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WAR of Zodiac ~新星代胎動編~  作者: ゴマ天
序章・前日譚Ⅱ・ヴィカス
6/7

第三話:『紅魔旅団』

 ――燃え盛る炎がまたたく間にワタシのまわりを囲んでいく



「お嬢様! 早くこちらへ! 火の手のまわりが思ったよりも早いみたいですっ!」



 ――メイド服の彼女は……、だれ? でもワタシへ手を差しのべてくれる



「いたぞ! こっちだ!」



 ――あの鎧の者たちは……、だれ? どうしてワタシを追いかけてくるの?



「ちぃっ! おのれ下郎どもがっ! お嬢様に御髪(おぐし)一本たりとも触れさせはしませんっ!」



 ――メイド服の()が黄金の籠手(こて)を纏って鎧の者たちを打ち倒している



「この!メイド風情が!」



 ――鎧の者たちがまた増えた……。どうしてワタシを追ってくるの?



「くっ、多勢に無勢ですね……。お嬢様。ここはアタシが食い止めますので先にお逃げくださいっ!」



 ――ワタシはメイド服の()に促されるままに廊下の先へ駆け出したの……。そこからは、思い出せない……、……オモイダシタクナイ




▼△▼△▼△▼△




 ――ファルメール市街宿屋。


「戻った」

「あ、ヴィちゃん。おっかえりー。あれマーくんは?」

「マクベルなら別件で動いてもらうことにした」

「ほ~ん。……で、どうだったのー?


 今回の依頼遂行のための拠点としている寄宿舎に戻った俺に最初に声をかけてきたのは『紅魔旅団』の幹部紅一点のシャロンだった。


 ――『シャロン』

 こいつもマクベル同様に『紅魔旅団』設立からいる最古参の一人で、言動がちぃっとばっかし子どもっぽいが頭はキレる。

 髪はホワイトアッシュで肩付近まで伸ばしたセミロングで毛先が少しパーマがかっている。瞳の色は紫紺。

 背丈は150cmあるかないかくらいの小柄だが、その体躯を活かしての戦場を縦横無尽に駆け回り軽業師のような軽快な身のこなしで敵を屠る姿から『瞬姫』という二つ名を持っている。


「あぁ、まぁ。めんどくせぇーことになっちまったなぁ」

「あ~、やっぱしねぇ。んでどうするか、もう決めてるんでしょ?」

「そうな。とりま後で説明するわ。それよりも『彼女』の様子は?」


 『彼女』というのは今回面倒事になった発端。パガーニ商会から救助(つれ)だした奴隷商品だ。


「ん~。いろいろやってみてるんだけどね、全然反応がないの。可愛そうだけど多分心が死んじゃってるんじゃないかな」


 その可能性は俺も排除していなかった。あの事件であの娘はとてつもなく多くのものを失った……。

 おそらくはあの娘自身も、ここまで来るのに様々な暴力を受けたはずだ。

 その責め苦や陵辱で心が死んでもおかしくはない。


「……そうか。だとしても、あの娘を丁重に扱ってやってくれ。俺は……「はいはい! そこまでそこまで!」


 シャロンは俺の言葉尻を食い気味に被せてきた。


「別にヴィちゃんに言われなくてもあの娘はアタシや旅団の女性陣でかわいがってあげるから心配しなくても大丈夫だよ。……それにヴィちゃんもあんまり自分を責めちゃだめだよ」

