現実
エマ視点です。
離れというだけあって、イルヴァンの屋敷は本当にすぐそばにあった。
大きな玄関ホールにつくと、すぐに客間に案内された。
「お客様のお部屋はこちらです。すぐにお食事をご用意いたしますね」
そう言ってメイドさんは初対面の見知らぬ私にとても親切にしてくれた。
(メイドさん…本物、だよね。初めて見た…)
通された部屋に入る。
一人になる。怖くはない。さっきまでとは全然違う。
まるでホテルの一室のように整えられた部屋。
ちゃんと人が暮らしている、温度のある建物。
おそらく呼んだらすぐに駆けつけてくれるであろう使用人の人たちの気配。
でも――明るい屋敷で気づいてしまった。
ここは日本ではない。
ずっと暗い夜道を進んでいたから気づかなかった。違和感に気づきたくなかった。
ジークさんもイルヴァンさんも私が知っている人間の色をしていなかった。
とっても綺麗な髪色に瞳の色だったけれど…まるでファンタジーの世界そのもの。
私は純日本人。黒髪だし、瞳だって黒い。
だけど今会った人の中で同じ特徴の人はいなかった。
名前だって絶対漢字が当てはまらない。
夜空も、屋敷の庭に咲き乱れる花でさえも、私の知っているものではなかった。
(この世界に来たばかりだから――)
ジークさんはそうは言っていなかったか。
「異世界…?」
そんなこと現実にありえるのか。
「どうして…」
「エマ?大丈夫?ごめんね、ノックしたんだけど」
急にジークさんに声を掛けられて、我に返る。
「あ、はい…」
どうしよう。どうしたらいいんだろう。
「…疲れちゃったかな。少し食べて眠るといい――」
「あの!ここは…ここは日本ではないのですか?」
ジークさんの言葉をさえぎってしまった。でもこれがわからないと、休んだりなんてできない気がした。
「うん、そうだよ。ここは君のいた場所ではない」
断言された。何を言っているんだこの娘は、なんてそんな反応が返ってくることもなく、はっきりと。
(そうか…そうなのか)
「ごめんね、エマ」
なぜ謝罪されたのかはわからないけど、その言葉に、悲しそうに笑うジークさんの表情にまた涙が流れた。