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4話

 んもぅ! なんで、断ってるのに通じないわけ!? こっちはバッドエンドを回避したいの!


 部屋に戻ってから、私は不満をアデルにぶちまけた。晩餐のお食事? もちろん完食したよ。桃のソルベも全部キレイに食べました。おかげで、ドレスの下に着てるコルセットがパッツンパッツンになってる。


「どうして、断るなんて言ったんだ? 理由も話さず、失礼極まりない」

「理由はちゃんとあるわ!……あ、ちょっと待って……く、くるしい……これ、緩めてくんない?」


 誠にダサいんだけど、私、男の侍女のアデルにコルセットを緩めてもらいました。引かれてるかなーと思いきや、いつものポーカーフェイスでホッとする。


「ふぅーー……あのね、ラウルと結婚しようとすると私、殺される運命なのよ」

「とうとう、気が狂ったか」


 アデルのしゃべり方が侍女仕様じゃないのは、他の侍女たちには出て行ってもらってるから。この子、顔は超かわいいのに、素は毒舌キャラよね。ギャップ萌えってやつ? ひどいことを言われているのに私、ときめいちゃった。花びらみたいな唇を尖らせて、まつげパチパチさせるのやめよ? 瞳も宝石みたいでキラキラだし、目が離せなくなってしまう。しかもこの子、たいして化粧してないわよね? 毛穴がいっさい見当たらないんですけど、なぜ? 私、こらえきれなくなって、アデルのツルリとしたおかっぱ頭をナデナデした。


「うっ……なにをするっ!」

「いやね、かわいいなーって思って。やだ、照れて赤くなってるぅー」


 アデルってば、うつむいちゃった。案外、恥ずかしがり屋さんね。それを見てて漠然とだけど、もしかしてこの子、信頼できるんじゃない?って、私は思った。


「アデル、信じられないかもしれないけど、聞いて。私、元々はこの世界の住人ではないのよ。この世界は私のいた世界ではゲームの世界だった。だから、私は結末を知っている」


 アデルは顔を上げた。緑の瞳は(いぶか)しんでいる。私はその目をまっすぐに見返した。嘘は言ってないし、今の私には味方が必要だ。


「もちろん、バルバラの記憶はある。でも、人格は別よ。私はトラック……荷馬車のようなものね……それに轢かれて死んでしまったの。それで、この世界に転生した」

「証拠はあるのか?」


 黙っていたアデルが鋭い質問をしてきた。私は考える。うん、この世界の未来は少しずつ変わってきてるようだけど、いくつか予言はできる。


「今日、イズミール公とラウルはこの屋敷に泊まっているでしょう? 明日、ラウルは風邪を引いて高熱を出すわ。フローラは水色のドレスを着ると思う……それと、このあとすぐ地震がくる!」


 これ、なんで知っていたかというと、ゲームのイベントにあったのよ。今、フローラの奴、早速ラウルの部屋を訪れてるの。んで、地震がきて、二人の仲が急接近……


 凄まじい揺れに襲われ、私はバランスを崩した。鏡台の上の髪留めやアクセサリーがダダダダッと床に落ちる。鏡台の前に座っていた私は、床に突っ伏す寸前でアデルに助けられた。

 もう、ガッツリ抱き止められる感じ。見た目、金髪美少女なのにアデルってば、結構硬いの。やっぱり男の子なんだなぁって、妙に意識しちゃって、顔が熱くなった。


 揺れが止まってから飛び退くと、アデルも真っ赤な顔をしてる。私はごまかそうとして、


「き、着替えを手伝って! 続きは寝る支度をしてから話すわ」


 とは言ったものの、お互い意識しちゃってるのに、着替え手伝えってマズくないか。でも、アデルが真っ赤な顔で手を伸ばしてくるので、私は身を(ゆだ)ねた。

 もちろん、素っ裸は見せないよ? 上からダボッとしたネグリジェを着せられ、背後の開いたところから、緩めておいたコルセットを取り除く。はい、ノーブラです。

 めちゃくちゃドキドキした。


 ……で、ベッドに入って、すぐ隣の簡易ベッドで寝るアデルに続きを話した。天蓋付きベッドの下に簡易ベッドが入ってるから、引き出すだけなんだよね。距離は超近い。天蓋から垂れ下がるカーテンを引いたら真横にいる状態。男女がこんな近くで向き合って寝ていたら、いけませんよね。


 こんな状況下で私は、アデルに転生前のことやこれから起こることについて話した。ランタンの弱い明かりのせいかもしれないけど、アデルの顔から険が取れたような気がする。


 全部聞いてから、アデルは協力すると言ってくれた。



 翌日、私が予言したとおりラウルは高熱を出し、水色のドレスを着たフローラが看病した。

 私は父に再三、婚約をやめたいと掛け合ったが、取り合ってもらえなかった。フローラのほうがラウルとお似合いだと伝えると、


「だってぇ、フロたんは娼婦に生ませた子だから、公爵家には嫁げないよぉ」


 とのこと。このオヤジ、ときおりイラッとする話し方するな。しかも、売春婦に生ませたことを、堂々と悪びれもせずに言うな!

 ラウルも絶対フローラのことが好きだろうし、なんとかならないものかと私は頭を悩ませた。

 そして、アデルはあちこち飛び回って調査しているらしく、いないことが多くなった。地震の一件以来、いたら心臓バクバクしちゃうけど、いないと寂しい。


 アデルがいない間、変なことがたびたびあった。

 お気に入りのドレスが汚されていたり、部屋の物がなくなっていたり、動物の血で「死ね」と一面に書かれた紙がベッドの上に置かれてあったり──不気味だった。

 もちろん、一番疑わしいのはフローラなんだけど確証はない。普段のフワフワとしたかわいい所作からは想像もつかなかった。


 他の令嬢たちや使用人から、密告めいたものもあった。

 蜂の襲撃があった前日と当日、何人かの使用人が森でフローラを目撃している。邸内とはいえ、手入れが行き届いていない場所で、ドレス姿のお嬢様が入り込むことは珍しい。加えて、珍事の前後に、私の部屋の近くをうろついているのも目撃されている。


 令嬢たちからは、フローラが私の悪口を方々で言いふらしていることを聞いた。あと、ああ見えて男癖が悪いらしい。私が知らなかっただけで、色んな令息と噂になっているんだって。でも、これは噂話に過ぎず、本当かどうかはわからない。令嬢たちの嫉妬もあるかもしれないしね。私の悪口を言っているのは本当だろうけど、まあそれは、しょうがないかなぁと。だって私、フローラに意地悪だったから。


 そうこうしているうちに、運命の婚約パーティーがやってきた。


 私、この婚約パーティーで今までの悪事──フローラに対する嫌がらせの数々や不倫──をバラされ、イズミール公の奥様に殺される運命……

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