第一話:『白麗の烏天狗は参邸します?!』
「……。どうしてこのような状況になってしまったのでしょう……」
私の目の前にはまだどこかあどけなさを残しつつもキリッとした目元、スラッとした長身、艶のある金糸のようなロングの金髪。そして何よりも目を引くのが、凛とした狐耳とふさふさとした狐の一尾をもつ美少女。
彼女の名前は『織羽沙マキラ』さん。
見下したような視線を向ける彼女と私はこれから実戦形式での模擬戦。『戦闘技錬』を行うことになってしまったのです……。
「マシロさん。でしたわよね?」
「はい。マシロです」
「『卒塾』したてだからといって、私をあまり甘く見ない方がよろしくってよ。大怪我をされては先輩としての尊厳や今後の任務にも関わりますので」
「ご忠告ありがとうございますマキラさん。それではそうさせていただきますね」
「……そのすました態度。いけ好きませんわね」
見下す視線に今度は明きあらかな『敵意』も込められ始めました。
本当にどうしてこのような状況になってしまったのでしょう……。
▼△▼△▼△▼△
春のうららかな陽気を感じながら、針葉樹の青い新葉の香りを楽しみながら私、『烏沙羅・マシロ・天風』は、長い長い階段を登っています。
ここはイングラード西部・西南地方・大都市国家『シオン皇國』。
およそ100年前に終結した『抗魔戦争』以前から続く、四季折々の顔を覗かせる自然豊でイングラード西部でも指折りの巨大コミュニティです。
今日は、お館様からこの春、新たに戦巫女となる若者たちへ先達からの訓示を教示してほしいとのお願いをされまして、『戦巫女衆』の総本山・竜胆紋閥本邸へと参邸している次第です。
――1週間前 総本山・竜胆紋閥本邸回廊
「そういえば来週は、修練塾の卒塾式ね」
「どうかされましたか? お館様」
「マ~シ~ロ~。二人だけのときはリンドウでって言ってるでしょ」
眉目秀麗にして均整の取れた肢体。そして長く癖のない艶めかしい漆黒の髪。いたずらっぽい表情はどこかまだあどけなさの残る美少女。『咲沙姫・リンドウ・倭瑞』はそう言って恨めがましく私に言い詰め寄ってきました。
「フフフ。そうでしたね。それで急にどうされたのです?」
「……。まぁいいわ。いえね、ふと思い出したの。来週は修練塾の上級修練巫女たちが学びの園から巣立つ日だったってこと」
「あぁ、そのことですか。確かにそうですね。なんでも今年の卒塾する修練巫女たちは例年になく優秀だとのお話ですよね」
そういえばそうでした。春の訪れとともに私達にかわいい後輩ができる季節だったことと、今年の卒塾巫女たちは粒ぞろいでとても優秀だというお話を聞いていたことを思い出したのです。
「マシロ……。そういう情報をどこから仕入れるのよ……」
「修練塾に顔馴染みがいらっしゃるので、時折会ってはお話を聞いていたりしています」
「あぁ~、百目木家のご令嬢ね。確かユラさんだっけ?」
「ええ。そのユラさんです」
「でも意外ね。烏天狗族筆頭大老のマシロが……。こういってはなんだけど、だいぶ家格が離れた百目木家と親交があるなんてね」
「実はユラさんが小さい時に少々ありまして。それ以来懐かれてしまいました」
「なにそれっ! 気になる逸話ね!」
「聞きます? 多分丸一日かかりますよ?」
「うっ……。き、気にはなるけど今はいいわ。それでね、話を戻すけどその卒塾式で恒例の先達戦巫女からの訓示を教示するんだけど……」
「その教示者がまだ決まっていないのですね」
「あったりぃ~! いやぁ~早め早めでって考えてたんだけど、ほら私って忙しいじゃん? それでねっ! マシロ。悪いんだけど今年の教示者を引き受けてくれないかしら?」
「リンドウがそうおっしゃるなら仕方ないですね。わかりました。引き受けましょう」
「さっすがマシロ~♪ 頼りになるぅ~」
私と二人きりのときにはこの様に年相応な女の子として振る舞っているリンドウですが、普段の彼女は私が今身を寄せている組織『シオン皇國・竜胆紋閥麾下・戦巫女衆』の総帥にして竜胆紋閥宗家現当主様なのです。
弱冠20歳にして凛々しく毅然と振る舞い、その才気は『シオン皇國・七大紋閥』において竜胆紋閥を今代最大紋閥へと押し上げた誰もが認める若くしての女傑なのです。
そのような彼女ですが、本当の凄さはまだ誰も彼女の全力を見たことがないということなのです。かくいう私も彼女の本気を目の当たりにしたことはありません。
でも、親しい者の前では歳相応の可愛らしい一面をお見せする方でもあるのです。私はそんなお館様の良き理解者として、また親友としてお仕えしているのです。
「マシロさまー!」
ふと先日のやりとりを思い起こしていたらいつの間にか本邸の正門に着いたみたいです。
「百目木さん。お久しぶりですね」
「マシロ様! お久しぶりです。本日は態々ご足労いただきありがとうございますッ! いつもながらお館様の無茶振りをお受けいただいて……。もう本当にお館様は毎度毎度……。はぁ」
「まぁまぁ、お館様もお忙しい身ですから。それに、先達者として後輩の皆さんにお言葉をかけるのは当然ですしね。お気になさらずとも大丈夫ですよ」
「もちろん存じ上げてますけど、だからといってマシロ様に無茶振りするなんて……。(まぁその御蔭でマシロ様のお世話ができるので良いんですけどね……。フヒヒヒ♪)」
「どうかされましたか?」
「あああ! いえいえ、何でもありません! 何でもありませんとも! ハハハ……」
