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03 今後についての家族会議

「お母様、私婚約破棄されましたっ!」


「あらあら、大変ね」


 家に帰ってお母様に事の経緯を伝えると、なんともふわふわとした回答が返ってきたわ。

 うちのお母様はおっとりというか、あんまり動揺しない性格でいつもふわふわしているのだけど、婚約破棄なんて重大事でもこの調子で居られるのは一種の才能だと思うのよね。


「だからね、私他国に行って魔導具づくりについて本格的に学びたいと思って」


「アイリスちゃんは昔から魔導具が好きだったものね」


 そう、私が昔から趣味にしていた魔導具づくりだけれど、王子妃教育、成長してからは王子妃として課された執務の影響で趣味レベルでしか学んでこれなかった。

 まあ、そもそも王国には魔導具づくりどころか一般教養の学園もないから学ぶには家庭教師を雇うしかないのだけど、割とマイナーな学問である魔導具関連にはまともな家庭教師がいないのよね。


「婚約破棄されたから、この国に対しての義務もなくなったし自分のやりたいことしたいな~って」


「良いと思うわ。でも、ジョージの意見も聞きたいわね」


「お父様には郵便用の魔導具で知らせておいたから、すぐにでも帰ってくると思うわ」


「あらあら、じゃあ詳しい話はその後ね」


 婚約破棄されたパーティーはお昼過ぎに始まってわりと直ぐにあの滑稽なイベントが始まってしまったから、今は日が落ちる前。

 お父様には馬車に乗る前に魔導具でお知らせしたから、もうじき帰ってくると思うのよね。


「旦那様が帰られました」


 そんな風に考えていると、執事のクラウスがお父様の帰宅を告げてきた。


「今帰ったよ、サルビア、アイリス。アイリスは大変だったね」


「お帰りなさい、あなた」


「お帰りなさい、お父様。王城の方はどうでした?」


「陛下には婚約破棄については報告して、宰相職も辞職してきたよ」


「あらあら、じゃあ明日からはずっとあなたと一緒に居られるのね」


「ふふ、そうだな。最近は忙しくてめっきり二人きりになれなかったからな」


 あらあら、本当に私の両親は今でもラブラブで羨ましい限りだわ。


「お父様、ではエンダーハイム家は」


「ああ、我が家の貴族位は陛下に返上してきたよ。明日からは……というよりも、今日からだな。今日からエンダーハイム家はただのエンダーハイムだ」


「よろしかったのですか?」


「元々、仕事をしていただけの祖父や父、私の功績で貰った爵位だからね。そこまでの思い入れはないよ」


 まあ、お父様もお祖父様も……曽祖父は私が生まれる前に亡くなっていたからわからないけれど……貴族というよりも仕事人という意識で陛下に仕えていたものね。


「あらあら、じゃあ明日からはご婦人たちのお茶会にもいかなくていいのね」


 お母様から喜色にまみれた声が聞こえてきました。

 趣味のおかげで高位貴族ほどお母様に対して敵愾心を持ってはいないけれど、それでも宰相の妻としてお茶会に出ればチクチクと言われていたもの、喜ぶのは仕方がないわよね。

 高位貴族、宰相などの重職もそうだけれど、その夫人はお茶会などであらゆる情報を収集したり、商談をまとめたりするのが仕事……お茶会って言うとお茶しておしゃべりしていると思っている平民が多いけど、重要な仕事なのよね。

 私が成長するまでは慣れないなりにお母様が、王子妃として活動できるようになってきてからは私が諸々仕切っていたけれど、そういう面倒な仕事から解放されるのも貴族位を返上するメリットよね。


「まったく、うちには領地もなければ特産品もないというのにすり寄ってくるものが多くて、お前たちにも苦労を掛けたな」


 お父様はこういうけれど、貴族たちがうちにすり寄ってきていたのはエンダーハイム家の人間の趣味の品々目当てでしょうね。

 お父様は小説、お母様は花を育て、私は陛下がすべて持って行ってしまっていたけれど魔導具づくりが趣味。

 お父様の小説は他国にもファンがいるほどの完成度で、お母様は栽培の難しい他国の花を栽培していたことで高位貴族にファンが多いのよね。


「ふふ、確かに苦労はしましたけれど権利を主張するのは義務を果たしてからがエンダーハイムの掟ですから、大丈夫ですよ」


 お母様が言っている掟というのは貴族家の掟とは違って先祖代々の教えみたいなもので、ともすれば趣味に没頭してしまう我が家の血筋を戒めるものだ。

 趣味に没頭したければ、仕事もきちんとしろという、まっとうな教え。

 その点、王子としての仕事もせずにフラフラ遊び歩いていたあのバカ王子との婚約なんて元よりも無理だったのよね。


「まあ、これからは平民だ。趣味を仕事にすれば義務と同時に権利も主張できるようになるだろう。ついては、明日の朝一番でこの国から離れようと思う」


「明日の朝一番ですか? 早くないですか?」


「婚約破棄も爵位の返上も覆せるものではないが、時間をかければ邪魔や無理を通そうとする人間が出ないとも限らないからね。屋敷については商会を営んでいる従兄弟に譲ると手紙を書いたし、使用人についてはクラウスに通達するように伝えているよ」


