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WAR of Zodiac ~新星代胎動編~  作者: ゴマ天
序章・前日譚Ⅱ・ヴィカス
4/7

第一話:『赤い悪魔』

 溢れんばかりの群衆によって埋め尽くされた大広場。無数の罵倒や侮蔑の言葉が飛び交う……。


 ――いつぶりだ……。ここ最近は見ないと思ってたんだけどな。


 大広場中央に禍々しく据え付けられた断頭台(ギロチン)が2つ。そこへ執行人によって連行される二人の女性。壮年の女性とまだ年端の行かない少女が死の舞台へと歩を進めていく。

 大広場に集まった無数の群衆からは汚物や石、ありとあらゆる罵詈雑言を浴びせかけれらながら……。


 ――与えられたものを与えられたままに、自らその真偽を知ろうとしない、ただただ物事を消費するだけのクソどもが。


 二人の女性が死の舞台へ上がると群衆は更にヒートアップしていく。

 緻密な模様の金刺繍が施された豪奢なローブを身に纏った神官風の男が断頭台(ギロチン)の前に立ち群衆に向けて何かを朗々と語り始める。

 二人の女声は神官風の男の語りに合わせて断頭台(ギロチン)に頭を垂れ固定されていく……。そして斧を携えた執行人が、今まさに二人の女性の首を断たんとして佇むギロチンの刃を支えるロープの前に立ちはだかる。


 ――やめろ……。


 その時。突如として鋭い矢が放たれ、(あやま)たず執行人の頭部を射抜き糸の切れた人形のごとくその場に崩れ落ちた。

 群衆の中からみすぼらしい外套を羽織った数十人の者たちが断頭台へ殺到し、断頭台を守護していた警護兵と衝突。その場は一気に阿鼻叫喚の戦場と化す。

 野次馬の群衆は我先にとその場から離れようとするも、あまりの人の多さに思うように避難することができず断頭台の近くを陣取っていた者の中には戦闘に巻き込まれるものも出てしまう。


 ――やめろ……。やめろ……。


 闖入者は警備兵との激しい戦闘を繰り広げながらも徐々に断頭台へ近づきつつあったが、逃げ惑う群衆を無理矢理にかき分けて大広場のを囲うように新たな一団が現場に駆けつけてきた。

 その一団は一様に蒼の外套を身に纏った騎士たちで闖入者たちを背後から攻撃を開始する。

 警備兵と騎士たちの挟撃を受ける形となった闖入者たちは次々に切り捨てられるか取り押さえられていく。


 ――その先はっ! もうやめろっ! やめてくれっ!!


 乱戦の中から闖入者の一人が抜け出して断頭台へ向けて走り込むが同時に断頭台(ギロチン)の前に巨躯の騎士が立ちはだかる。二人は何かを言い合った後、激しい剣撃が繰り広げられる。

