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気を取り直してそれからまた何かどうでもいい話を少しして、それが終わると、ふっと会話が無くなってリビングは静かになった。
といってもそれは別に嫌な沈黙ではなかった。北野勇作という作家が何かの小説で、この類いの沈黙について書いている。
何人かで飲んで酒が進み、皆がいい気分に酔ってくると、ふと会話が途切れる瞬間がある。しかしそれは気まずさとは無縁の沈黙で、皆にこにこしながらお互いの顔を見たりなんかして、何も言わずともそれぞれの気持ちが通じ合っている気がして――そういう沈黙が嫌いではない、と。
私たちに訪れたのはそういう沈黙だった。
恐らく三人とも懐かしい幸福な気持ちに包まれながら、テーブルを囲んで黙り、ときおりグラスを傾けていた。――私は昔のことを思い出した。
「懐かしいね、お義母さんがいたころさあ」
私は沈黙を破った。
「うん?」
義母が微笑を浮かべながら答える。
「こうやって三人で延々としゃべったよね。私の部屋で」
「……」
恵太は黙って焼酎を口に含んだ。