猫たちと魔法
純白の猫が月光の光を浴び、銀色のそれに包まれると寒空の中、一人の可憐な少女になった。
彼女は枯木を見上げては目を細めて歩いて行った。
ミンクで出来た様な純白のロングコートに両手を突っ込み、黒猫を見つけると手をすっと上げた。
黒猫は彼女の肩に飛び乗って温かい舌で彼女の冷たい頬を舐めた。
木々の陰が雪の上に降りる中、黒猫も月光を浴びで少年になると、どしんと雪の上に倒れ込んだ。
「もう!気をつけてよ!」
彼女は黒髪のロングを掻き上げ舞った雪を払った。
少年は黒のショートジャケットの腹を可笑しそうに叩いて突き出る真っ白の足を雪に転がりばたばたさせた。
少女は彼を睨んでから立ち上がり、水色の瞳で月光と青の星の瞬きを見上げてから少年を引き起こした。
少年は緑色の瞳をくすくす笑わせて、黒ファーのマフラーを正した。
「今日はミーティングがあるんだ」
猫の井戸端会議だ。
「じゃあ、急がなきゃ」
少女はまたコートに手を仕舞って歩いて行き、一回り背の低い少年も着いて歩いた。
雪を踏みしめるごとにパキパキ音が鳴り、閉ざした口は寒さで堅かった。
「早く雲で隠れないかな。寒くて仕方無いよ」
「妙な世の中になっちゃったわよね。魔法のせいで」
そう肩越しに少年を見下ろしながら言うと、彼女は白ファーの襟巻きを分割して四角いファーの帽子を作ると頭に深くかぶった。
「ねえ。いつになったら許されるのかな」
「分からないよ」
2人は雪原を歩いて行き、雪が舞った。
人間の少女は雪を回せたガラスボールを見下ろしていたのを、暖炉のくすぶる室内を振り返った。
もう、クリスマスの飾りが綺麗に成されている。
もう一度ガラス珠を見下ろし、2人猫が歩いて行く。
少女が走って行ったために、2人は天を振り仰いだ。
月が消えて、彼女達は再び猫に戻って一気に走り出して行った。
広場へ今から向うのだ。
人間の少女は金髪を母親に撫でられ、見上げた。
「ママ。今日はシチュー?」
「そうよ。楽しみにしていてね」
「うん!」
少女はソファーに走って行き、毛糸のセーターの腕を伸ばして飼い猫のチンチラを撫でていた。
「ココア。はい」
ママが暖炉で暖めていたミルクにココアパウダーを入れてかき混ぜ、少女に渡した。
彼女は受け取ると、彼女のスカートと白のタイツの上のチンチラが何かに反応した様に駈けて行った。
少女は瞳でそれを見て、両手でカップを持ってココアを飲んだ。
チンチラは雪の降りしきる出窓に駆け上り、飾りの中を歩いて夜闇を見つめた。
他の猫達が集会のために歩いて行く。
チンチラは走って行き、玄関の猫ドアを潜って行った。
少女はうきうきして窓に掛けて行き、それらを見送った。
ママの背を振り返り、また猫達を見る。クリスマスツリーの横の円卓の上のガラスボールをまた見下ろした。
草原の中を歩いて行く猫達はそれぞれに挨拶をし合っては、キラキラ輝く月が現れたのを見上げた。
美しいシルバーホワイトのチンチラはシルバーの髪をなびかせた純白の女性になった。
他の猫達も人間になっていく。
「さあ。急ぎましょう」
女性はそう言い、人々を引き連れ歩いて行く。
月を仰ぎ見て、女性は綺麗に微笑んだ。
女の子は満面の笑みになってガラスボールの中の小さなその女性を見下ろし、ママに呼ばれたのを振り返って華麗にセッティングされたダイニングテーブルに座った。
「ママ。デラデルおじさんはいつ来るの?おじさんにもらったプレゼントのガラスボール、凄いの」
「そうね。彼は魔法使いで忙しいから。でも、今夜は来てくれるって言っていたわよ」
