた寺の裏の林だった。母は私を木に投げ飛ばした。母は首を締め付けきた、両手で。母の痩せ細った手の温度を感じながら締め付けられていく、冷たかった。ヒュッという呼吸が口の中から吐かれていく。母の目を見た怖かった。私は抵抗したが小さな私の手では何もできず、やがて手に力が入らなくなり土を触った。私は土をもがいた。ドンドンと視界が閉じていく。
人を殺してはいけない。そう言われたのは、半年前。まだ都が飢饉と疫病に見舞われず、皆が他人を慈しみ愛し合えた時。私は、和尚にその言葉を言われた。その頃の私は、寺に和尚と一緒に住んでいた。あの日、母に殺されそうになった時。気づいた時は衣服も変えられ、体も洗われ、寂れた寺の一室で寝ていた。
人を殺してはいけない。今でもはっきり覚えている。冬の黄昏に満ちた時、明るく優しい光が白い雪に反射し、さらに輝かせた時、そう言われた。朱色の数珠を合わせながら和尚は、「人を殺してはいけない」と突拍子も無く言ってきた。和尚は五十を超えてきたので、遺言かなと思い真剣に聞こうと思った。朱色の数珠が交わり、ジャラジャラと音を立ている。数珠を合わせるのは和尚が怖がっている時だ。
人を殺してはいけない。木の棒が五本、連なる窓枠。光が差し込む窓枠に一匹の烏が見えた。三本足の烏が見えた。烏は、差し込む光と重なり神々しく感じた。烏は、鳴きも、飛びもせずに唯、私をジッと見るだけだった。不思議な事に差し込む光の中、烏の影は無かった。
次の日、和尚は惨殺死体で見つかった。寺の本堂で刀によって斬られまくった体が見つかった。それは私が寝ているすぐ隣で起こった、さらに私の手には血みどろの刀が握られていた。私は犯人だと言われた。
半年後。私は旅をしながら生きている。私は結局、逃げる形で旅に出た。和尚を殺し私から幸せを奪った奴を見つけるため旅に出た。
私は黒い旅装束を着て後ろに笠を背負っている。腰に刀を一本、木刀を一本携え、手に朱色の数珠を持ち、提灯で道を照らしながら私は山の夜道を歩いている。
男が二人、私の後ろについてきている。一人は大柄。もう一人は小柄。どちらも痩せこけっている。
私は男達の方を見た。山の中から男達がギョロギョロと出てきた。
「そこの女?男?よぉ、わからん長髪止まれ。身包み置いてけ」
大柄の男の薄汚い声が耳に入っていく、男はボロボロな刀を持っており、それをこっちに向ける。小柄な男の方は片手の斧を取り出し、薄汚く笑う。
私は逃げた。
(人を殺してはいけない)
「おい、待てッ!」
大柄の男が大声を上げて追ってくる。
私の真後ろまでに近づいてきた。
後ろ方をチラリと見る。ビュウュッ。男達の首が飛んだ。血が飛ばず。ただ、木の枝を切り落としたようにそこからは何もでてこない。
首のない男達の体は少しこちらに走ってきたと思うと、死んだのに気づいたのか転げて死んだ。やはり血はでない。
この世には、妖と呼ばれている生物がいる。生きているかは分からないが。
今、それが目の前にいる。妖の見た目は、不可思議だ。見た目はただの奇怪な生物、だが目を凝らすと全身が血塗れ見え、耳を澄ますと地獄のような悲鳴と呻めきが聞こえ、鼻を利かせると腐ったような匂いがする。そして影がない。偶に何故かある奴がいる。何故かわからん。それが妖の見分け方だ。雨の日によく出る。
私は刀を構えている。
鼬のような見た目をした妖がいた。鎌鼬だ。手足が刃のように鋭く光っており、三匹いた。刃は宵に照らされ妖美に光っている。刃は血がべっとり着いている。着いてない。
鎌鼬は消えた。頬を少し横に傾けた。頬に切り傷が着く。血が流れない。液体が滴るのを感じる。
(ある程度、予測ができるな。頭が切断されなかった)
鎌鼬が後ろに現れた。腰を低くし、右足を後ろにずらし刀の杖に手を置く。
鎌鼬が消えた。
抜刀した。私の後ろから頭を切り落ちた、鎌鼬が現れた。三匹とも転がりながら血を飛ばしながら死んでいった。
「ふぅー」
私は息を吐く。
(こいつらは早すぎて一定方向にしか進めない。)
鎌鼬の死体は煙のように消える。妖の死体は何故か煙のように消える。
(この世の物では無いからか?)
男達の死体に近づく。男達の身包みを漁る、特に何もなくため息を吐き捨てボロボロな刀と斧だけ取り歩いていく。
私は提灯で夜道を照らしながら歩いていく。
烏がまた私を見る。
主人公の性別はどちらでも良いです。




