第三話:『そして、白麗の烏天狗は、お姉様に……?!』
▼前回あらすじ
・訓示会場で新米の後輩たちに侮られ卒塾主席巫女さんに因縁をつけられてしまいました
・唐突なお館様登場でみんながビックリドッキリ!!
・なんやかんやで卒塾主席巫女さんと実戦形式の試合することに……
「マシロさん。でしたわよね?」
「ええ。マシロです」
「『卒塾』したてだからといって、あまり甘く見ない方がよろしくってよ。大怪我をされては先輩としての尊厳や今後の任務にも関わりますので」
「ご忠告ありがとうございますマキラさん。それではそうさせていただきますね」
「……そのすました態度。いけ好かないですわね」
見下す視線に今度は明きあらかな『敵意』も込められ始めましたね……。
「それでは両名。よろしいですか?」
戦闘技鍊の審判は、百目木さんが買って出ていただけました。たしかに、卒熟したばかりの新巫女さんにはこの戦闘技鍊の審判は荷が勝ちすぎますね。
いろいろな意味で……。
「私はいつでもよろしくってよ」
「私もいつでも大丈夫です」
「それでは両者ッ! 尋常に勝負ッ!!」
技鍊が開始されると同時にマキラさんが動きます。
その動きには全くの無駄がなく、戦闘だというのにその動作は流麗であるにも関わらず実に合理的です。
そのためか速さ的にはそれほどでもないのですが、動作と動作の間に溜めがなく、無拍子であるため、並の相手であれば彼女の動きを認識してからでは後手に回らざる負えなかったでしょう。
マキラさんは瞬時にして私の間合いに侵入してきます。
この時、既にマキラさんの上半身は左方にひねり、払いの一撃の体勢になっていました。
私は考えるまでもなく、認識するまでもなく、慌てるまでもなく、ただただマキラさんが詰めた間合いをほんの半歩後ろへ下がり外します。
次の瞬間。
私の目の前をマキラさんの手刀が空を切ります。
「!?」
マキラさんの顔は驚きの表情に染まります。
彼女としては完全に間合いを詰め己の攻撃範囲内にしっかりと私をおさめたのだと思ったのでしょう。私が半歩下がり間合いを外したことに気がついていないようです。
もしかしたら手刀が私の顔を素通りしたように見えたのかもしれませんね。
そこからの次の動作も見事なものです。マキラさんは後方へ跳び、私との間に十歩ほどの間をあけますが着地と同時に地を蹴り一気にその間を『零』にしてきました。と同時に初撃、鋭い左正拳突きが放たれます。
私はその正拳突きを避けずそっと左手の甲で軌道を逸します。
これを口火にマキラさんは怒涛の連撃を繰り出してきたのです。
左右連続の拳打。
私はそれを初撃同様に軌道を逸し、受け止め凌ぎます。
拳打からの運動法則や力の流れを上手く下段に流し込みながら放たれる下段蹴り。今度は後方へ軽いステップで躱します。
それを見越していたマキラさんは素早く体勢を戻し再び、今度は先程よりも鋭い渾身の左正拳突きを放ってきました。
私は彼女の力の流れに逆らわず体軸を中心として、左手を突き出された左拳に添えるように反時計回りに『彼女自身』を巻き込むように回転。それと同時に彼女の左手首をつかみ軽く捻りながら回転を途中で止めます。
マキラさんの身体は空中に綺麗に弧を描きながら、その背から地面に向かって強かにうちつけました。
「……っぐ! かはっ!!」
地面にうちつけた拍子に肺の空気が全て強制的に吐き出されたようです。
一瞬ですが呼吸に難儀したようですがすぐに次の行動に移りました。流石は三年連続主席なだけはありますね。
マキラさんは、倒れた状態から足を大きく旋回させて私を牽制しつつ、旋回の遠心力を利用してすぐさまに立ち上がります。
この一連の打ち合いにその場にいた新巫女さん達は、一様に目を見張り驚愕の表情を浮かべ技鍊の成り行きを見守っているようでした。
百目木さんはなにやら興奮しながら私を応援しているようですね。お館様に至ってはそれはもうとても楽しそうに見守っております……。
「ハァ……。ハァ……。一体どういうことですの!?」
たった二度のぶつかり合いでしたが、マキラさんはだいぶ消耗していますね。おそらくは体力的な消耗ではなく精神的な消耗が激しいのだと思います。
戦闘とは思いの外、精神力を使うものです。それは実戦も訓練も変わりありません。
戦闘中は常に相手の『呼吸』『動作』『気配(気の流れとも言います)』『目線』『重心』など様々な情報を一瞬一瞬で感じとり『先手』『後手』『受け』『返し』とそれまで自身が培ってきた武を以って制しなければなりません。
