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その2

 あの方がここ、王都にあるランドレード家のお屋敷にいらっしゃるという知らせが来たのは、5月も半ばに差しかかった、一昨日のことであった。

 知らせはいつも急にやって来る。

 たぶんわざと。

 今回の滞在は今日から数えて3日後。1週間程度の滞在になるらしい。



 マルセル先生は、いつもより熱心に話を聞くお嬢様に少し驚かれていた。

「もしかして…」

 先生はお嬢様を見、それから私に問いかけるような視線を送った。お嬢様は外国語の翻訳の課題に向かっている。難しそうなのは眉間に皺を寄せているからわかりますとも。先生の問いに答える余裕はなさそう。

なので、私はお嬢様の代わりに黙って頷いた。

「そうか」

 先生も少し困ったな、という表情を隠さない。

 ですよね。先生にまであれこれお小言をおっしゃる方が来るんですもの。

「屋敷の中が慌ただしい気がしたから、そうじゃないかと思っていたんだ」

「落ち着かなくて申し訳ありません」

「いや、私のことは構わないよ」

 言いながら、マルセル先生は軽く微笑んだ。

 どうも先生は、屋敷内ではお客様扱いされていない感がある。ないがしろにしている訳ではなく、どちらかというと主の親類的な、身内のような扱い。だから屋敷内のバタバタも、隠すことがなくバレバレなのだ。

 先生はお嬢様の家庭教師を3年勤めて下さっているし、その前から旦那様のお知り合いらしい。言葉も物腰も落ち着いていて優しげであり、私たち使用人にも慕われている。

 何より。

 お嬢様がとても懐いておられる。

「で、いついらっしゃるんだい?」

「3日後です」

「そうか。では暫くはみんな大変だな」

 ふとお嬢様を見ると、お顔を机から先生の方に向けていらっしゃる。

「先生ごめんなさいね」

 お嬢様が悲しそうに仰った。「私の出来が悪いから、先生が叱られてしまうの」

「そんなことはないよ、サーシャ」

 先生はとても優しい声で答えた。「君はとても優秀な生徒だ。ただ、求められているレベルが高すぎるだけだよ。それだって君の努力次第では乗り越えられると、私は思っているよ」

 先生がお嬢様の頭をそっと撫でた。お嬢様は嬉しそうに、まるで猫のように目を細めた。

「先生…私、がんばる」

 なにかエネルギー的なものをチャージされたようにお嬢様が元気になられた…ように、私には見えた。姿勢が良くなり、声も大きい。

「先生が褒めて頂けるよう、私がんばるわ」

 あの方がいらっしゃれば、お嬢様は勿論のこと、勉強の進み具合をチェックされる。だから知らせが来てからは急に真剣にお勉強なさっておいでだ。

 普段からこのくらい熱心に…いやよそう。マルセル先生も、同じこと考えていそうな表情で、でも微笑むばかりで何もおっしゃらないのだから。



つづく

お嬢様の行動でいろいろわかるマルセル先生。


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