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30話 会わなければ、こんなことにはならなかった

「ルリエちゃん、初めまして。俺は九条導。龍幻から聞いてたとおり、すげぇ美少女だね!」


 翌日。朝九時ジャストに導が俺の家にやって来た。チャイムを押し玄関を開けると同時にルリエに自己紹介をした。


 そして、さりげなくルリエに握手を求めた。導もちゃっかりしてんな……。リアルの女子なんて微塵も興味ないから自分から触りにいくことなんてまずないのに。ルリエだけは特別なのか。


「あ、ありがとうございます」


 心無しか、ルリエの顔がひきつってる気がする。


 なんだろう? 嫌がってるのか? それとも、俺以外の男に会うから緊張してるんだろうか。


「ルリエ。導はロリコンだから気をつけろ。近づいたらチャンスとばかりにスキンシップを迫ってくるぞ」

「龍幻、おまっ……! そういうお前だってロリコンのくせに!!」


「龍幻、いつからロリコンになったの?」


「ちょ……っ。導、余計なこというな。大体俺がいつロリコンになったんだよ。つーか玄関で立ち話してないで入れば? あ、ルリエを見るだけなら見たよな。なら、もう帰るか?」


 俺は導の肩に手を乗せて帰るように促した。というより圧をかけた。導が察してくれればいいんだが。


「いつもは家に入れてくれるくせに、今日はやけに冷たいな龍幻」

「そ、それはルリエがいなかったときだろ」


「俺、もっとルリエちゃんとお話したいな。ルリエちゃん、俺が家に上がったら迷惑かな?」

「大丈夫ですよ。紅茶でも入れましょうか?」

「ホントに!?」


「ルリエ、本当にいいのか?」


 俺はルリエにだけ聞こえるように耳元で囁いた。


「導さんは龍幻の大事なお友達でしょ? だったら無下にしたら可哀想だよ。私は大丈夫だから、ねっ?」

「まぁ、ルリエがそういうなら。……ルリエがいいっていうから今回だけだぞ」


「龍幻もありがとな! ならお邪魔します〜! と、なんだかんだ言って龍幻って優しいよなー。ルリエちゃんもそう思わない?」

「そうですね。私を召喚したときも最初は嫌がってましたが、最終的には住まわせてくれました」


「召喚?」


「ルリエ!」

「あっ……。家出したときも最初は警察に引き渡すか迷ってたらしいんですけど、そしたら親のところに返されるから〜って快く住まわせてくれたんです」


「ルリエちゃん、親と喧嘩してるだけじゃなくて親と仲悪い感じ?」

「えっと、まぁ……」


「導。あまり深く聞かないでくれ。ルリエには辛いことを思い出させたくないんだ」

「そっか……。ごめんねルリエちゃん」


「私は大丈夫なので、導さんは気にしないでください」

「……」


 これ以上聞かれると嘘にウソを重ねないといけなくなるから俺のほうがツラい。今だってルリエがうっかり口を滑らせたし。うっかりっていうか今のはアウトだろ。


 昨日は大丈夫みたいなことは言ってたが、元々ルリエは嘘も苦手であれば器用にこなせるタイプじゃない。そんなルリエが導と会えば、こうなることは予想がついていた。


「ルリエちゃんって普段はアニメとか見る? 今期オススメのアニメがあるんだけどさ〜」

「えっと……」


 導は話題を変えるようにルリエにオタ話をし始めた。俺は横で二人が会話するのを黙って見ていた。


……なんだろう? さっきから胸の奥がモヤモヤする。つか、心臓あたりが痛い。バイトの疲れで胃でも荒れたか? あとで胃薬でも飲むか。


「私、紅茶いれてきますね」


「なぁなぁ龍幻。ルリエちゃんとはどこまで進んだ!?」


 ルリエが台所に向かうと導は俺に話を振ってきた。


「あのな……今の発言、ルリエに聞かれてもいいのか?」

「女子高生と一つ屋根の下。何も起きないはずはない! ……いてっ」


「未成年に手を出したら捕まるのは俺なんだぞ」

「それを言ったら警察に引き渡す以前に家に住まわせるのはまずくね?」


「……」


 本当はルリエはサキュバスで、親は魔界に住んでるし、ルリエには一人前のサキュバスになるという重要な試練(試験)があって、だから俺の家にいるのが当然といえば当然で……とは口が裂けても言えない。