ただそこには大きな『落とし穴』があります。人である以上、『感情』というものがつきまといます。
この『感情』が戦闘に必要な先の要素にフィルタをかけてしまう場合があるのです。それは時として実戦では致命的な『落とし穴』に成り得てしまうのです。
ここでようやく思い至ったのでしょう。マキラさんの顔つきがこれまで私に向けていた『見下し』の表情が消え失せ、代わりに『真剣味』がさしてきました。
「……認めますわ。確かに貴方は先達の戦巫女であることは間違いないようですわね」
「ようやく認めてくださいましたね。ありがとうございます」
「であればこそ。先達様のお胸を借りるつもりで全力をださせていただきますわ」
私に対する侮りはまだ若干あるものの、すぐさまに状況を踏まえて評価を修正し、戦況を組み立て直す思考的柔軟性。本当に優秀な娘です。
そしてマキラさんの次の一手。マキラさんの内に秘める“源霊力”を一気に開放させてきました。つい先日まで本当にこの娘は『修練巫女』だったのでしょうか。開放された“源霊力”が可視化されるほどに濃密に彼女を覆います。
「先達様。しっかりと『避けて』くださいましね」
なるほど……。予め『避けて』ということと今目の前で見せつけられている“源霊力”の強さから察するにかなりの強力な真言術を放ってくるようですね。
大人気もなく少し対抗心に火が灯ってしまいました。
「その意気や良しです。いいでしょうマキラさん。貴方のその一撃を真正面から打ち砕いて差し上げます」
「……ッ。余裕でいられるのも、今この瞬間までですわ!」
マキラさんは両の手を自らの前にかざし可視化された“源霊力”を集中させます。
その集中力と“源霊力”を練り上げる速度は相当なものだとひと目で分かります。どうやら必殺となる術を繰り出すつもりですね。
私はうしろ腰に挿していた羽団扇を手に取り自然体で術が完成するのを待ち構えます。
「“赫炎なる炎の理”……」
マキラさんが言い放った真言術の初句を耳にして、これにはちょっと驚きです! まさかの火属性・真言術でも上位階位の初句です。
とてもではありませんが『修練塾』を卒塾したばかりの新巫女が扱えるようなレベルではありません。
そして合点がいきました。だから『避けて』なのですね。彼女自身が今放とうとしている真言術を完全に制御できるわけではないようです。
とはいえ、まがりなりにも『天風』の名を冠する私です。『この程度の術』など、どうにかして見せないことには示しがつきません。ちょっとだけ本気を出してみせましょう。
さて、マキラさんは真言術の句を紡いでいきます。
「“赫炎なる炎の理”……“世の気を歪め熱し現せ”……“蒼炎華”!」
火属性・真言術全十二階位の上から四番目、第四階位の術系統が一つ!
想定通り、彼女自身この術を完全に制御しきれているわけではありませんね。
『蒼炎華』。本来ならば術をかける対象を中心として巨大な蒼い炎が猛烈な勢いで燃え上がり焼き尽くす術です。
その様相は術の対象自体が一つの蕾のようで、その蕾が一気に華開くような美しい燃え広がり方をするところからその名がついたとされています。
ただ、彼女が放った術は私に発現する少し手前の空間で一気に発現してしまいました。ですがその威力は第四階位の術系統なだけはあります。
発現した場所を中心に猛烈な蒼い炎が空気ごと燃やし尽くさんと爆発的に燃え広がります。
「……はぁ、はぁ、はぁ。……勝ちましたわ」
マキラさんは自身の勝利を確信し、またその光景を目の当たりにした他の新巫女たちもマキラさんの勝利であると思ったことでしょう。
次の瞬間までは…。
――羽団扇、一薙横一閃。
私は只々羽団扇を水平に横薙ぎし“蒼炎華”をいともたやすく打ち消したのです。
「……なっ!? そんなっ!! 私が扱える最上級真言術ですのよっ!! それを羽団扇の一薙ごときでっ!!」
驚き慄くマキラさんを他所に、私は己の内に宿る“源霊力”の一部を開放します。
その瞬間、簡易結界で守られているはずの中庭に微弱な振動がおこります。
突然の揺れに新巫女たちが軽くパニック状態になってしまっています。ちょっと、申し訳ないですね。
「……う、うそ。なんですの……、この“源霊力”量……。冗談ではありませんわ……、ただの戦巫女でもこれほどまでの実力をもっているものですの?」
マキラさん。ごめんなさい。私がちょっとアレなだけなのです。
