06 第一皇子殿下との出会いと生徒会
「お前が転校生だな。噂では相当優秀らしいし、生徒会の雑務を手伝わせてやる。光栄に思えよ」
学園に入学してから数週間、通常科目はすべて合格しているから魔導具関連の授業をこまごまと受けながら、新作の構想を練っている毎日なのだけど、いきなり金髪の男子に話しかけられたわ。
周囲の反応を見る限り、皇国の第一皇子……要するにこの国で私の後見をしてくださっている陛下のお子様のようだけど……確かに似てはいるけど性格は良くなさそうね。
「これが生徒会室のカギだ。お前の仕事は書類の整理だから、平民でも十分にできるだろう」
一方的に言い放つと、無礼な金髪男子……第一皇子殿下は立ち去ってしまったわ。
私の手の中には放り投げられた鍵が一つ。
「ええと」
「なんですか、あの無礼な人は!」
学園に付き添ってくれているメリッサが怒り心頭といった感じで憤慨しているけれど、心情的には私も同じ気持ちよ。
とはいえ、令嬢教育を長年受けているから、メリッサのように気持ちよく怒れはしないけれど。
「アイリス嬢、僕は生徒会の庶務でフリッツと申します。殿下の命ですので、どうか生徒会の仕事を手伝っていただけないでしょうか?」
「ハス様ですね。私は転入生でこの学園の事情をよく知らないのですけれど、生徒会とは平民の一生徒が手伝えるものなのでしょうか?」
授業についてや学園の規則に関しては教員から説明を受けたけれど、生徒会に関しては全くと言っていいほど説明がなかったから寝耳に水なのよね。
「平時ならば生徒会は王宮官吏を目指す貴族子弟が務めるものなのですが、今は生徒会長でもある殿下の意向で優秀な生徒は生徒会に勤めることになっていまして……」
「拒否権はありませんのね」
「……申し訳ありません」
皇国は王国ほど王族や貴族の力が強くはないけれど、それでも何の理由もなしに上位者からの命令をはねのけていいというわけではない。
聞けば生徒会は学園に通う生徒たちが行う自治組織で、そのルールやメンバーは生徒たちが自由に決めていいということになっている。
王族が通っていない時期は通常のルールというか、長年使われているルールが適用されるけれど、あの無礼な殿下のように勝手な王族が通っている間は変なルールが適用されるらしいの。
「私もこの学園の生徒の一人ですから、そういうルールになっているのなら従うまでですけれど……書類の整理でしたか、どういった整理が必要か教えていただいても?」
「もちろんです。生徒会室へもきちんと案内させていただきます」
ハス様の案内で生徒会室へ行く間もメリッサはまだ怒っていたけれど、他の人が目の前にいる状況で私に話しかけることもできないのでメイドらしく大人しくはしてくれていたわ。
で、生徒会室へ入ってみてびっくり、室内にはいくつもテーブルが置いてあるのだけれど、そのテーブルの上は書類まみれ、床にも書類が散らばっている状況。
「ええと」
「申し訳ありません。生徒会では仕事が滞っていまして」
「滞っているって状況でもなさそうですけれど、これを片付けるのが私の仕事ということですか」
手近な書類をペラペラとめくってみるけど、生徒からの陳情書、生徒会長の提案書、教師からの返答など、様々な書類がバラバラになっているようね。
「すみません」
「片付けるのは良いのですが、どうしてこのような状況に?」
「大きな声では言えませんが、生徒会長は書類が出来上がると他の生徒にそれを投げる……これは物理的な意味でもありますが……ので、このような状況に」
投げる? 仕事を任せると同時に書類を投げて渡すということ?
そう言えば、鍵も投げて渡されましたね。
「生徒からの陳情書も入れ物の箱ごと投げたり、教師からの書類も投げられるのでこのような状況に」
「はあ」
いやいや、はあとしか言いようがないわよ、なにそれ? 子供じゃない!
「というか、そのようなこと生徒会室で話して大丈夫なのでしょうか?」
「ああ、生徒会長はこの時間は女子生徒と遊んでいるので生徒会室には寄りませんよ。生徒会室に来るのは放課後の一時間くらいなのでその時間以外は大丈夫です」
え? 他の人に仕事を投げるのに自分は一時間くらいしか仕事しないの?
というか、女子生徒と遊んでいるって何?
