お姉様だけ王子としりとりするなんてズルいですわ!
「悪気は全くなかったのよ。良かったらルイズも一緒にしりとりする?」
ルイズは目を輝かせて首をブンブンと縦に振る。
「ルールは分かっているかい? 言っておくがやるからには一切手加減はしないよ」
容赦ない発言をするアランに堂々と胸を張って言い返すルイズ。
「随分私を見くびっていらっしゃるようですが、学園では一度たりとも負けたことがございませんから!」
(ライバル同士のように目線で火花を散らしていますけれど、どう考えても大人げないですよアラン様。まだ6歳の子供と必死に張り合ってどうするのですか……)
完全に妹と婚約者に置いてけぼりにされ呆れているイザベラ。
「ライオンはウサギを狩る時さえ全力を出すんだ!」
「誰がウサギですか! 噛みつかれてから後悔しても知りませんからね!」
「ねえ……永遠にしりとりが始まらない気がするのだけど……」
どちらも一歩も引かずに威嚇し合っているところに、苦い顔をしたイザベラがおずおずと話しかけた。
「戦う前のマイクパフォーマンスのようなものですよ!」
「ようやく舌が温まってきたな! なかなか良い勝負が出来そうだ!」
大胆不敵な笑みを浮かべるアランとルイズの二人。理解できないやり取りにイザベラは嘆息する。
「ルイズ様ぁ~!! 遊びましょ~!!」
幼等部の同級生である女子生徒が突然ルイズの名前を大声で呼びながら駆けてきた。
「助かって良かったな! 泣いて負けを認めなくてすむようにクラスメイトと切磋琢磨するんだぞ!」
「ぞんざいな扱いをなさったことをアラン様に必ず後悔させて見せますわ!」
別れ際までアランと挑発的な言葉を交わしていたが、学園の同級生に対しては少しはにかんだ笑顔で会話しつつ去っていくルイズを二人は温かい眼差しで見守る。
「ルイズが嬉しそうで安心しましたね。念願のお友達が出来ると良いのですが……」
『学園で一度たりともしりとりで負けたことがない』というルイズの台詞は事実だった。正しくは学園でしりとりをしたことがないので勝ったことも負けたこともないと表現するべきだが。
学園の同級生には貴族の子供達がおらず、ずっと周りから距離を置かれてしまっているらしく、口は達者なものの人見知りで引っ込み思案なルイズは友達が作れずにいたのだ。
「大丈夫だよ。要は今まで切っ掛けが足りなかっただけなんだ。だからきっと上手くいくさ」
「先程の子はアラン様が連れてきて下さったのですか?」
「彼女達が自分で考えて誘っただけだよ。四時間ほど前にルイズの同級生全員をしりとりでコテンパンにやっつけて、天下のしりとり王子である僕の次に強いのはルイズだと教えてあげたんだ。大分悔しかっただろうな」
「何をしていらっしゃるんですか! 仮想敵を作れば団結力が高まるとはよく言いますが、学園に未来の王太子が乗り込んで子供達を苛めたなんて噂が立ったら大変でしょう?」
「うつけ王子と呼ばれるくらいなんでもないさ。最高の未来の王太子である前に僕はイザベラの最高の夫でありたいんだ。だから君の妹のために全力を尽くさないことのほうが僕にとっては恥なんだよ」
「……よ、よくそんな歯の浮くようなセリフを口に出来るものですね!」
熱烈な愛の囁きを受けてイザベラは思わず憎まれ口を叩いてしまう。
「うつけはともかく『天下のしりとり王子』は流石にちょっと恥ずかし……」
「しょうがないだろ! 6歳の子供達の感覚に合わせようと頑張ったんだ!」
大のおとならしからぬ称号をからかわれ今度はアランが思いっきり赤面する番だった。
「たまに初めて会った日のことを思い出すなあ。あの頃は君もルイズに負けないくらい恥ずかしがり屋だったな。名乗った後にひたすら沈黙を貫かれた初対面のお茶会の時は、果たしてどうしたものかと戸惑ったなあ……あいたぁ」
「あの時の話は口にしない約束ですよ!」
蘇ってくる記憶を懐かしむと同時にアランはわざとらしく彼女を仕返しにからかう。腕を力一杯つねりながら抗議するイザベラ。
「乱暴はよくないんじゃない? ……今思い返せばあの時もしりとりをする流れになって、手に汗握る名勝負を繰り広げたね」
「音を上げるまで同じ文字ばかり返してくるアラン様の意地悪さには閉口しました……ただ勿論あなた様の機転と優しさには心から感謝しています」
「素敵な可愛い女の子の声をもっと聴きたいという下心が働いただけさ」
さりげなく薄っすらと赤みが差した顔を頬杖で隠すアランを見て微笑むイザベラ。
「……ライオン王子とそろそろしりとりがしたくなりました」
「たまには本気を出してみようかな」
「泣いても知りませんよ?」
「ようし、『しりとり』!」




