あーした、てんきに、なーあれっ!!
毎日続く雨。
指先というより、ふくらはぎ周りがきつくなった長靴を履き、傘を畳んで幼稚園バスに乗る。
雨の日は荷物が多い。
なのに私の座席は狭い。
いや、私にとってこの座席は狭い。
大きめな幼稚園児のサイズをちゃんと考えて、バスを作ったのだろうか?
私以外にも困る子はきっといるはずだよ。
きく組のお部屋ではもう、登園した園児達が遊んでいた。
「おはよ!!」
と元気な声で挨拶してくれた一番仲良しなお友達。
バスでの憂鬱な気分から少し解放される私。
挨拶だけで嬉しくなるこの気持ち、他の子にも分けてあげたい。
「おはよう!!」
いつもよりも大きな声で近くの子に挨拶してみたけど、その子は私の顔すら見ない。。
ザクッ!ザクッ!!コトンッッ!!!
昨日新しく仲間入りしたおもちゃ、おままごとの野菜を切るのに夢中。
私の声、聞こえなかったのかな??
と思ったけど、大きな声で2度も声をかける自信がない。
次も反応無かったら??
と思うと怖いから。
さっきせっかく嬉しくなった気持ちが少し減った。
さ!気分転換!しなきゃな。
荷物を自分のラックに掛け終えた。
私も遊ぶぞー!!
いつも遊んでるおもちゃは、もう他の子達が大勢で使っている。
いーれーてー!…の一言が、今は出ない。
さっきみたいに反応無しだったら怖いから。。
怖さを避けて私は違う遊びを選ぼう。
「あーした、てんきに、なーあれっ!」
同じバスの女の子が右足の上靴を高く蹴り飛ばした。
ボトッ!
それは私の足下に落っこちた。
「ねぇ、それみんなに当たったら危ないよ?」
裏返って落ちた上靴をケンケンで取りに来た子に、思わず声をかけた。
「大丈夫だよ。もうずっと雨だしさ。晴れが出るまでやるんだよ。一緒にやる??」
誘われた。
ちょっとやってみたい。
でも、やっぱり危ない気がする。
でもでも、毎日履いている長靴はキツいし、もうそろそろ晴れてほしい。
色々考えているうちに、女の子は何度も上靴を蹴り飛ばす。
そのうちに他の子達もお天気占いの結果を見に集まってきた。
まだ晴れは出ていない。
「わ、私もやるっ!!」
ここで私が一発で晴れを出したら、すごい事だよね!
もしもそうなったらみんなきっと喜んでくれるかな。
「いいよ、やってやってー!」
女の子は私の為に、スペースを譲ってくれた。
大きめな幼稚園児は上靴サイズだって大きい。
占い結果は小さい上靴よりもみんなから見やすいし、力一杯やればあの女の子よりもキレイに飛ぶかもしれない。
よしっ、願いをこめて。。
「あーした、てんきに、なーあれっ!!」
私は勢いよく上靴を蹴り飛ばした。
ガラガラガラッ!!
担任の先生が部屋に入ってきた。
「素直ちゃん!お部屋でそういう遊びをしてはいけません。みんなも真似しちゃだめよー。」
「はぁーい!」
「さ!お片付けして朝のお歌、歌いましょうねー」
「はぁーーーい!!」
何度も『そういう遊び』をしていた女の子は怒られず、悩みに悩んで一度だけやってしまった私だけが怒られた。
タイミング悪すぎ。
お部屋の中央で、私の上靴は裏返って落ちていた。
山田素直、5歳の頃の話。