こちらの元気な彼女は『竜胆紋閥麾下・戦巫女衆』の現役戦巫女のお一人で現在はここ咲沙姫家の近衛を務めていらっしゃる『百目木・ユラ』さんです。質実剛健でとてもしっかり者さんなのです。
「そうですか? でも。このようにお館様から直々にお任せいただけるのはそれはそれで光栄ですよ。(ニコ)」
「はぅッ! その輝くスマイル億千万ッ! 脳内保管完了ッ!」
「……百目木さん。ちょっとおっしゃっている意味が……」
「ッや! マシロ様! お気になさらずに。こちらの話なのでッ!」
「……え、ええ。わかりました」
時折、彼女がわからなくなるのはご愛嬌ということで……。
「とは言えですよ。本来ならば戦巫女でも最高位の四天衆で屈指の実力者! しかも獣人種が烏天狗族筆頭大老であらせられるマシロ様にこのようなお勤めをさせるなんて、ありえないんですよッ!? 常識的な感覚から言ってありえないんですからねッ!?」
「そんな大仰な。立場はどうあれ私は皆さんと楽しく親しくしたいので余り気になさらずに」
「もぅッ。竜胆紋閥のお偉方はなんでこうも揃いも揃って破天荒なんですかぁ~」
「まぁ、お館様も何かしらの意図があってのことで、今回は私にということだと思います。その辺で、ね?」
「マシロ様はお館様に甘いんですよ! あの方に気軽に物申せるのはマシロ様の他に数人しかいないんですから、もっとビシッといってやって下さい。本当にもう……」
「フフフ。機会があれば言っておきますね」
お館様を出汁に百目木さんとの久しぶりの邂逅を楽しむ私でした。
【咲沙姫家本邸】はとにかく広いです。私達が住むシオン皇國領内南西に連なる連峰の麓一体が皇帝陛下より御下賜された【咲沙姫家領地】となります。
その麓の入口付近に【本邸】と【近衛巫女詰所】があり、そこを囲むように【戦巫女将官寮】、【戦巫女士官寮】、【戦巫女兵寮】、【修練塾修練巫女寮】、その他本邸宮仕えの方々のお住まいがあります。
これらの区画を更に連峰を背に半月放射状に一般の皇國臣民のみなさんが生活していらっしゃる【領街】があります。
一連の戦巫女衆の関連施設だけでも数千人もの方々がいらっしゃって領民を含めると実に数万人規模の人々が生活をされています。
この規模は小さな都市国家に匹敵すると言われております。そのような一地方都市でありながら大規模な都市に相応しく、【咲沙姫家本邸】は広大なのです。
今回、訓示の会場となるのは【本邸】の中庭と聞いています。百目木さんと並び歩きながら中庭へと続く長い回廊で今年の新巫女さんたちについてお話を伺っていました。
「そう言えばマシロ様はご存知でしたか? 今年の卒塾生の中にあの『織羽沙』家の娘さんがいらっしゃるの」
「ええ、聞いていますよ。なんでも修練塾では三年間常に主席だったとか」
『織羽沙』家とは、およそ100年前の『抗魔戦争』時にシオン皇國女帝の『紫苑・倭端』様と共に当時の魔王に立ち向かい多大な貢献をしたと伝えられた由緒ある大家です。
また『織羽沙』家一族は、狐の耳に狐の尻尾が特徴の獣人種・狐尾族なのです。
「そうなんですよ。ただ、聞いた話だと相当なじゃじゃ馬の跳ねっ返りらしいですよ。まぁ、元々彼女の氏族である【狐尾族】はプライドの高い一族ですから『さもありなん』なんですけどね」
「それでも、優秀な家系であることは確かですよ? それに【狐尾族】は元来、その身に宿す【源霊力】は他の氏族と比べても非常に強いですから」
「まぁ、たしかにそうなんですけど。そこにプライドが高い性質が加わるから大抵は跳ねっ返りや高慢で嫌なヤツになっちゃうんですよねぇ……」
歯に衣着せぬ百目木さんの感想に苦笑しながら、私はそんな元気の良い新巫女さんであれば良いなと密かに思ってしまったのは百目木さんにはナイショです。
「事はあたってみないことにはどうなるかわかりませんし、それになんとかなると思いますよ」
私は微笑みながら百目木さんを宥めるのでした。
「!? ……。て……、天使がいるぅ……」
何故か百目木さんがうめきながらその場にへたり込んでしまいましたが、大丈夫でしょうか……、心配です。
最後まで読んでいただき有難き幸せ! ありがとうございます。
あぁ~、ようやくたどり着いた…。同名アプリゲーム『WAR of Zodiac』の世界観を知ってもらうべくあれこれ考えていよいよ今日から小説版、走り出します。
小説を書いて投稿するのは人生初めてなので文の技巧もへったくれもない素人文ですがよろしくおなしゃす。
投稿ペースはなるだけ早いペースで出来ればなとは思うのですが書き溜めている量がそれほどではないのでこれから自分自身との戦いになるなぁとガクブルしておるところではあるのですが、今回くらいのボリュームで小刻みにどんどん投稿できるようけっぱります!
あとは……、多くは語るまい……。
小説版『WAR of Zodiac』を只々楽しんでいただければ嬉しいのです!
その上で!同名アプリゲーム『WAR of Zodiac』をダウンロードして末永く遊んでいただけるともっと嬉しいのです。
あ、ちなみに私。そのアプリゲームの開発と運営の総責任者であります!
何卒、よしなに……。
●WAR of Zodiac ダウンロード
▼iOS
https://apps.apple.com/jp/app/war-of-zodiac/id1454610929?l=ja&ls=1
▼Android
https://play.google.com/store/apps/details?id=com.eden.woz