第二話:『白麗の烏天狗は上司に振り回されます?!』
▼前回あらすじ
・お館様から後輩の訓示を任され
・顔見知りの百目木ユラとキャッキャウフフしながら
・訓示会場に向かうのでした
相変わらず、とんでもなく広いですね【咲沙姫家本邸中庭】。
この中庭の広さだけで一体何十軒のお家が立てられるのやら……。などと夢想してしまうほどの広さです。
そんな広大な中庭に数十人の新巫女の娘達が一同に会していました。
どうやら私が来るまでここで待機させられていたようですね。季節の匂いを楽しみながらゆっくり来てしまったことを今更ながらに申し訳無さを感じてしまいました。
ふと、私が彼女たちの視界に入った瞬間に身に覚えのある視線を感じます。
とはいっても私としましては慣れた類の視線ですけどね。
「ねぇ、あの子。戦巫女の装束着てるけど現役の戦巫女よね……?」
「あの身なり。烏天狗族じゃないかしら? 真っ白だけど……。」
「あ、もしかして『色なし』ってやつ? 目も真っ赤だし」
視線と一緒に新巫女の娘たちは、私のところからでは聞き取れないくらいの小声で何やらヒソヒソとお話をしていますが、おおよそ見当は付きます。
これまでも初めて私を見る方はこの容姿のために侮られたり、奇異の目を向けられてきましたので……。
私の氏族、獣人種・烏天狗族は本来ならば蒼光りする艷やかな黒い一対の翼に黒髪、黒い瞳が容姿的な特徴なのですが、私自身は生まれたときから翼が雪のように白く、肌も色素が薄くさらに瞳が鮮やかな血色のような紅なのです。
そのため、一時期はこの先天性の特異体質によって『色なし』と蔑まれることもありましたが、今ではそういった蔑みや罵りを努力と結果で克服しました。
逆に今では認めてもらいこの容姿を好ましく思って接してくださる人の方が随分と増え、私自身としてもこの容姿を誇りに思っています。
あとは……。この背丈でしょうかね……。既にこの世に生を受けてから数十年経ちますが、この背丈だけは童女のそれと比較しても同じか少し私のほうが低いという悲しい現実があります…。
こればかりは侮られても仕方ないですね。はい。諦めております……。
「オイッ!! 今ふざけたことを言った者は今すぐ前へ出ろッ!!」
突然百目木さんが怒鳴り、新巫女さんたちはハッ! となり姿勢を正します。
ものすごい怒声だったので誰しもが息を飲む音が聞こえるようでした。
おそらく、私のことで怒ってくださっているんだと思います。本当に昔から優しい子。
「百目木さん。そんなに強い口調では彼女たちが萎縮してしまいますよ」
「で、ですがマシロ様。こいつらは『良いのですよ』……」
ちょっと食い気味ですけど、これ以上は百目木さんの印象や場の空気がよろしくなさそうなので……。
「最初はこんなものです。新しく仲間になる娘たちですから今回は大目に見てやってください」
「マ、マシロ様がそうおっしゃるのであれば……」
百目木さんは渋々といった感じでしたが、その様子は私の思いを汲んでいただけたようです。
改めて新巫女さん立ちへ向き直った百目木さんは、今度はとても通る声で号令をかけます。
「いいか新人! お前たちは今日からシオン皇國が一皇家、竜胆紋閥・咲沙姫家麾下・戦巫女衆の一員となる! これに際して偉大なる先達より訓示を賜る! しかと傾聴せよ!」
百目木さんの号令の後、私は急拵えではありますが訓示のために用意された壇上へ登壇しここに集った新たな巫女たちを見渡しました。
希望に満ちたお顔の娘や私自身に対する何かしらの思いがあるのでしょう、不安や不満と言った面持ちの娘など様々です。
これから戦巫女として時に凄惨な戦場を駆け抜け、時に辛い選択を強いられることなど沢山の困難が待ち受けているはずです。
ですが、そんな中にあって同じ戦巫女の仲間との絆を深め嬉しいことや楽しいことも必ずあります。この娘たちはこれからの人生を皇國に捧げることになります。
その意義をできるだけこの娘たちに伝え、自らの未来への一助としてもらいたいとそう願わずにはいられません
「今春。はれて卒塾し新たな戦巫女衆の一員となる皆さん。卒塾おめでとうございます。そしてようこそ『竜胆紋閥麾下・戦巫女衆』へ。私は……」