「龍幻にも色々事情があるんだな! この事は俺とお前の秘密な」

「導……」


 大学でバラされたら……なんて考えた俺が悪かった。そうだよな。いざってとき、コイツは約束を守るやつなんだ。


「明日は神崎紅先生がいるかもしれない文芸部に行くんだったな。仕方ないがついて行ってやる」

「龍幻も素直じゃないな〜。ホントは龍幻も神崎先生の正体気になってんだろー?」


「……まあ、それなりに」


 もし明日行ったとしても如月先輩が文芸部にいる確証はない。導だってバイトもあるし、神崎先生に会うためだけに毎日大学に顔を出したりはないだろうし……。


 神崎紅先生が如月先輩だと知ってる俺からしたら気まずいんだよな。いま会うと「会いに来ても魔導書の使い方は教えませんよ」「まだ新しい魔法も覚えてないんですか?」とか辛辣な言葉を言われそうだし。


「導さん、紅茶どうぞ。龍幻はココアでいいよね?」

「ああ」


「ルリエちゃんありがとう! ルリエちゃんが入れてくれたら何杯だって飲めるよ」

「お腹壊しますよ」


「へーきだって。俺、丈夫だから! それより、さっきの話の続きなんだけど……」

「はい」


「ルリエ。嫌だったら無理に聞く必要はないんだぞ」


 一人で永遠とオタ話をしてテンションが上がってる導。俺はルリエに話しかけた。


「アニメはわからないけど、導さんが楽しそうに話してるの聞いてたら私も楽しいから」

「そうか」


「それに……」

「?」


「龍幻も好きなアニメなら私も知りたい」

「なっ」


「龍幻がロリコンなら私が襲ってもチャンスあるかもだし……」

「だからそれは勝手に導が言っただけで」


「そのわりに昨日はあんなに気持ち良さそうだったのに?」


 そこだけ導にわざと聞こえるように大きな声で話すルリエ。


「ルリエちゃん、コイツとなにかあったの!? 詳しく聞きたい!」

「いいですよ」


「俺はただルリエにマッ……」

「龍幻、今はお口チャック」


「っ……」


 気持ち良さそうだったってマッサージのこと言ってんだよな。それ以上ルリエと変なことした覚えもないし。少し意地悪な表情を浮かべるルリエはなんだか本当の悪魔(サキュバス)みたいだ。最初はルリエがサキュバスだとバレたら、なんて心配ばかりしていたがルリエの楽しそうな表情を見ていたら、今はそんなことは気にならなくなった。


 こんな楽しい日々がずっと続けばいいのに……。


 次にアレンが攻めてきたら俺は間違いなく魔導書を奪われ、今のままじゃ確実に負ける。そのためにも早く魔法を覚えないと。でも、どうやって? アレン以外にも……暁月や他の魔族がルリエを狙いに来る可能性だってある。ルリエは普通のサキュバスなはずなのに。あれから一度だって魔界から電話はかかってこない。