「ええと、女子生徒と遊んでいる……のですか?」
「ええ、生徒会長は愛する者は平等にするべきだという主義のようで、学園に通う平民の女子生徒と遊んでいることが多いのです」
この国、というかこの辺りの国では一夫一妻制が主流で、どうしても跡継ぎが生まれない場合を除けば複数の人間と愛を育むことは恥ずべきことなのだけれど、皇国の第一皇子はそういうこともわからないのかしら。
「……わかりました。……いえ、第一皇子殿下がどういう思考回路をして、そのような暴挙に出ているのかは理解不能ですが、この時間ならここで文句を言っても大丈夫な点は十分に」
「とりあえず、アイリス嬢にはこの教室の書類を会長に見せるもの、会長には見せなくても良いけど生徒会のメンバーに見せるもの、差し戻しにするものに分けていただければ」
「他の方はどこで何をなさっているのですか?」
「僕を含めて生徒会のメンバーは受けている授業が多いので放課後以外は結構ぎっちり授業があるので、必要不可欠な書類は教室に持って行って休憩時間に仕事をしている状況です」
相談する場合のことを言ったのだけれど、ハス様は他の生徒会のメンバーは仕事をしていないのか、という文句に受け取ってしまったわ。
まあ、それも間違いではないけれどね。
とりあえず、相談する場合も考えてハス様のスケジュールを教えてもらって、ハス様とは別れ、私とメリッサはこの部屋の掃除というか、書類の整理を開始したわ。
「なんなんですか、あの人たちは! そもそもお嬢様がこのような仕事をしなければならない理由などないではありませんか!」
「まあまあ、私もこの学園の生徒になったのだから、生徒会長のいうことは理不尽ではない限り聞かないとね」
他の生徒のように授業がたくさんあるのならともかく、私はほとんど受ける授業もないし……魔導具関連の授業は週4コマくらいしかないしね……少しくらいはね。
「とりあえず、私は書類の整理をするからメリッサは散らばっている書類をまとめて渡してくれる? あ、中身はなるべく見ないようにね」
「わかりました」
多分大丈夫だけど、学園の関係者以外はみてはいけない書類もあるかもしれないし、メリッサにはなるべく書類の中身は見ないようにして貰わないとね。
それから私とメリッサは黙々と、書類の整理をし始めたのだけれど、これが酷いのよね、どうも第一皇子殿下は仕事を増やす天才のようで、前例のないイベントを大量に作り出しているようなのよね。
教師からの意見書はそんな生徒会長の行動を非難するものばかりで、生徒からの陳情書は生徒会長の女遊びに関する文句が大量に。
どうも第一皇子殿下は生徒、教師問わずかなり嫌われているらしいわね。
「お嬢様、難しい顔をしていますが何か問題が?」
「いえ、この書類も先日先生に作っていただいた魔導具があれば簡単に仕分けできるのにな、と思って」
「ああ、あのお嬢様考案の仕分け専用の魔導具ですね。借りて来ればいいのでは?」
「試作段階だし、書類にあらかじめ仕分け用のチェックがないと判別できないからね。まあ、この部屋の整理が終わったらハス様に提案してみようかしらね」
王国なら資格なしで魔導具を作っても陛下の権力で何とかなるけれど、皇国では流石にそういうことは出来ないから、魔導具関連の授業を受け持ってくれている先生に入学試験の時に考えついた魔導具を相談したのよね。
そうしたら、あっという間に試作品を作ってくれて、先生が言うにはもともとある魔導具の改良だから簡単だったとは言っていたけれど、流石資格持ちの魔導具師は違うわよね。
「あの魔導具を使えばお嬢様がこのような仕事をする必要もなくなりますし、提案するのがいいでしょうね」
「ごめんね、メリッサも仕事が増えて嫌でしょう?」
「わたしは良いのですが、お嬢様はせっかく通える学園なのですから、このような仕事をやるよりもしたいことがあるのではないですか?」
そう言われると、確かに他の学生と青春(?)とかいうのをやってみたいとも思っていたけれど、この学園の生徒って平民はガツガツしてて勉強以外はしないし、貴族は派閥で分かれているからそういうのが難しいのよね。
「まあ、確かに王国にいた頃を思い出すし、こういう雑務をするくらいなら魔導具のことを考えていたいわね」
「あまり魔導具に関することばかり考えられてもこちらも困りますけどね」
メリッサの言い分もわかるけれど、私にとって魔導具は生きがいだもの、仕方がないじゃない。
とはいえ、確かに雑務をするくらいなら他にしたいこともあるし、ハス様に先生の作った魔導具を教えるのはいいかもしれないわね。
書類を作成する段階で、書類ごとに仕分けチェックの項目を付けておけば、仕事が楽になるし、書類についても見本を作成してそれも提案するのがいいかしらね。
まあ、そんなことをしたところで生徒会長である第一皇子殿下が増やした仕事はどうにもならないけれど、仕事の総量は減るでしょう。