「楽しみだね!」
猫達は雪野原に勢ぞろいしていた。
サイドの凍りついた湖には白鳥が半分凍っていた。
「ねえ。本当に猫様はあの魔法使いの仲間になるのかしら」
「分からないよ。まだ」
純白の少女と漆黒の少年が膝を抱え話し合うのを、女性は微笑んだ。
「大丈夫よ。彼は優しい人だから」
「本当?」
「うん」
「自然の摂理の生むこの雪の美しさ」
女性の横に長身の若い男が立ち、毛足の長いメイクーン色の髪をしている。
「俺が彼に取り合って来た」
彼は魔法使いの飼い猫だった。
「今日は温かいシチューをもらって来てくれると言っていた」
茶色の鋭い猫目でそう口端を上げ、みんなが顔を見合わせ喜んだ。
デラデルおじさんはたくさんのプレゼントの箱を持ってクリスマスリースの掛かった木ドアをノックした。
女の子は喜んでママの顔を見て、玄関に走って行った。
背を伸ばしてドアを開け、金のシャンデリアが彼を見上げた女の子の顔を輝かせた。
「やあ。猫達は元気だった?」
「うん。ちょっと寒がってたわ」
「そうか。でも大丈夫。猫だから」
「ふふ。そうね」
おじさんは女の子と共に進んで行き、ダイニングテーブルの所まで来るとママは微笑んだ。
「いらっしゃい。今日はシチューを作ったわ。パンも焼いたの」
「いい匂いだ」
「ええ」
彼は椅子に腰を下ろし、指先をくるんと回してプレゼントの箱をもみの木の下に並べた。女の子はうきうきしてママの顔を見てからおじさんを見た。
「今日はどこに魔法に行って来たの?」
「鉄道だ。雪が酷くて線路が固まってしまったから暖めて来た」
「良い事したね!」
「ああ」
おじさんも微笑んでから、祈りを捧げてシチューを食べた。
猫達はみんなで火を起こして身を寄せ合って暖めあった。
広場の横のログハウスから、魔法使いが手招きした。
みんなは喜んで走って行き、デラデルを見上げた。
「ほら。シチューをもらってきたよ。おあがり」
彼は指を回して煌きと共に長いテーブルが現れ、器に胴鍋の中のシチューを彼等に小分けして行った。
「おいしそう!」
「猫舌だから火傷しないようにね」
「はーい!」
彼等は木のスプーンを分け合ってシチューを食べ始めた。
「春には帰るんだ。そうだよな」
青年がデラデルを見て、彼は頷いた。
「それまでには君達の全員のご主人を探してあげるから」
「魔法で?」
「そうだなあ。なんていうのかな。交渉って言うんだ。一つ一つの家に行くんだ」
「大丈夫かな」
チンチラとメイクーン以外はみんなが野良猫だった。身を寄せ合って寒空の中を過ごしている。
「大丈夫よみんな。安心して。彼は人の心が読めるから、優しい飼い主を探し出してくれるわ」
「春になるまで間に合えばいいね」
女の子はベッドに入り、ママが毛布とキルトを掛けておでこを撫でた。
女の子は微笑み眠りについた。
チンチラは帰って来ると、ミャンと短く鳴いて女の子の顔の横で丸まった。
彼女もこの家に、魔法使いに連れられて女の子にプレゼントされた猫だった。
大丈夫。みんな優しい飼い主に回り逢えるわ。春になる前に。
魔法使いはその日も猫を抱えて、ドアを叩いた。可愛らしい顔をした男の子が街の魔法使いのおじさんを見上げて、黒と白の子猫を見上げて満面に微笑んで受け取った。
「可愛い!パパ、ママ見て!デラデルおじさんに子猫をもらったよ!」
魔法使いのおじさんは微笑み、男の子の肩越しの2匹の猫にウインクした。子猫たちも嬉しそうに微笑んだ気がした。それが魔法使いのおじさんにはわかっていた。
おわり