「ルリエちゃん、俺そろそろ帰るからさ。近くの公園まで送ってくれね?」

「いいですよ」


「導お前一人で帰れよ」

「そんなに心配なら龍幻も来ればいいだろ。もうすぐ今年も終わるし、二人とは来年にしか会えないだろうし、せっかくなら少しでも長くいたいじゃん」


「ルリエを寒空の下に出して風邪を引いたらどうする?」

「龍幻、私は大丈夫だから」


「こういうとこ見るとなんだか本当にルリエちゃんの親代わりじゃん」

「そんなことねぇよ。ルリエ、外は寒いのにいいのか?」


「平気だよ。龍幻と……導さんとも手を繋けば大丈夫」

「俺もルリエちゃんと繋ぐ繋ぐ! ってことでお邪魔しました〜。今度は来年ゆっくり龍幻との話聞かせてくれよ。ルリエちゃん」


「わかりました。ほら、龍幻行こ? 鍵は閉めた?」

「閉めなくても野郎の家には誰も入らねぇよ」


 といいつつルリエも暮らしてるし一応、な。俺は鍵を閉め、ルリエと導を近くの公園まで送ることにした。


「ルリエちゃんと合法的に手を繋げるのめちゃ嬉しいよ。ロリっ子最高!」

「導。今回はルリエが許したから手を繋いでるだけで次は無いからな。あと変なことを外で言うんじゃない」


「龍幻。お友達は大事にしなきゃ。ねっ?」

「うっ……」


「龍幻、ルリエちゃんに怒られてやんの〜」

「うるせぇ」

「ふふっ」


 三人で仲良く手を繋いで歩く。なんとも微笑ましい光景だ。大学生になって、こんなことするなんてな……。でもルリエと手を繋ぐのは嫌じゃない。むしろ離したくない。ルリエのことが大切で守りたい。この気持ちは未だにわからない。自分の正体だってまだわかっていないのに。


「ここまで送ってくれれば十分だ。ありがとう、ルリエちゃん。それと龍幻」

「俺はオマケかよ」


「私こそ楽しい時間をありがとうございました」

「ルリエちゃんにお礼を言われた。俺、もう死んでもいいかも……」


「導さん、来年もあるんだからちゃんと生きてくださいっ」


 導はルリエにお礼を言われ嬉し涙を流した。ったく、大袈裟な奴。


「ルリエちゃん、最後に少しだけいい?」

「なんですか?」


「もうちょっとこっちに来てくれる?」

「? はい」


「おい導。ルリエに変なことするつもりじゃねぇだろうな?」


「そんなことしねぇって。ルリエちゃん、もう少しこっち」

「導さん?」


 この時の俺は完全に油断していた。導相手だから隙だらけだったんだ。導がルリエになにかするなんて、それこそありえないことだと思っていたから。


「ルリエちゃん。早いけど、あけましておめでとう」


 その瞬間、バンッ! と近くで音がした。


 なんだ? こんな時期に花火か?


「なんで俺、銃なんか手に持って……あぁぁぁ」


「導?」


 導のその手には拳銃が握られていた。


「龍……幻……」


 バタッとその場で倒れるルリエ。


「ルリエ!! 導、お前何やって……!」


 俺はルリエを抱きかかえた。ルリエからは大量の血が溢れていた。あろうことかルリエは導から撃たれていた。それはあまりにも唐突で、俺は目の前で起こった現実を処理しきれなかった。


「違う……俺はなにも、なにもやってない。俺はルリエちゃんと話してた。それだけなのに、俺の手に突然、銃が現れて……あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「導!!」


 パニック状態になった導はその場から逃走し、その場に残されたのは血だらけのルリエと俺だけ。


「ルリエ、大丈夫か!?」

「龍……幻。私、導さんを怒らせるようなこと、しちゃったのかなぁ……」


「そんなことない! 導はルリエと会えて嬉しそうだった!! だから……」


 誰か……誰でもいい! ルリエを……助けてくれ……。


 心臓を撃ち抜かれたルリエの呼吸がだんだん浅くなる。助けを呼ぼうにも、この場所には俺とルリエ以外誰もいない。


 ……おかしい。年末なら誰かいてもおかしくないのに。この公園はいつも子供が遊んでいて賑わっているのに、どうして今日に限って誰もいないんだ?


 まるで俺たちだけが世界から取り残された気分だ。

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