その5
忘れもしない、6か月前。
11月の寒い1週間、あの方がお屋敷に滞在していた。
私はお嬢様付きになったばかりで勝手がわからず、先輩方が指示するままに準備を進めた。
準備とは、お嬢様の服にすでに付いている装飾を、わざわざ外すことだった。
フリルやリボン、飾りボタンに飾りレース…スカートをぐるりと1周するレースのフリルなんて、糸を着るときレースまで切ってしまわないかとても気を遣った。そんなことまでする必要あるのか、と思った。思わない?
でも必要なことだったらしい。
お嬢様の装いは毎日チェックされ、良しとされなければ食卓につくことが許されなかったのだった。厳しい…
だったら「この時用」に地味目なドレスや靴を幾つか用意しておけばいいではないか…そう思ってしまう。が、王族でもあるまいし、成長著しい8歳のお嬢様に、地味とはいえ質のよいドレスを1週間分も用意しておくなんてできない。
しかもそれがばれたら大変だ。
そして何より奥様は、そういう、質実なお買い物がお嫌いだ。
というわけで私は6か月前、あの方が帰られた後、外した装飾を再び縫い付けた。外すのにも四苦八苦したが、戻すのはもっと大変だった。肩が凝るし目が疲れるし、最終的には体が凝り固まったうえ疲れているはずなのに眠れなくなった。
このお屋敷に来て最初に覚えた仕事は、装飾の付け外しだったわけだ。
あれをまた、やるのですね。
いいですよ、やろうじゃありませんか。
面倒で大変だけれど、お嬢様のためなら。
お嬢様が必死でお勉強なさっている間、私だって頑張らねば。
それに、お嬢様が…
お嬢様が、どんなお召し物でもとっても良くお似合いになってしまうんですもの…!
いつもの飾り立てたドレスがお似合いなのは勿論のこと、シンプルを通り越して、ちょっとつまらない、大人しすぎるドレスであっても、お嬢様が持つ美しさや可憐さは全く消えてしまうことがない。いやむしろ、地味な恰好がお嬢様のよさを引き立てる…
この発見が、私にやる気を与えているのだ。むしろ楽しみなくらいである。
同じドレスの、装飾ありとなし。
そのどちらの姿も見られるのですよ。
そのためなら頑張れるのです。
つづく
むしろ楽しい。