 あー、確かに王族が法律を曲げてくるとは思えないけれど、お父様が宰相を辞したことで下位貴族が騒ぎそうよね。


「でも国から離れるとしてどちらに行くのですか?」


「あなた、アイリスは魔導具づくりを本格的な学びたいそうなの。それも考慮に入れてくださる?」


「ふむ、家族で共和国に行くつもりだったのだが、アイリス、本当に魔導具づくりを本格的に学びたいのかい?」


「はい、今までは趣味の範疇でしたが、私の作った魔導具を幅広い人に活用してほしいですわ」


「ふむ、ならばアイリスは皇国に行かせるべきだな」


 皇国……王国と共和国の間にある国で、守護神による加護を重要視する宗教国家ね。


「あら? 学ぶのなら共和国でもいいんじゃないかしら?」


「共和国にある高等学園は入学に学園に1年以上通って卒業した者という条件があるのだよ。共和国にある他の学園は入学に年齢制限があるから、アイリスの年齢だと他国の学園を卒業した方が早いだろう」


 そうか、簡単に魔導具づくりを学びたいと言ったけれど、共和国でも魔導具なんてマイナーな学問を学ぶためには専門の高等学園に進むしかない。

 王子妃教育で通常の貴族はおろか、他国の王族並みに知識がある私でも共和国の法律を曲げることは出来ないしね。


「じゃあ、アイリスちゃんと一緒に皇国に行くのね」


「いや、皇国にはアイリスだけで行って、私たちは共和国で地盤を固めるのが良いだろう。皇国の学園は全寮制で家族であっても休日くらいしか会えないし、飛び級制度というか単位が足りていれば1年で卒業できるからな」


 確か皇国の学園は、入学時にテストを行い合格点を貰えなかった分野の単位を取得していく制度だったわね。

 テストですべての単位を取得した生徒は1年間、自分の好きな授業を取ってもいいし、他のことをしていてもいい、学園への登校義務があるから1年間は通わなければならないけれど、優秀な人間ほど直ぐに卒業できる制度のはずだ。


「全寮制ということは、私1人で行くのですね」


「待ってください。お嬢様1人での生活など無理です、わたしも同行させてください」


 あらら、私1人で皇国に行くつもりだったのだけれど、メイドのメリッサがついて来たいと言い出してしまったわ。


「私1人でも大丈夫よ?」


「お嬢様1人ではお料理もお掃除もできないではないですか」


「できないってことはないわよ。料理も掃除も専用の魔導具を作ったもの」


 そう、私の趣味で作った魔導具には料理用の物や掃除用の物もあるのよ。


「どういうものか、確認させていただいても?」


「料理用の物はね、材料を入れるとパンが自動で出来上がるのよ!」


「材料……お嬢様、パンの材料をご存じで?」


「料理人のバートンに聞いたから大丈夫よ! 小麦粉と水、あとは塩でしょ」


 私だって馬鹿じゃない。試運転の際にバートンに材料を用意してもらった時に確認済みよ。


「まあ、最低限のものはそれでできますが、お嬢様が食べていたパンには他にも材料が必要ですよ? それに、お嬢様、小麦粉には種類があることをご存じで?」


「種類?」


 メリッサは何を言っているのかしら? 小麦粉と言えば、あの小麦粉でしょ、あの白い粉。


「はあ……お嬢様。小麦粉にはパンに向く種類、お菓子に向く種類、麺類に向く種類とあるのですよ」


「えっ!?」


「ふむ、確かにこの様子では1人にするのも心配だな」


「待って待って、お掃除用の魔導具なら大丈夫だから! 水をセットすれば自動で汚れを取ってくれるものでね」


「お嬢様、家具の中には水にさらしてはいけないものもありますが、それはご存じですよね?」


 えっ!? 嘘!? お掃除って水をかけて汚れを落として拭けばいいんじゃないの!?


「その様子だと、掃除も1人では無理そうだな」


 お父様が笑いをこらえながら言ってくるけど、絶対お父様も1人で掃除も料理もできないでしょっ!


「ですので、わたしがお嬢様についていきたいと思います」


「旦那様、使用人は全員、旦那様についていきたいとのことでまとまりました」


「ふむ、家族も含めて全員か?」


「はい、旦那様が望めばこのままお仕えし、仕事がなければ旦那様たちの傍で別の職につきたいと」


「ふむ、共和国でもそれなりの屋敷に住むつもりだし、皆にはこのまま仕えてもらえれば助かる。だが、アイリスが皇国に1年間住むことになってな」


「聞いておりました、学園の寮ですよね。確かあそこの寮は、使用人用の部屋がついているはずですし、何人か連れて行ってもよいのでは?」


 待って待って、私の意見無視して勝手に話を進めないでよ! 確かに料理も掃除もできないけど……。


「お父様、私は1人で大丈夫です! 平民になったのだから何でも自分でやらないと!」


 私の決意が伝わったのか、クラウスもメリッサも私の言葉に開いた口が塞がらない様ね、ポカンとしているわ。


「……お嬢様、差し出がましいようですが、平民だからと言って何でも1人でやる必要はないのですよ。私も執事という職業柄、ある程度の掃除は出来ますが料理はできません」


「……そうなの?」


 あれ? でも、平民と言えば使用人を雇わずに生活しているのよね。


「平民は家族で協力して生活していますから、できる人ができることをやるということはありますが、全員が何でもできるわけではないですよ。独身で働いている者は料理は出来合いの物に頼る者も多いのですよ」


「では、私も学園でそうすればいいのね」


「アイリス、皇国の学園は貴族が多いから食材を分配されて寮でそれぞれ食事を作ることになっている。学園は中心街から少し離れているから、食事の度に店に行くのは不可能だぞ」


「では……」


「ですから、わたしをお連れ下さい。メイドですから、お掃除もお料理も、ある程度できるように仕込まれていますよ」


「ふむ、メリッサ1人では大変だろうし、他にも何人かつけるからその者たちと皇国の学園に通えばよい」


「む~~」


 確かに今の私では1人で生活するのは無理かもしれない。

 でも、絶対にいつか1人で生活できるようになって見せるから!

 なんて言ったって、私のこれからの目標は自立した女になることなんだからね!

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