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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

今日から学校と仕事、始まります。②莞

リコーダーはお好きですか?

作者: 孤独

あれはいつ頃からだったか。リコーダーを渡されたと同時に女子と男子に、亀裂を生み出すかのような噂話が飛び交う。


『男子って、私達が使ったリコーダーの口のところを、私達が見てない時に舐めるらしいよ。学校に置いてちゃダメだよ!』

『きゃー、なにそれ。めっちゃ怖い』


そりゃあ、都市伝説だと思いたいほど、妖怪も身震いするほどの怖い話だ。

リコーダーという楽器を貸し借りすれば、間接キスになるのは使ったその瞬間に分かること。

口づけもそうであるが、少し拭き損なえば……唾液の交換にもなってしまう。恐るべき楽器。

まるでそのためだけに生まれた楽器ではないかと、失礼ながら思う。


『お前、好きな子のリコーダーに口つけるんだろ?』

『教室でやってんだろ?』


男子と女子。その異性に溝というか、意識の違いというのができるのも、きっとリコーダーを渡された時期と一致するんじゃないだろうか?

キスとか、その先の事とか。青春が永遠だと思ってる頃、小さな恋はどこかで起きる。


「………ヨシくん」

「………ノゾっち」


男女が一緒に帰るだけでも、ちょっと目立つ時期だった。

でもそれで良い。そーいう関係になってみた。とりあえず、付き合ってみないかと。

二人きりの時は、あだ名で呼び合っていた。

でも、その二人きり。誰もが見ている、見せている外でしかなかった。離れたときにどう思っているか、分かっていることじゃない。


「……あの、あのね」

「ん?」


とても怖い話を聞いて、今から教室には帰れない。あそこに忘れたもの。

リコーダー。ケースにしっかりと入れ、ちゃんと拭いてはいるものの。やっぱり置いていくのは怖すぎる。かといって、見に行った時。誰かが使っていたらホントに怖い。


「リコーダー、私の。とってきてくれない?」

「え…………」


でも、この人ならたぶん。普通にとってきて、渡してくれる。

そのはず


「鞄を置く、ロッカーのとこ……だと思う」

「あ、ああ」

「な、名前も。書いて。あるから……」

「分かった……よ」


そうだと思う。そんなこと思ったりしない。

どーいう気持ちで受け取ろうか、どー渡されるんだろうか。教室に戻ってくれたヨシくんを校門前で待つ。きっと堪えた顔をするんだろうか?あんまり、変なことを思わずに。友達に渡されるみたいな顔だろうか。



「ノゾっち。とってきたよ」

「あ、ありがと……」

「……………」


普通に、何もされていない。ケースに入ったリコーダーを渡される。

たったそれだけだったが、その。


「ね、ねぇ。間接キスとかした?」

「い、いや。そんなことしないよ。男子とか変なこと言ってるけど、俺はそんなことしない!」

「ふーん……じゃあ」



ちゅっ



「ホントのキスと、……その先。家でしない?知っちゃおうよ」

「!………」


小さな恋が少し、二人を大きくさせた。



◇      ◇


それから4年後くらい。当時のお付き合いはたったの3ヶ月ほど。

色んなことを知るたびにノゾっちは結論を出す。


「やっぱり男は金と性格、将来性よね~」


まぁ、あの恋は甘い気持ちが多かった。互いを深く知らないからこそ、過ちに気付けるというものだ。

そして、過ちから出てきた答えに


「男は全てが揃ってなんぼよ!!きゃははははは!」



ノゾっちこと、村木望月は変わった。感情が動くほどの男に出会うこともあるが、それはその日だけの気分が多い。実際に長く触れ合い、知る事でその人の悪いところも見えてしまう。それを誤魔化せるのは、やはり金というステータス。その悪いところを消すのが性格というもの。

早々、村木が付き合おうと思う男はおらず。そんな彼女だからこそ、男は彼女と本気な付き合いはおきない。いや、むしろ。


「戦利品、ザックザク!大学生サイコー!!馬鹿な男が、それ目当てで金を貢ぎに寄ってくる!」

「サイテーの女だな……」

「敵が多くて大変じゃない?」


友達、仲間すら警戒するレベルの女。

男達が稼いだバイト代や日頃の給料で、女性と付き合えるイベントでぼったくられる。あるいは女の立場を利用し。あるいはスルをし。あるいは力づくでいく。村木望月は、魔神と化していた。

そんな生活で仕入れた金と商品を、仲間に見せびらかし、自慢することが最近の楽しみになっている。


「さぁ、飲んだ飲んだ!清金、パピィ!じゃんじゃん、いっちゃってー!」

「飲むことに躊躇いができるんだけど」

「はぁ~。ま、清金。ここは村木を立てて飲んでやれ。じゃないと、こいつ。エスカレートをエスカレーターで昇っていく」

「上手いこと言わないでよっ!」


どんちゃん騒ぎが似つかわしくない、女性メインのバー。そこで働いている修行中の男性店員。

村木は気付かなかったが、


「どうぞ、僕からのカクテルです。”ノゾっち”」

「あら、ありがとー。でさー、清金ー!あんたも一緒にやらない!可愛さならあんたもいけるからさー!2対2で男をたぶらかすの!」

「断るわ。私は今でも、束沙様一筋」


彼女にカクテルを渡したバーテンダーは、かつてお付き合いをしていた男子だった。

偶然出会って、あの時の事を思い出した。そして、あの時の彼女はもういないと分かったことが、ある一歩を踏み出せた。


「なんか珍しいな。自分から提供するなんて……」

「いえ。……その、今ので吹っ切れられたっていうか」


可愛かったんだ。ノゾっちはホントに。……でも、俺には無理だった。

バーテンダーになって彼女に振舞うとか、カッコイイ事はもう言えない。だけれど、それで。

今の人は、今しかいないんだ。


「婚約指輪、今年中に買うっす!」

「お!ついに噂の彼女にプロポーズ?」

「ええ、勝負をかけます」


あの時、ホントにしなかった事は……。

誰が言ったか忘れましたが。

当時の男子の誰かが、隣のクラスの女子に、”リコーダーのテストあるのに忘れたから貸してくれ”とか言っていた猛者がいたような気がしました。

怒鳴られたのは当然だと思います。

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