 巨躯の騎士に阻まれその先へ進めない闖入者だったが、その間に断頭台では新たな執行人が登壇し死を司るロープを……断った……。


 ……断頭台(ギロチン)(あぎと)は二人の女性に牙を立てた……。




 これは『夢』だ。クソッタレな『夢』だ。

 この『夢』を見る度に視界がチカチカとなにかが弾ける。どうしようもない怒りと殺意が沸き起こる。そして……。反吐が出るほど胸糞が悪くなる。

 だが。この『夢』は俺に生きる意義を再確認させてくれる……。絶対に風化させちゃぁならねぇ『記憶』と『想い』と共に……。


 ――この『国』はこの俺の手で……。ぜってぇに『ぶっ殺す』




▼△▼△▼△▼△




「お頭ぁー! ヴィカスのお頭ぁー!」


 ゔぁ~。クソが。久々の『悪夢』の所為(せい)で寝覚め最っ悪だぜ……。

 しっかも、モーニングコールが野郎の濁声(だみごえ)ってな……。


「……デニスか。っんだよぉ。っるっせ~なぁ」

「あっ、すいやせん。お休み中でやしたか。依頼人がようやく時間が取れたってんで館へ来てくれって。さっき使いの奴が来やして」

「あぁ~。やっと来やがったか。クソが待たせやがって。……っで、いつだ」

「そ、それが。この後すぐにと……」

「あ゛ぁ!? てめぇ何舐められてんだ……。この商売舐められた終わりなんだぞ」

「す、すいやせん。た、ただ待たせた分の詫びはすると言ってやしたので……」

「そういうこっちゃねぇんだよ。……ちっ。ったくよぉ。とりあえずわかった。支度したら商会へ向かう。『マクベル』呼んどけ」

「へいっ!」


 ――『デニス』

 こいつはまだ俺たち『紅魔旅団』に入って間もない団員だ。見てくれは茶髪の短髪でモミアゲがヒゲと繋がっているおっさん顔。

 だが本人曰くまだおっさんじゃねぇとのことが言動がおっさん臭いんだよな。体躯は170cmを少し超えるぐらい。瞳の色も茶色だ。

 ただ根はいいやつってのは確かで細かなところまで気配りできる、まぁいろいろと便利なやつではある。


 今俺たち『紅魔旅団』は、イングラード西部・北地方の衛星商業都市『ファルメール』に傭兵ギルドからの『指名依頼』を請け負って数日前から滞在している。


 俺が率いる『紅魔旅団』は、所属する『傭兵協会イグラファンギルド』で定められた7段階の格付けの上から2つ目のランク『白金(はくきん)』に位置する傭兵団だ。

 格付けは所属するギルドによってまちまちだが、イグラファンギルドでは上から順に『黒金(こくきん)白金(はくきん)、金、銀、銅、青銅、木』となっている。

 俺たちが受けている『指名依頼』は基本的に所属するギルドが定める格付けの上から3つ目までに格付けされた特定の傭兵団に対してギルドから指名を受けて出される特殊任務といってもいい。


 イグラファンギルドの本営店は今いる『ファルメール』から馬車でおよそ5日の距離にある『グラメルベ』という中都市国家にあり、俺達もそこを活動拠点としている。


 今回は『グラメルベ』で待機状態だった金等級以上の傭兵団が俺ら白金等級の『紅魔旅団』と金等級の傭兵団が2~3いた程度だった。まぁ、必然と等級の高い俺らにお鉢が回ってくるのは当たり前っちゃぁ、当たり前だわな。

 商業都市で行われる『オークション』の警護って話なんだが報酬がべらぼうに高くて割がいいもんだからついつい受けちまったわけだ。




「……。なぁ、マクベル。ドミニンク商会ってよぉ。つい2~3年前までは卯建(うだつ)の上がらねぇ仲卸業者だったよな。それがまぁ、なんというかねぇ。こんな短ぇ時間でここまででかくなれるものかねぇ~」

「そうですね。その頃に当時の商会会頭だった、父親の『ラッセル・ドミニンク』が長子の『ラーヴェ・ドミニンク』にその座を譲ってからは破竹の快進撃で大中都市国家の流通網を掌握。その後、流通に対する様々な事業に投資した結果、本業の仲卸以上に利益を上げたみたいですね」


 ――『マクベル』

 こいつは『紅魔旅団』結成前から俺に付いてきてくれた幾人かの仲間の一人だ。

 身長は180センチと長身で少し青みがかった銀色で短く刈り上げた髪に碧眼。実に実用的な筋肉で引き締まった体躯。頭脳明晰、冷静沈着な上、ポーカーフェイスなもんだから初対面だと無愛想で冷徹に見られがちだが面倒見のいい兄貴肌な奴だ。その頭脳は軍略、戦略戦術、交渉に長け、『紅魔旅団』3人いる副団長の内の一人で、軍師にして参謀だ。実に頼りになる男だよ。


「ほぅ……。流通ねぇ……。行商人共をまとめ上げたんかね?」

「それもありますが、都市国家間の流通だけでなく都市国家内での流通、というよりも配達といったほうが良いでしょうか。そういった末端の流通を掌握したことが功を奏したようです」

