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第八回 ギリギリのギーリー

 





 やれることはすべてやった。取り入れる物は柔軟に、こだわりのある部分は頑なに、城華節に向き合ったつもりだ。再度貰ったこのチャンスを無駄にはできない。あれから一週間が過ぎ、俺達は剣道場に再び立っていた。


「どうやら、しっかり仕上げて来たようね」

「よろしくお願いします」

 

 言葉などはいらない。静まり返った剣道場に緊張感が張り詰める。一矢乱れぬ構えで、お囃子に耳を傾ける…… 

 始まりの所作はぴったりと揃った。前回とは比較にならないほど、踊りに躍動感がある!その中にも静と動のメリハリが表現され、菅笠の回転が止まる度に、パシッ! という乾いた音が響き渡った。


(しっかりと呼吸を合わせろ。独りで踊っているんじゃない、みんなの気配を感じとって、踊りの流れを掴み取るんだ)


 大輝の想いは、しっかりと仲間にも伝わっている。悠一と隆も寸分違わずとまではいかないが、綺麗に揃えてきた。男衆が力強く踊りを踊れば、中盤で合流して来た志穂と灯里が艶やかな女踊りを披露する。


(こ…… この子達に何が起きたの?)


 愛子の口角がじわじわとあがっていた。(ポーカーフェイスを保たなくては!)と自分を戒めても、自然と(えみ)(こぼ)れていくのが解る。これはテストなのだ、情にほだされてはいけない! と強く意識するのだが、愛子は身体の奥底からグツグツと湧き上がってくる”熱いもの”を抑える事が出来なかった。


「馬鹿だな私…… チョロすぎるじゃない」


 お囃子が最後の節を終える頃、愛子は目頭に熱いものを覚えながら小声で呟いていた。


 大輝達が踊り終えて礼をする。その目にはやり切ったという自信が満ち溢れ、今にも爆発しそうなくらい興奮していた。


「あっ…… 貴方達、何とか見れる位にはなったんじゃない!」


 安藤先生が強がってるのを、その場みんなが気付いていただろう。俺は思わず笑っていた。

「その割りには、やけに手足がソワソワしてたじゃん」

「ちーがーいーまーすぅー! これはこれからが思いやられると、思っていただけです!」


 顔を真っ赤にした安藤先生が、涙ぐんだジト目で反論してきた。その姿がめちゃくちゃ可愛くて、相手が教師だということを忘れてしま……


「えっ!……」


 俺達は耳を疑った。それって……


「だから合格って言ったのよ。でも、勘違いしないでよね! 合格と言っても、ギリギリのギーリーーの及第点なんだからね」


「おっと!? こんな所に素直になれないお嬢さんがいらっしゃる」

「大輝さんや、アレはツンデーレという病を発症した痛いお嬢さんなのです。ほら、見てはなりませんよ」

「なるほど! だから笑顔で手足が踊り出してても、知らぬ存ぜぬの一点張りなんだね。志穂さんや」


 俺と志穂はニヤニヤしながら、安藤先生について語っていた。何だかんだ言って安藤先生は顧問を受ける気だったんだ。多分こちらが諦めても、関わる気満々だったのだろう。そんなことを考えていたいたら、安心して力が抜けていた。


「うわぁ、やばい…… 力が入んねー」

「あははは! 大輝、産まれたての小鹿みたい」

「そういう志穂だって、腰が抜けたんじゃないのか?」

「ちょっと休んでるだけだしー」


 ……


「言いたいことはそれだけかしら…………」

「!?」 「!!!!」


 俺達の背後には、目の座った安藤先生が…… なお、他の者達は我を見捨てた模様!


Excuse me(えくすきゅーずみー)


 三人揃って逃げ出している。(お前ら、随分と懐かしいネタぶっ込んできたな! 魔◎英△伝ワ□ルなんて、俺達の世代じゃ解る奴居ねぇよ!)などとツッコミつつ、自分のアニオタ顔負けの博識さに恐れを感じていた。まるで、絶体絶命な自分達を忘れるかのように……


 このあと取り残された俺と志穂。安藤先生はこのあと滅茶苦茶……

 ○△□した。





 勿論、説教をしたのである。ん…… 何か?



「安藤先生ハ素敵ナ先生ダナー」

「ソウダネ、美人デ気ガ利ク優シイ、オ姉サンダヨネー」


 俺と志穂は二人で外を眺めていた。青空に羽ばたく(とんび)か気持ち良さそうだ。あれ?カラスかな……


「そこでしばらく反省しなさい!」


 滅茶苦茶怒られて茫然自失な二人は(注、この時の記憶は全くありません)ほっとかれ、安藤先生と投降してきた三人で話し合いが始まった。


「これで同好会の設立の条件はクリアー出来たわけね」


「は…… はい、書類を提出して審査に通ればオッケーかと……」ビクビクッ……

「ううっ…… 審査なんて形だけだから問題ないよね」ぷるぷるっ……

「ワシは愛ち…… ゲフンゲフン! 安藤先生が来てくれて涙目(いろんな意味で)」ガタガタっ……


「貴方達、怯えなくてもいいわよ。あの二人は、あれくらいが丁度いいんだから。ところで、他にも部員の候補は居るの?」

「今のところはまだですが」

「フェスティバルに参加したいのなら、このままじゃ無理よ」

「そ、そうなんですか?」


 安藤の指摘に驚きつつも、やはり駄目かと心当たりのある悠一。それを見ていた安藤は、持参してきた書類の中から”大会運営条項”なる物を提示した。


「気付いていると思うけど、大会に参加する為には圧倒的に人数が足りてないわ。まず入賞を狙うなら、踊り手は最低でも六人は欲しい。それに地方(じかた)も必要ね」

「地方?あの後ろでお囃子を演奏してる人達ですよね」

「そう、演奏や合いの手など、とても重要なセクションだわ。大会では踊りだけではなく、お囃子の出来不出来も採点の大きなウエイトを占めているの。これが四人は必要ね」


 悠一も薄々は気付いていた。しかし、詳しい内容は把握しておらず、同好会設立後でも良いかと思ってたのだ。


「あと他には、そうね…… 楽器の手配は学校で何とか出来るとしても、衣装の準備が大変なのよ。郷土芸能って、お金が結構がかるの」


「そこは愛ちゃんの力で何とかならないの?」

 復活した志穂が尋ねる。


「おっ、復活したか。勿論、私も色々当たってみるけどね。志穂、貴女の家にもアテがないかしら?」

「うちはどうかなぁ。出入りしている呉服問屋さんに聞いてみるか」


 何とか安藤先生に顧問就任をお願いする事が出来た。色々と課題は山積みだが、やっと動き出した郷土芸能部(現在は同好会)に胸が高鳴る大輝達なのだった。


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