お見合い
二階にある部屋に通され、しばらく様子を見ることに。
「どうぞ、座って」
「ありがとうございます、アイン」
椅子に腰かけると、侯爵が静かに口を開いた。
「ミレヴァさん、どうやら息子とは上手くいっているようだな」
「アインは、とてもお優しく、立派な男性ですね」
「そうだろう。そこで、アインとお見合いなどどうかな」
やっぱり、そういう意図もあったのね。
でも良かった。
わたし自身、それを望んでいたのかもしれない。
コルネリウスから受けた傷は、まだ完全には癒えていない。
ぽっかり空いたこの穴を埋めるには……誰かの支えが必要だと感じていた。だから。
「お受けいたします。彼をもっと知りたいので」
「素晴らしい返答だ! ミレヴァさん、どうかアインとよろしく頼むよ。では、私はそろそろ用事があるのでね」
席を立つ侯爵。
彼は満足気に部屋を後にした。
となれば、次はエドゥアルトくんの件だ。
メイドの様子を伺う。
彼女は部屋の隅で待機している。
まずは観察をする。
発する感情を読み取っていく。
……なるほど、随分と“殺意”を感じる。エドゥアルトくんを殺めたいと思っているらしい。でも、どうしてそこまで。
「ミレヴァ、紅茶だよ」
「ありがとうございます」
さすがにアインの前では何も出来ないか。
その時が来るまでもう少し待っていようと思っていたけれど――。
メイドはわざとらしくエドゥアルトくんの頭上に紅茶をこぼした。
「あ、熱い……!」
「ごめんなさい、エドゥアルト様。手元が滑ってしまって」
ウソだ。
行動も言葉にも悪意がある。
このままではエドゥアルトくんが可哀想だ。
「止めなさい」
「……な、なんでしょうか、ミレヴァ様」
「あなた、エドゥアルトがお嫌いなのですか」
「そ、そんなことはありません。お使いする主様のご子息ですから……」
「では、嫌がらせは止めるのです。これ以上は、このわたしが許しません」
「な、なんことかサッパリ分かりませんが……分かりました」
素直に身を引くメイド。
彼女は部屋から出て行った。
いったい、なにが目的でこんな嫌がらせを。
「大丈夫、エドゥアルトくん」
「あ、ありがとうございます……」
顔を拭いてあげる。
嬉しそうに微笑むエドゥアルトくん。良かった、ヤケドはしていない。
「そ、その……ミレヴァ、僕からもお礼を言う」
「いえ、それよりもアインはなぜ見過ごしているんです?」
「そんなつもりはない。ただ、あのメイドは誤魔化すのが上手でね……」
それで対処に困っていたんだ。
なら、このわたしが追い払うしかない。