「へぇ~。……面白いこと思いつくじゃん。そいつ」


 俺とマクベル、あと二人ほど団員を引き連れここ『ドミニンク商会』に訪れた。

 まぁとにかく馬鹿でけぇ豪奢(ごうしゃ)な館なんだわなぁこれが。たった2~3年でこれをおっ建てんだ。とんでもねぇ商才の持ち主だぜ。その『ラーヴェ』ってやつ。

 ……にしてもよっ! 敷地正門から館の正面玄関まで距離ありすぎだろうがっ! 歩かせんじゃねぇよまったく‼




「ご足労いただきまして、ありがとうございます。お待ち申し上げておりました。私、当家筆頭家令のスタンレーグと申します。以後、お見知り置きを」


 頭の天辺からつま先に至るまで、見事なまでにビシッと決まったこれぞ『執事』って感じの初老の男。

 ……この執事。軍か傭兵上がりだな、重心の移動や隙きのない動き。一介の召使いの雰囲気じゃねぇ。こういう奴を見るといちいち思い出しちまうな……、あいつのことを……。

 懐かしくもあるが忌々しさもある……。


「まったくだぜ。こんだけ広ぇ~なら馬車でも用意しとけよなぁ」

「ご指摘痛み入ります。今後の来訪者のため、前向きに検討させていただきます」

「お~ぅ。是非そうしてやってくれや。できれば次来る時までに頼むぜ」

「善処いたします。それでは我が主がお待ちしておりますのでこちらへ」




 応接間に通されたはいいけどよ。敷地内も馬鹿広かったけど、屋敷の中も阿呆ほど広ぇ~な。しかも天井が高ぇよ。まぁ、『彼処(あそこ)』と比べちまうと見劣りすっけどな。


「大変お待たせしましたね。ようこそおいでくださいました。当ドミニンク商会会頭のラーヴェ・ドミニンクと申します。この度はどうぞよろしくお願いしますね」


 応接間に着くとそこには豪奢な衣服ではないが、明らかにその素材は高級なものを使っていることが一目でわかるローブを纏い、眉目秀麗といって過言ではない整った顔立ち。アッシュブロンドの髪をうなじで束にまとめた……。まぁとりあえずは『二枚目』だな。

 街中を練り歩ったらあちこちから黄色い歓声が上がりそうだわ……。ケッ!!

 さぁて、ビジネスの話と参りましょうかね。




 ――その夜……。


「その『オークション』ってのが……。まさかの『奴隷市』かよ。あんのクソハゲが」


 ついつい悪態を()いちまった。『奴隷商売』についちゃぁ、別に違法でもなければ合法でもねぇ。まぁグレーな商売には違いねぇけどやっちゃいけねぇってことはねぇ。

 ただ世間様的にはあんまいい顔されるような商売じゃねぇってことは間違いねぇけど、商売になるくらいだ。需要だってしっかりある。

 まぁ、奴隷に対する需要なんてもんは胸糞悪ぃもんがほとんどだが、運が良けりゃいい主に当たることもあるからなんともなぁ……。


 どちらにせよ、『指名依頼』が警護の割に報酬がいい理由がわかったわ……。


「何が依頼詳細は現地の依頼主に聞けだ。畜生が……」


 ちなみに『クソハゲ』とはイグラファンギルドの依頼斡旋部署の部長でずんぐりむっくり肥満体型で口臭がヤバ気なハゲ親父の『ナルメル』のことだ。

 戻ったらとりあえず一発ぶん殴る。


「団長。よろしいですか」

「ああ。なんだマクベル」



「今回の指名依頼について、『影』達に調べさせたところとんでもないものを見つけましたよ」

「へぇ~……。表向きは仲卸で大中都市国家への物流を何本も持つ新進気鋭の『ドミニンク商会』様……。さて、裏でなぁにを隠してたんだ?」


 この時俺はてっきり依頼主の『ドミニンク商会』の後ろ暗い証拠でも掴んだものだと……、それを出汁になんかあったときに強請(ゆす)るってのもいいな。なぁ~んて考えていた頃が俺にもありましたとさ。


