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はんざきとハル 三

「あんた名前は?」

 まず服を着ている方のハルが先手を打って尋ねた。

「ハル……釜戸村のハル。」

 裸の方が答える。

「嘘を言うな!私がハルだ! 」

 そう凄まれて、裸のハルは怯んだ。 自分に自信が持てなくなったのだ。元から着ていた服を纏った目の前の自分そっくりの女よりも、裸で髪を振り乱した姿の自身の方が明らかに異様であったからだ。

「あんたは、化け狸か? 」

「あ、あんたの方こそ…!」

 やはり裸の方のハルは根気負けしてしまう。

 しかし服を着た方も、相手の姿を見て不憫に感じたのか

「ごめん、言いすぎた。辻斬りを倒すために私に化けて一緒に闘ってくれたんだものね」

 と謝るが、裸のハルを狸ということにしている。

「でももう私の姿になるのは勘弁してくれ。じゃあね」


 そう言って服を着ている方のハルは去った。



 残されたハルも、このままではどうにもならない。

 まず着るものだ。

 そばで倒れているを男を見た。

 ハルは男の血にまみれている服を剥ぎ取った。多くの人を斬ったであろう忌々しい刀も奪ってやった。

 近くの小川で体に付いた泥や服の血をできるだけ落として、ハルも自分の家へと向かった。

 自分そっくりのあの女が先に居ることは予想できた。それでも行かずにはいられなかった。


 すっかり日は高くなっていた。

 ハルの母は、朝早くに一人で勝手に出かけて行ったハルを叱ってやろうと待ち構えていた。

 しかし帰ってきたハルの様子を見て何も言えなくなってしまった。

 いつも着込んでいる古着の小袖は血にまみれ、背中が大きく裂かれていた。

「ハル!あんたどうしたんだい!?これ誰にやられたの?!」

 母の叫び声につられて、外で夢中になって遊んでいたハルの弟やその友達も集まってきた。

 母の声に安心したハルは、今までのことが一気に噴き出してきたのか、泣いてしまった。

 ハルが思いっきり泣いたことで、母はハルに命の別状がないことは覚った。服が裂かれた背中もよく見ると大きな怪我はないようだ。

 しかしこの様子ではハルは当分何も答えられまい。母はひとまずハルを休ませることにした。

 人を斬りつけたハルの疲労は激しかったらしく、眠りにつくのも早かった。



 一方、辻斬りの服と刀を奪ったハルは、家へ帰ろうとしたが途中で挫折してしまう。

 家に帰る道の途中で見知った村人たちに会っては「さっきも会ったじゃろう?」とか「さっき血まみれだったけど大丈夫か?」などとやたら声をかけられた。さすがに家に戻るのは難しいと思い、早くも引き返してしまった。


(これからどこへ行こう…)

 ハルはひとまず村にある神社の裏手で休むことにした 。幸いなことにここは今、誰もいない。

 ハルはひどく疲れていた。

 社殿の柱を借りて、そこにもたれかかった。


(やっぱり私は化け狸なんだろうか )

 眠っている間に過去のことを思い出す。

 家族と過ごした日々

 村の友達と遊んだ幼い頃


 私には今まで<ハル>として生きてきた記憶がある。

 私は化け狸じゃない。

 私は本物だ。

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