そう私が訓示を述べ始めたときでした。
凛とした狐耳、狐の尻尾。陽の光を受けてまるで金糸の如く輝く長くきれいなストレートロングの髪。目尻が少しつり上がった目元はクールな印象を見る者に与えるとても特徴的な娘が私の訓示に割って入り、発言をしてきたのです。
「お嬢さん。ここは貴方のような『童女』が来るようなところではありませんのよ」
この時、そう言われたのは私なのですが、私よりもここに集う新巫女の皆さんの面持ちが驚愕に彩られていたのは少しばかり面白かったですね。
ただ、百目木さんのお顔が鬼のような憤怒の形相をしていたのは敢えて見なかったことにしましょう。
身体的な特徴から、私に威勢を発したその娘は先程百目木さんとお話をした『織羽沙』家のご息女だと直感しました。
「あなた、その身なりからすると現役の戦巫女衆でおそらくは将官級の方なのでしょうけど随分と幼く見えますわね。あちらの先達様であれば納得はいくのですけれど……。貴方のような幼い戦巫女将など聞いたことないのですけれど」
そうでした。実は私、主だってこの身を公の場に晒したことは数えるくらいしかないことを今更ながらに思い至りました。これは今の私の役職柄からくる弊害としか言いようがないのですけどね。
「どこかの華族もしくは豪族の箱入りなのでしょう? そのような方に訓示をいただいたところで何の有り難みもないのですけれど」
すると、これに同調するかのように静観していた他の新巫女たちも徐々にヤジを飛ばしてくるようになってしまい、この状況にとうとう百目木さんの堪忍袋の緒が切れてしまいまして……、盛大な舌戦に発展してしまいました。
これには流石の私も困ってしまいました……。トホホです……。
その時です……。
「随分と今年の訓示式は賑やかなのですね」
とても涼やかで鈴の音のような、それでいて凛として通る美声が、その場の喧騒を一瞬にして収めてしまいました。
突然の登場に恥ずかしながら私もそうでしたが、その場にいた全員が驚き固まってしまったのです。本当に……、神出鬼没なのですから我らがお館様は。
「……ッ! 宗主リンドウ様の御前である! 宗員気を付けぇッ!!」
いち早く我に返った百目木さんの号令一つで固まっていた新巫女たちは一斉に姿勢をただし見事に整列し直したのです。
場違いながらも私はその様子を見て、今年の新巫女たちはとても優秀であると感じてほっこりしたのはナイショです。
艷やかな黒髪は春の微風を受けてまるで綿菓子のように靡き、歩くそのお姿は気品と自信に裏付けされた完璧な美を表しているかのようですね。
戦巫女装束は割とボディにフィットするように作られています。装束を纏ったお館様のボディラインは理想的な細さと随所のメリハリもしっかりと主張し、十人が十人間違いなく振り向くほどです。
「お館様。こちらにいらっしゃってたのですね」
「ええ。ちょうど面倒な紋閥会合が終わったとこでしたし、邸内を散策していたのですよ。そうしたらだいぶこちらで賑やかな声が聞こえてきたので来てみました」
お館様は実に人懐っこい笑顔を向けてくるのですが、おそらく新巫女の娘たちは気が気ではないのではないのでしょうか。
皇國でもその武力はおそらく最強と謳われ、政治面でも非常に強い発言力を持っている実力者なのです。云ってしまえば卒塾したての新米巫女からしてみれば、お館様はまさに天上人。雲の上の存在にも等しいのです。
そのような方が、態々気まぐれでこんな場所には来るはずがないというのが彼女たちの思いでしょうね。でも、彼女たちは知らないのです。お館様の本質を……。
「今年の新巫女の皆さんはとても元気が良さそうですね。マシロさん」
「そうですね。しっかりと自分の考えを発言することができますし、なにより連帯・練兵度は非常に高いと思いますよ」
私の発言で一瞬ですが新巫女のみなさんに動揺が走ったみたいですね。つい先程まで私を責め立てていたのにも関わらず逆に評価されてしまっていることに。
「マシロさんが褒めるなんて、珍しいですね。これは期待できそうですね」
お館様はそう言うとおもむろに一人の新巫女へその視線を向けます。
「貴方は…、『織羽沙マキラ』さん……、でしたよね」