「……そう……だな。それじゃ彼女のことは任せるわ。よろしくな」

「おまかせなんだじぇ!」


 シャロンのこういうところにはいつも助けられるな。明るい性格もあってシャロンは旅団のムードメーカーであり、またみんなの母親的な存在でもある。

 あんなにちっこい体躯なのに包容力が、っぱねぇんだよな。



 ――シャロンは俺自身を責めるなというが……。だとしても、俺はあの娘には償わなければならねぇことが山程あるんだ。あの時、俺は……。


 おれはほんの僅かだけ過去を思い出し、そのまま自分の部屋へ戻った。




「思った以上に面倒なことになってんなぁ大将。で、どうすんだよ明日は。思い切ってカチこむかっ!!」

「やぁめとけオーマス。ここでやったところで意味がねぇ。明日どうするかはこれから話すんだ」

「おおぅ! わるぃわるぃ! どうにもこうにもよ蒼星騎士団の奴らの話になるとジッとしてらんねぇんだよな」


 ――『オーマス』

 『紅魔旅団』設立時に俺についてきてくれた最古参の最後の一人。黒髪で頭の後ろで髪を束ねており、瞳の色は黒に近い焦茶。

 体躯は2メートル近くある巨躯で、引き締まった体には無駄な贅肉はなく徹頭徹尾戦いに特化した筋肉だ。

 その風貌からも分かる通り、こいつは『脳筋』思考だ。先日のパガーニの襲撃事件でもそうだったが守るよりも攻める方がその真価を発揮する奴だ。

 それにすげー一本気な性格で気持ちがいいが、ちぃっとばっかし暑苦しいところもあるんだけどな。


「オーちゃん。それ良くないよー。自重自重」

「おぉ、そうだな! 奴らに思うところは大将も同じだもんな!」


 シャロンがオーマスを諌め、話は明日の市庁舎への出頭の件に移る。


「まず、明日俺と一緒に行く二人は、デニスとアッシュだ」


 俺が二人の名前を言うとデニスはギョッとしたような顔に、アッシュは涼しげに頷くのが見て取れた。


「えっ! えっ!! 俺が一緒にいくんですかぃ!!」

「そうだ。みんなも知っての通り、俺等の正体を王国軍側に……、特に『蒼星騎士団』に気取られるわけにはいかねぇ。現状この旅団で古参組の顔については王国軍内に見知ったやつが居てもおかしくねぇんだ。俺の場合は風貌を『真言術(ルイン)』で変えてるからすぐにバレるようなことはねぇ」

「そうでしょうけど……」

「それによ、デニス。お前ファルメールに来てから色んな所に行ってここの地理を頭に叩き込んでんだろ?」

「えっ!? な、なんでそれを……。」

「ハッ。俺を誰だと思っていやがる」

「お……、おかしらぁ~!」

「そんでよ、条件としては王国軍との関係が薄い奴で且、万が一のときに底力を発揮できるやつ。それがデニス、アッシュ。お前らだ」


 おれはデニスとアッシュを選んだ理由を話すとデニスが感極(かんきわ)まっちまったみてぇだな。


「う、ううぅ……、そこまで俺っちのこと見てくれてたんスねっ!」

「おいおい、泣くなよ。いい年したおっさんがよ」

「うううう! 俺はまだおっさんて歳じゃねぇえっすよ!こう見えてもまだ21っすよぉぉぉぉぉ!」


 このデニスの年齢カミングアウトでその後暫く驚愕するものや同情するものなどで若干盛り上がったのは言うまでもないな。




 あらかた明日の計画を説明し終わり、皆各々の部屋へ戻っていってた。

 それから暫く経ってから、俺の部屋の扉を叩く音が響く。


「おぅ。開いてんぜ。入ってきな」


 扉が開いて入ってきたのはアッシュだった。

 まぁ、なんでこいつが俺のところに来たのかはだいたい予想がついている。


「あの場では話せなかったが、団長に一つ聞きたいことがあって来た」

「ああ。なんとなくは察してたさ。なんで『お前』を選んだのかってことだろ?」


 アッシュは顔色一つ変えずに淡々と話しだした。


「デニスが裏で何かをしていたのは俺も知っていた。だが、団長が言うようなことをしているとは思ってもみなかった。それに引き換え俺はそういうことはせずに通常任務をこなしていただけだ。なのになぜ俺を選んだ?」

「まぁ、さっきみんながいるところで話したとおりなんだがな」

「蒼星騎士団との関係が薄いということはわかる。だが万が一の時の底力は、俺にはないと思うが」


 ――『アッシュ』

 そう。そこだよな。アッシュは旅団に入団してからまだ1年も経っていない。だが入団後の仕事ぶりは無愛想ではあるが丁寧でしっかりとしたものだ。もちろん信用の置けるやつだけしか旅団には入れないから、基本的な部分としてはアッシュは信用のおける奴だ。

 こいつはイングラード西部でも珍しい少数部族の者だ。暗色長耳族(ダークエルフ)だ。体躯は180cmちょいくらいか?

