その8
アレクサンドラお嬢様は、本当に、どのお召し物もよくお似合いになられる。将来のお姿がとても楽しみである。
奥様のように…とは、ちょっと違うか。
お嬢様のご生母である、ガーネット・ランドレード伯爵夫人は、美しい方だけれど、伝統的で重厚なドレスより、流行の飾りをちりばめた華やかなものの方がお似合いになる。
そうだ。今日いらっしゃる、おばあ様なら。タランティーナ・ユリア・ランドレード様ならば、重厚なドレスでも負けず、むしろ輪をかけて威厳のあるお姿になるだろう。
タランティーナ様は、先代のランドレード伯爵であり(この国では女性でも爵位を持つことができるのです)、才媛かつ清廉、実直なお人柄で王室からの信頼も厚く、領地においては大規模な農業改革を行って、現在の豊かなランドレード領を作り上げた方なのだ。
今は爵位をご子息(アレクサンドラお嬢様のお父上、トーマス・ユリウス・ランドレード伯)に譲られ、領地内の別邸で暮らしている。
そしてたまに、息子たちの様子を見に訪ねてこられるのだ。
そんなタランティーナ様に合わせる1週間が、始まるのだ。
覚悟を決めるかのように、私はお嬢様の衿のホックを止め、お嬢様もぐっと顔を上げて鏡を見た。
私はホックの留め忘れがないか、お嬢様の全身を確認する。なにせ全身のいたるところがホックでぴっちりと留められているのだ。
よし。大丈夫。
顎のすぐ下まで留める服に慣れていないお嬢様は、窮屈そうに顔をしかめている。
すみませんお嬢様。
貴族のご令嬢とはいえ、今時こんなドレスは着ませんものね。
お嬢様には椅子をお出しし、私はその後ろに立つと、髪を整え始めた。
朝食の時には軽く結っていたので、それを解き、梳く。淡い金色。光の当たり方によっては銀にも見える、輝く髪。
綺麗だなー
いやいや。今はそんな呑気にしている場合ではないでしょう? エリー。
つづく