その1
おはようございます。
私エリー・ワッツは、今日も『こちょこちょこちょ』とお嬢様を起こしたところです。お嬢様がこちらを見る前に、手はちゃんと隠しましたですよ。
私がお仕えする、アレクサンドラ・ユリア・ランドレードお嬢様は、まだ眠そうなお顔をしながらも、起き上がった。私が運んできたお水で顔を洗い、ベッドから出る。
今日はどの服をお選びになるかな?
私と同じ侍女のサラが、今日も3つの服を選びだし、並べているはずだ。
私はお嬢様の後について、寝室から居間に出た。
今日の3点は、
・黄色のワンピース(花柄の刺繍入り)
・ベージュと赤のチェック柄ワンピース(裾が長め)
・紺色のワンピース(袖や裾が細身でお姉さんぽい)
お嬢様はそれらを見比べる。
そして、
「これにするわ」
素っ気ない言葉とともに、指差したのはチェックのドレス。
でも、私とサラがドレスを着せようとすると、寝間着のままソファに座ってしまった。
「お嬢様。お着替えなさらないのですか?」
私が訊いたけれど、答えない。膝を寄せて背を丸くして、じっとなさる。つまらなさそうな表情。
そ、そんなお姿もお可愛らしい…まだ8歳ですもの。いやこれはアレクサンドラお嬢様だからこその、いつもの怜悧なお姿とのギャップがもたらす…
待って待って。まず私が落ち着きましょう。いくらお嬢様が愛らしいからといって、侍女の私が舞い上がってはいけない。
お嬢様。そのままではいけません。朝食の時間までに身支度を済ませ、伯爵令嬢らしい整ったお姿にしなければ。
私は、アクセサリーボックスの蓋を開け、お嬢様の傍らに跪いた。
「今日はどの髪飾りにいたしましょうかね」
サラもやって来て、覗き込む。「こちらのリボンや、下の飾りなんて、お召し物とよく合うのではありませんか?」
「私もそう思っていました。リボンは模様が似ていますし」
「この櫛型の飾り、水晶の色がお揃いになりますわ。とてもきれい」
「…そうね」
横目で見ていたお嬢様が、渋々と言った様子で仰った。「その、髪飾りの方にするわ。髪型はあなた達に任せる」
ふう。ご機嫌が少し良くなられた。
実はこのところ、お嬢様はご機嫌を損ねていらっしゃることが多い。いつにも増して私たちにも冷たい。
それはもうじき、あの方がやって来るから、だ。
つづく
おしゃれアイテムは豊富にありそう。
読んで頂きありがとうございました。