 髪は綺麗な銀髪ロング。後ろで簡単に束に纏めているだけ。肌の色は青みがかった暗色肌をしている。


 じゃあなぜかということになるがそれは簡単だ。


「お前。『真言術(ルイン)』が使えるだろ」


 俺が言い放った言葉にアッシュはほんの僅か硬直した。まぁ本人は隠したがってるようだったし別に言いふらすことでもねぇから黙ってただけなんだけどな。


「まぁ、なんだ。あんま身構えんなよ。どうこうしようってわけじゃねぇよ。ただ今回の件でお前の『真言術(ルイン)』が役に立つと思ってな」

「団長はどこまで知っている?」

「悪く思わないでくれよな。お前がウチの団に入ったときも話したが、ウチの団がいろいろと訳ありだってのは知ってんだろ?」


 アッシュは静かに頷くのを見てから俺は話を続ける。


「その中の一つとして、ウチの団の古参は昔ちぃっとばかしやらかしててな。それ以降、身元が割れねぇ様にしてきたんだわ。んで俺等を追っかけてんのが王国軍。とりわけ蒼星騎士団はどうやら俺等の事が好きみてぇでよ」

「やらかした内容についてはまだ知らないが、俺たちは傭兵の集まりだ。人それぞれに事情があるのは理解している」

「そう言ってもらえると助かるぜ。そんでよ入団した団員のことは徹底的に洗ってんだわ。もちろんお前がどんな『真言術(ルイン)』を使うのかも知ってる。もしかしたら知らないのもあるかもしれねぇけどな」


 この話は実際、アッシュが使う『真言術(ルイン)』は把握している。だがそれが全てとは限らない。

 この王国で『真言術(ルイン)』が使えるやつは希少だ。どっかの國ではバカスカと『真言術(ルイン)』を使えるやつがわりと多くいるらしいが、それでもイングラード西部全体でみれば総人口に対して『真言術(ルイン)』を扱えるものの割合は少ない。

 故に王家に召し上げられてガッチガチの統制の元で息苦しく生きるか、貴族共の子飼いになるか、最悪戦争や害獣討伐といった道具として使い潰される。


「アッシュ。お前が使える『真言術(ルイン)』は『木系統』と『闇系統』だろ?」

「……。その通りだ。もともと暗色長耳族(ダークエルフ)はその祖先を同じとする長耳族(エルフ)同様、『木系統』ルインを得意としている。種族が分かたれた際に『闇系統』も扱えるようになったと云われている」


 この世界に存在する超常を発現させることができる術『真言術(ルイン)』。

 この真言術(ルイン)には大きく分けて『八系統属性(オクタグラム)』が存在する。

 『木』『火』『土』『金』『水』の基本属性に『光』『闇』の対極属性、そして『無』の属性を加えた八系統属性(オクタグラム)だ。それぞれの属性の特徴は読んで字の如しとなっている。


 『木』属性は別名『(メイ)属性』とも呼ばれている。

 生命の発生・生育などに対して作用し、主に治癒・治療方面に活用されている。

 だがそれだけじゃなくその作用を応用した戦術的な支援利用や場合によっては術対象を害することも可能だ。

 ぶっちゃけこの属性を極めている奴とやり合おうなんて思ったらまぁまず五体満足じゃぁいられねぇだろうなぁ……。くわばらくわばら……。


 『火』属性。この世界で最も戦闘で使われる真言術(ルイン)だ。

 まぁ、一番想像し易いんじゃねぇかな。燃焼させる・爆発させる・発熱させる、とにかく『熱』に関連するものならほぼ何にでも作用する。だからこそ最も攻撃的で厄介な属性だ。

 敵に『火属性』の真言術士(ルイナー)がいたら、何を差し置いても、犠牲が出ようとも、いの一番に潰さなきゃならねぇ存在だな。


 『土』属性もそこそこ戦闘で使われる属性だが、どちらかと言うと戦略的な事に良く使われるな。

 というのも『土』だけに大地に関わる事象に作用する。そのため戦場ではよく簡易砦や防壁など拠点設営のために活用されたり、戦闘や戦場でなければ街づくりに貢献したり、農業や治水なんかにも活用されていてわりと人間が生きていく上での活用範囲は広い方だな。


 『金』属性。実はこの属性は『無』属性もそうなんだがよく分かってねぇ属性だ。

 具体的に何に作用するのかわからねぇし、そもそもこの『金属性』を扱える真言術士(ルイナー)もすくねぇんだ。

 そのため、研究が全く進まねぇから一般的に『金属性』は"金屑(やくたたず)"と呼ばれている。

 まぁ、研究が進んでねぇから実際使える属性なのか、実はめちゃくちゃ優秀な属性なのかわかんねぇな。


 『水』属性に至っちゃぁ、身近に使える奴が一人でもいりゃぁ大助かりだな!

