外へ
エマ視点です
部屋を出て、最初こそ警戒したが人もいなければ誰かが生活していた形跡もない屋敷に恐怖は薄れていった。
「なんの建物なんだろ、ここ」
部屋数は多くはない。多くはないが、一つ大きなホールのような部屋があった。
もちろん例にもれずそのホールのような部屋も何も置かれてはおらず、ただ広いだけ。
そのホールの他に、申し訳程度の小部屋がいくつかあるようだった。
自分が寝ていたのもその小部屋の一つなのだろう。
屋敷自体、人が生活するようにつくられていないような――あのホールがこの屋敷の全てというような建物だった。
大きな玄関も他の部屋と同様に施錠されていない。監禁目的というには無防備だった。
おそるおそる――とはいっても、最初の部屋を出るときよりもずいぶんと気軽にドアを開ける。
「もうちょっと慎重に!」そんな言葉がなげかけられそうなくらい、今は床の軋む音も、ブーツのヒールがなってしまう音もあまり気にならなくなっていた。
屋敷の外――目の前に広がるのは手入れされた庭ではなく手付かずの自然。
芝といっていいのか、雑草というべきなのか微妙な草を踏みしめて外に出ると、そこには何もなかった。
ただ緑の木々に囲まれている。
時間はわからないが、まだ日は高そうだ。でもなんだか明るいわりに空気が重苦しい。
普通こういう場所って空気がすんでいて気持ちいいはずではないだろうか。
空を見上げても太陽が見えない。どちらへ行けばいいのか、わからない。
屋敷を振り返る。
なんとなくホテルとも病院とも、一軒家という表現とも合わないと思って屋敷と呼んでいたが…外観もやっぱり『屋敷』という表現がぴったりな造りをしていた。
「中にも外にも…誰もいない」
どうしようか。逃げるなら絶好のチャンスだ。
「行こう…」
それが正しいのかはわからないけど、ただこの場に留まり、誰かが来るのを待つというのは何か違う――そんな気がした。
***
ただひたすらに森を歩き続けた。
幸いなのは、屋敷を出たときは手付かずの自然といった風景だったが、人が通る道はしっかりと確保されていて、獣道を転がりながら歩くなんてことにはならなかったことだ。
しかしこの森…人はおろか、動物の気配もなかった。鳥や虫、風の音すらしない。
「喉渇いた…」
どのくらい歩いただろうか。なぜあの屋敷を手ぶらで出てきてしまったのか。
誰もいないのなら、せめて飲み水だけでも失敬してくればよかった。
それで犯人に出くわしてはいけないと、そそくさと出てきてしまったのだけれど。
そう思ったところで、それでも戻るにはもう長く歩いてきてしまっていた。
「とにかく…水を探そう」
水さえあればしばらくなんとかなるって、テレビでやっていた。
そうだ、映画なんかではこういうときにパニックになった人から消えていくんだ。
冷静に――冷静でいなければ。
……泣きたい。
もうこのとき、うっすら気づいてはいた。
ここは今まで私が暮らしていた場所ではない――。
私は一体どこに迷い込んでしまったのだろう。