その4
事は掃除だけでは収まらない。
厨房では、あの方の滞在期間にお出しするメニューが練られている。ただ美味しいものを出せばいいわけじゃない(らしい)。
料理人見習いのジョルノによると、高級な食材を豊富に使えば経費が云々と言われ、かといって逆だと、貴族としての品格が云々と言われ…大変らしい。
庭師もいつも以上に手入れを怠らない。来訪の日からお帰りになるまでの期間が最も見頃になるように、前もって計算の上、選定作業に取り掛かっている。庭師のソネットさんたちは、暗くなっても灯りを手に、作業すると言っていた。
なんだか屋敷中が慌ただしく、緊張感に包まれていた。
その落ち着きのない雰囲気のせいで、家庭教師のマルセル先生は、いつもより早い時刻にお帰りになってしまわれた。
アレクサンドラお嬢様は、残念に思われたに違いない。
私もお二人との時間が短くなり、物足りない気持ちでいる。
しかしいつまでも落ち込んでいる暇はなかった。
お嬢様には、これまでの復習が待っている。
先生が帰られた後、早速書斎で本を広げている。
それから私。
私は、アレクサンドラ・ユリア・ランドレードお嬢様のお付きの侍女である。
よって今回の私の役目、最大の仕事は、
『お嬢様のお召し物の準備』
である。
伯爵令嬢にふさわしい格を保ちながらも、華美に偏らず、清潔感と少女らしさのあるもの。
…と、言葉にすれば簡単だけれども、実現するのはなかなか難しい。
品格、という点では、我がアレクサンドラお嬢様におかれましては全く問題はない。
立ち姿は一輪の薔薇のように華やかであり、お座りになればネモフィラの小花が満開になったような可憐さ、歩く姿はまるで風にそよぐラベンダーのごとき清らかさなのだから。
そのように何をしていてもお美しいお嬢様ゆえ、奥様をはじめ、侍女である私たちもついつい、お嬢様に見合ったお召し物をと、ドレス、アクセサリー、靴などのあれやこれやを凝ったものにしてしまいがちであり…えーつまり、知らず知らずのうちに、華美な方向に行ってしまう傾向がある。
でも、3日後にいらっしゃるあの方は、派手なものがお嫌いだ。
それはもう、憎しみすら持っているのではないかというくらいにお嫌いだ。
つづく
お嬢様がお可愛らし過ぎるのが悪い…ううん悪くない。