 なんてったって『水』に困ることがなくなるっ! 人間は『水』が無けりゃ生きていけねぇからな。どんな場面においても『水』の供給が安定して得られるってのは生きてるものにしてみりゃぁ最低限の『命』の保証が確定できるからな。そんなんだから『水属性』の真言術士(ルイナー)はどこに行っても"超"が付く厚遇で迎えられる。

 ただし、『水』に関わるものに作用することから水質・水量・水圧。これらが自由自在ってわけだ。まぁ戦闘用にも使い方によっちゃぁ暗殺にも使えるし、極論一つの都市国家そのものを壊滅させることもできる。

 案外おっかねぇ属性だったりもするんだよなぁ……。


 ここまでが基本属性と呼ばれる『五系統属性(ペンタグラム)』だ。

 次にこの『五系統属性(ペンタグラム)』からは外れる『光』と『闇』、そして『無』の三つの属性。


 『光』属性はそのまんまだ。

 現在分かっている範囲では、基本的に光に作用するってところは分かってんだが、何しろ『光』属性に関する『真言術句(ルイン・キー)』が少な過ぎるし、現存する『真言術句(ルイン・キー)』もすげぇ微妙なもんばっかりだ。そんなんだからこの属性が有用なのかどうかって話はまだ議論の余地があるとかないとか……。


 『闇』属性は『光』属性の真逆と考えられている。

 こちらも『光』同様に『真言術句(ルイン・キー)』が少ない。まぁ『光』と同じ状況だな。

 ただ、この属性をアッシュが扱えるってんならもしかしたら、もしかするかもと俺は踏んでる。


 そして最後の『無』属性。

 これについては全くの"謎"だ。まず『真言術句(ルイン・キー)』がこれまで一つも発見されてねぇ。故に本当に存在する属性なのかどうか研究・学会でも疑問視されている。

 だが、最古の文献に『真言術(ルイン)』の成り立ちが『八系統属性(オクトグラム)』と記されているため、研究師達はこの謎の属性を『無』属性として認知しているだけだ。


 ちなみに『真言術句(ルイン・キー)』ってのは『真言術(ルイン)』を行使するための『紡の三句』の定型句のことだ。 この定型句があることで"源霊魂(マナ)"を有している人間ならその定型句の『真言術(ルイン)』を使うことができるってぇ代物だ。

 昨今の研究でこの『真言術句(ルイン・キー)』の句の組合せを変えることで本来とは別の効果の『真言術(ルイン)』を発現させることが可能であることが分かった。

 ただ、古来から存在する強力な『真言術(ルイン)』もあるんだが、そういったものは代々その部族や氏族の間のみの口伝が多いらしい。


「であればだ。これは俺の予想だが、お前の真言術(ルイン)を応用して相手を縛ったり行動を阻害したりすることができんだろ?」

「……その通りだ。そういった応用も可能だ。……なるほど、なんとなく分かった。もしもの時は俺の真言術(ルイン)を使って相手の動きを止めろということか」

「ご明察だ。その隙にデニスが蓄えたファルメールの地の利を使うって寸法さ」


 ここまで話してアッシュの口角が上がったのを俺は見落とさない。


「団長。あなたは聡明だ。団員のことをよく見ている」

「おだてんなよ。こそばぃーな」


 アッシュは満足したのか(きびす)を返して部屋を出ていこうとした。出る間際。


「団長。俺はあなたのところに来て正解だった」


 そう言い残して俺の部屋を出て行っちまった。


 俺……、あいつにそんなに気に入られるようなこと言ったか?

 まぁ、あいつが満足したんならそれはそれでいいか……。


 さぁて、明日はどうなるかねぇ。なるようにしかなんねぇか……。


お待たせですっ!先週に続き、WoZ小説版ヴィカス編第三話となりますっ!


今回はヴィカス率いる『紅魔旅団』の成り立ちの一端と真言術(ルイン)の属性について詳らかになります。

やっぱこういう設定周りの話を書くのはたのしぃ!


まだまだ遅筆ではありますが、引続き小説版『WAR of Zodiac』を只々楽しんでいただければ嬉しいのです!

その上で評価ポイントやブックマークしていただけるとワタクシ!

飛んで跳ねて発狂しながら喜びますので何卒何卒!!


同名アプリゲーム『WAR of Zodiac』も気にかけていただけると嬉しみっ!




●WAR of Zodiac ダウンロード

▼iOS

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▼Android

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●ゴマ天Twitter

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●WoZ公式Twitter

https://twitter.com/pj_WarofZodiac_

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