まさか自分の名前を呼ばれるとは思ってもみなかったのでしょう。織羽沙家ご息女のマキラさんはとても驚かれています。
「わ、私の名前をご存知でいらっしゃったのですか!?」
「もちろんですよ。修練塾三年間主席。そして主席のまま卒塾した歴代でも稀に見る優秀な成績をおさめた『織羽沙の姫』とね」
「あ、ありがたきお言葉。恐悦至極にございます」
「それで、この賑わいは一体どうしたのです?」
お館様のこの一言でマキラさんは鬼の首をとったとばかりに言い放ちます。
「それが、そこの先達様が『とてもお若く』見えましたので、私どもとしましてはなにかの誤りなのではないかと思いまして疑義を呈しておりました」
百目木さんが今度は殺意を向けそうな勢いでマキラさんを睨みつけますが、お館様の面前ということもあり自重しているようには見受けられますね。
「なるほど。マキラさんには彼女がまだ幼い若輩戦巫女に見受けられた。ということですね?」
「はい。少なくとも私にはそうお見受けいたしました」
そう言い切るマキラさんに私は苦笑してしまいました。
するとお館様が私をチラりと一瞥しました。その一瞬を私は見逃しませんでした。お館様の悪い癖が顔を覗かせたのです。『目元を少しすぼめて人差し指の背を口元につける』。
何やら閃いたご様子です……。まぁ、昔からの付き合いですのでだいたいはよからぬことを思いついたんだと思います……。
「それでは、ここにいるこの『幼き戦巫女』とマキラさんとで戦闘技鍊を行ってみてはいかがでしょう?」
一瞬にしてその場がざわつきます。流石に私もこの発言には驚きを隠せませんでした。
戦闘技鍊とは、読んで字の如くです。日頃より研鑽し練磨してきた戦巫女としての戦闘技術を駆使して相手と実戦形式で執り行われる戦闘訓練のことです。
戦闘技鍊では本来ならば戦闘技鍊専用の闘技場が使用されるのですが、こういった広い場所であれば簡易結界を張り周囲への破壊被害や結界内での戦闘による負傷を緩和させたりすることで執り行われることもあります。今回は後者の方法で私とマキラさんが戦闘技鍊をすることになってしまいました。
お館様。それはとてもとても楽しそうです…。ふと視線を百目木さんへ向けると、やれやれといった感じで深い溜め息をこぼしています。百目木さんの気苦労が忍ばれます……。
「よろしいのですか?」
マキラさんはマキラさんでお館様のご提案に何やら思うところがありそうな面持ちです。
「お互いの実力の程を知れば理解し合えると私は思いますよ」
『拳で語り合えば、自ずと心が知れるっ!』
お館様……。どこの熱血脳筋なのですか……。でも、彼女の本質を知れば、そうお考えになるのも仕方ないのかも知れません。
危うくもありますが、幼少の頃よりご一緒させていただいている身としてはそこもまた愛おしく感じでしまうのはだめですかね……。
「承知いたしましたわ。是非ともやらせていただきたく存じます!」
かくしてお館様の思いつきから私とマキラさんは戦闘技鍊を執り行うこととなってしまいました。果たしてどうなることやらです。
「マシロ様! 応援してますッ!!」
……百目木さん。私を応援するよりもお館様を止めてください……。
今回も最後まで読んでいただき有難き幸せ! ありがとうございます。
さてさて!マシロちゃんストーリー第2話です。
マシロちゃんの生い立ちやら現在に至るまでほんのちょっとだけ詳らかになりましたね。
それにWoZゲーム版ではいない『織羽沙マキラ』や『百目木ユラ』はマシロストーリーでは割と重要なポジションの娘達なので、今後の活躍に期待ですね!
※お話が進むにつれて重要なキャラはどんどん出てきますけどね(笑
引続き、小説版『WAR of Zodiac』を只々楽しんでいただければ嬉しいのです!
その上でポイントを付けていただけるとワタクシ!
飛んで跳ねて発狂しながら喜びますので何卒何卒!!
もちろん同名アプリゲーム『WAR of Zodiac』をダウンロードして末永く遊んでいただけるともっと嬉しいのです。
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