目覚め
ヒロイン エマ視点です。
(あれ…なんだろ、なんか変な感じ)
いつの間に眠っていたのか。
目を開けると目の前はふさがれていた。
いや、外の明るさが透けて見える。
これはふさがれているというより、顔に布がかかっているのだ。
(なんで…?)
おそるおそる顔から布を引きおろし、体を起こす。
そこは簡素なベッドしかない個室だった。
ベッドといっても、枕もなければ自分にかけられているのも布団なんて呼んでいいのかどうかさえ怪しいような、簡素な布一枚。毛布と呼ぶには薄くて頼りない。
この布が頭のてっぺんから足の先までかかっていたようだ。
(顔にかけたら苦しいじゃん…薄くてよかった)
部屋にはそのほかにテーブルや椅子はおろか、カーテンすらない。
窓の外は日が高いらしく、明るい日差しがさしこんでいる。そのおかげでこんな殺風景な部屋でも暖かかった。
(ここどこ…)
そうだ。夕方…だったはずだ。
久々に両親が家に帰って来るから、外で待ち合わせて外食しようって話で。それで…?出かけた…よね?
出かけた先で…何かが…なんだっけ。
記憶をたどりながら、自分の体を見下ろしてゾッとした。
なぜ自分はこんな服を着ているのか。一体誰が着替えさせたのか。
驚いた拍子に、髪が一束胸元へと流れ落ちてきたことで、また体がこわばった。
後ろから見ても私だってわかるように、長く伸ばしていた髪が――確かに綺麗にまとめあげていた髪が、今ではもうボサボサになってほどけていた。
(……なんで…誰かが、やったの?)
この部屋には今、自分しかいない。
だが、この部屋に病院のような雰囲気は感じられない。
保護されている、わけではない。
『監禁』
まさか。冷や汗が流れる。怖い。
この部屋の外には一体誰がいるのだろうか。
この部屋から出なければ。ここから…逃げなければ。
耳を澄ます。
だが、人の声や物音は何も、何も感じられなかった。
「お、落ち着こう…」
すでに何かされた後なのだろうか。
自分の着ている服を震える指で確認する。
服といっても、よく見たら長いカーディガンのようなものだった。
その下にはちゃんと今朝着て出かけた服を着ていた。もちろん、下着もつけていた。
体に違和感もない。まだ乱暴されてはいないようだ。
「どうしよう…ここは?どういう状況?」
窓から見える景色は、なんだか自分たちが住んでいた町とは違って見えた。
そおっと板張りの床が軋まないように慎重に立ち上がり、部屋を確認する。
「あ…よかった、私の靴…」
ベッドの上にいるときには見えなかったが、ちゃんと履いていたブーツも置いてあった。
「室内だけど…土足でごめんなさいっ」
一応謝っておく。
監禁されているのだとしたら謝る必要なんてないだろうが、一応日本人なので。
スリッパも見当たらないし…なにより見つかってしまって、逃げる時に靴なんて履いていられないだろう。
窓にもドアにも鍵はかけられていない。
「ここに居続けるのは…怖い。外に出よう。外で誰かに会ったら、事情を話して…誰か」
そうしてまたしても慎重に忍び足でドアを開け、殺風景な部屋を後にした。