 ――だが、返ってきた答えに……。


「……。団長が追っていた『捜し物』です」


 『捜し物』その単語に俺は思わず全集中で反応しちまった。


「真か?」


 俺は思わず昔の口調で話していることに気づかないほどに動揺しちまったぜ……。


「ええ。間違いないかと。現在は『パガーニ商会』のファルメール支部本店地下の奴隷倉庫に他の奴隷と一緒に繋がれているようですが、近日中にドミニンク商会へ卸されるようです。……あと、団長。言葉遣いが『変』ですよ」

「……おおぅ。俺としたことが。っかし、パガーニ商会か……。こりゃまた大物が引っかかったなぁ。それで『捜し物』がどういう経緯でパガーニ商会に流れてきたんだ?」


 『パガーニ商会』

 イングラード西部・中央一帯を治める大都市国家『イルヴァリス・キングスレイ王国』首都・イルバレン。その首都に本営旗艦店を置く王国でも5指に入る大商会でその興りは『抗魔戦争』終結後で、およそ100年の歴史を持つ老舗だ。

 まぁ、ここまでの道程(みちのり)が清廉であるはずがねぇんだがな。事実、パガーニ商会は裏ではあまりおおっぴらには言えねぇような悪でぇことにも手を染めてっしな。


「入念に調べたのですが、どうやら偶々(たまたま)のようですね。誰かの意図するものは見つかりませんでした」

「……妙だな。『奴ら』にとってアレは生きてちゃ困るもんだろ。奴隷として売っぱらうにはリスクが高過ぎる……。こりゃぁ……、『奴ら』にとっても想定外が起こった可能性があるな」

「確かにその可能性が高いでしょうね。『奴ら』としては実にお粗末としか言いようがありません」

「だが、僥倖だ。『奴ら』の中で『何か』が起こってんなら起こってるでこっちにしてみりゃぁ好都合だ」

「いかがいたしますか?」


 マクベルの眼光が鋭く光る。俺はその意図を汲み言い放つ。


「俺がなんて呼ばれてっか知ってんだろ?」

「『赤い悪魔』ですか……」


 俺はほくそ笑みながら言い放つ。


「へっ……。『赤い悪魔』らしく。掻っ攫うぞ!」


 一瞬、マクベルが柔らかい微笑みを見せたような気がしたが気にしないようにした。


「御意。では直ちに!」


 何が何でも『奴ら』よりも先に……。『彼女』を手に入れる!!


▲更新▲

【21/11/10】続話における内容に伴い文章を追記しましたっ!



今回も最後まで読んでいただき有難き幸せぃ!

有り難み深しでございますぅ!


さてさて! お待たせしました。

今回から新たな主人公ヴィカスくんのストーリー開幕ですっ!


ダークヒーローって書いてて楽すぃ~(笑

ヴィカス編はマシロ編と打って変わってわりとシリアス調な話が多めかもですね。

果たしてヴィカス編はどんなお話になっていくんでしょうかっ!


引続き、小説版『WAR of Zodiac』を只々楽しんでいただければ嬉しいのです!

その上で評価ポイントやブックマークしていただけるとワタクシ!

飛んで跳ねて発狂しながら喜びますので何卒何卒!!


もちろん同名アプリゲーム『WAR of Zodiac』をダウンロードして末永く遊んでいただけるともっと嬉しいのです。


●WAR of Zodiac ダウンロード

▼iOS

https://apps.apple.com/jp/app/war-of-zodiac/id1454610929?l=ja&ls=1


▼Android

https://play.google.com/store/apps/details?id=com.eden.woz


●ゴマ天Twitter

https://twitter.com/earthouse73


●WoZ公式Twitter

https://twitter.com/pj_WarofZodiac_

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