この技鍊が終わった後で弁明が必要ですね。
では真言術の句を紡いでいきましょう。
「“集え全能なる力の理”……」
「!? ちょっ!! その初句はっ!?」
先程は私が驚かされましたが今度は私の番です。しっかりと驚いてくれたようですね。ちょっとだけ胸がすきました。
とはいえ、初句を聞いただけで私の術がどれほどのものかを瞬時に理解できたようですね。
真言術には特定の規則が有るのです。
それは『初句』『内句』『結句』の『紡の三句』です。
使用される真言術の階位は『初句』で決定されます。
次に『内句』により真言術の指向性が定まります。
そして最後の『結句』では『初句』と『内句』を受けてそれらにふさわしい『術名』によって真言術が完成するのです。
この時、真言術の句を紡いでいる最中、『初句』『内句』『結句』に応じて術者が開放した“源霊力”がまるで『紡の三句』に吸われていくような感覚で消費されます。
なので上位階位且つ強力な真言術を使うためにはそれ相応の“源霊力”が必要となるのです。
ちなみに『集え全能なる力の理』の『初句』は、『属性非限定第三階位迄』を指定する『初句』の一つです。
『初句』を聞いて即座に真言術の脅威度を判断する。これを戦闘中に判断できるというのは戦巫女の中でも上官位相当の技能です。
重ねてですが、本当に素晴らしい娘。だからといって止めはしませんけどね。
「“集え全能なる力の理”……“渦巻く暴風は須らくを呑み干す”……“暴龍渦風”」
私を中心として、猛烈な暴風があたりを呑み込んでいきます。
この術に囚われれば最後。重力感を失い上下左右の感覚も失われ吹き荒れる猛烈な暴風により、とにかくシッチャカメッチャカにされてしまうのです。そしてシッチャカメッチャカにされた後、暴風から弾き出されるようにして相手を吹き飛ばす術なのです!
暴風に囚われたマキラさんはどうやら意識を失ったようですね。
私は彼女が吹き飛ばされる前に術を解除。マキラさんの戦闘不能がくだされ、戦闘技鍊は私の勝利で幕をおろしたのでした。
▼△▼△▼△▼△
その後どうなったかと申しますと、いろいろとありまして暫く【本邸】の方に詰めることになってしまった私です。
「おねぇ~さま~! お待ちくださいまし~♪」
百目木さんと回廊を移動していたときです。
遠目から私を見つけたマキラさんがそれはそれは嬉しそうに満面の笑みを浮かべ、こちらへ小走りで駆け寄ってきます。
ここ最近ではこのやり取りも慣れたもので若干【本邸】での風物詩になりつつあるようです。百目木さんがこの間、教えてくださいました。
「マシロ様。また来てますよ?あの娘」
百目木さんは心底ウンザリした雰囲気で喜色満面のマキラさんを見ながらボソッと言い放ちます。
「なんだか私、だいぶ気に入られてしまいましたね」
「先日の件。あれだけの騒動を起こしておきながらって感じで、私はまだ納得はしていませんけど……、納得はしていませんけど…… (マシロ様の魅力を知っている者として彼女の気持ち。めちゃくちゃよ~~~~~~~っくわかるのも納得いかない!!)」
最後、言葉尻がよく聞こえませんでしたが、百目木さんは握りこぶしを作って、『ものすごく同感だ!』とでもいいただけな表情をされています。
言葉でそうは言っても、ちゃんとマキラさんを認めてらっしゃる百目木さんも素晴らしいと思います。
「マシロお姉様~♪ 今日も私に稽古をつけて下さいましーーーー♪」
リンドウ様のお戯れから始まった一件で、私に可愛い妹分ができました。
私はそれをとても嬉しく思う春なのでした……。
今回も最後まで読んでいただき有難き幸せぃ!
ありがとうございます。
さてさて! マシロちゃんストーリー第3話です。
いやぁ~、戦闘描写むずかしぃのです!
バトル描写のテンポ感をどう表現すればよいか今後も研究ですね……。
さてさて! 今回でマシロちゃん前日譚はここで一旦お休みです。
次回は別のキャラクターの前日譚となりますのでご期待ください!
引続き、小説版『WAR of Zodiac』を只々楽しんでいただければ嬉しいのです!
その上で評価ポイントやブックマークしていただけるとワタクシ!
飛んで跳ねて発狂しながら喜びますので何卒何卒!!
もちろん同名アプリゲーム『WAR of Zodiac』をダウンロードして末永く遊んでいただけるともっと嬉しいのです。
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