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そのうち砂丘地帯に入った。
朝の間に移動して、太陽が天高い位置に来る頃、小さなオアシスの木陰で一服した。
すると、遠くの空気が揺らめいている方から、人影がふらふらと歩いてくるのが見えた。
人影はオアシスを見つけると、息も絶え絶えに駆け寄ってきた。
まだ若い青年で、やつれた顔にたくさんの無精髭を生やしている。青年は泉に顔を突っ込むと、獣のように一気に水を飲んだ。
しかし勢い余って、途中で咳き込んでしまった。
「あんまり一度に水を飲むと、体に良くないよ。人間の体は、ぼくたちのように便利にはできていないからね」
DRKは、声を掛けずにはいられなかった。
青年はDRKの姿に気付くと、飛び上がって驚いた。
「おまえは何者だ」
青年は訝しげな顔で、DRKの体をじろじろと見回した。人に見られることには慣れていたので、DRKは特に不快に感じることはない。
「ぼくはヒトコブラクダのDRK。伝説のオアシスを探しているんだ」
「何だって!?」
青年は、思わぬところで同志を見つけたと喜びの声をあげた。どうやら彼も目的地は同じらしい。
「その割りには、ずいぶん場違いな荷物ばかりだね」
今度はDRKが、青年をじろじろ見回す番だった。青年の背嚢には高そうな宝石や装飾品ばかり詰め込まれていて、旅に必要な道具は何ひとつ入っていなかったのだ。
「それに、人間のくせに日中の砂丘を歩いてくるなんて、自殺行為に等しいよ」
痛いところを突かれたらしく、青年は黙り込んだ。
それからしばらくして、聞かれてもいないのに自分の生い立ちを話し始めた。
「私は、この国のイサラフ王子だ。でも悪い宰相に国を乗っ取られて、父や母や兄は殺されてしまった。私だけ、宮殿の財宝を掻き集めて、命からがら逃げてきたのだ」
イサラフ王子はそこまで言うと、深い溜め息を吐いた。
「私にはもう帰る場所がない。だから新たな移住先として、伝説のオアシスを探している」
「国に帰りたくないのかい?」
「帰っても殺されるか、奴隷にされるかだ」
「宰相が憎くないのかい?」
「私一人が立ち向かって勝てる相手ではない」
わざわざ苦労を背負い込むより、伝説のオアシスで気ままに暮らしたい。イサラフ王子はそう願っているらしかった。
「ところで、まさかここが伝説のオアシスって訳じゃないよな?」
イサラフ王子は辺りを見渡しながら言った。
岩の割れ目から、ネズミに似たグンディが顔を出し、チーチーと鳴きながら家族を探していた。
「ここは違うよ。まだ、だいぶ先さ。じゃあ太陽も陰ってきたし、ぼくは行くね」
DRKが歩きだしたのを見るや、イサラフ王子がしがみついてきた。
「私も連れていってくれ」
イサラフ王子は泣いて懇願した。
奇妙な道連れが増えた。