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第五回 お願いします……





 五月中旬、続き。




「ふぁ〜あ……」


 放課後のいつもの教室。部活の顧問を安藤先生にお願いすることに決めたのだが、志穂が反対して話が進まない。他の先生にもあたってみたのだが、(かんば)しい返事はもらえず堂々巡りが続いていた。

 欠伸(あくび)を咬み殺しながら…… 今、したけどね。渦中の志穂はというと…… 話題をはぐらかし読書中だ。

 

(ああなると、志穂はテコでも動かない頑固者だ)


 うんざりしながら机に突っ伏していた。しばらくの間、教室の時計が分針を刻んでいると、廊下から楽しげな話し声が聞こえてくる。声の主達は教室の前で立ち止まり、扉を開け覗いてきた。


「あれ? 関くん、何かで使ってたかな?」


 二人の女子生徒が居た。声を掛けてきたのは、お下げ髪が良く似合う、人の良さそうな普通っ子の羽島(はしま)みのり。隣町の砺波中(となみちゅう)から来た生徒だ。育ちが良く、聞けば街一番の呉服屋の一人娘だそうだ。


「お構い無く、入ってきていいよ。忘れ物?」

「うん、ちょっとね」


 一緒に羽島の友人、飾西(しきさい) (つばめ)の姿もあった。

「やっほー」


 飾西 燕は両親が日本舞踊の先生をやっているらしく、名前も和風っぽい。見た目も、前髪を切りそろえた黒髪のロングで、仕草も様になってる。性格は結構フランクだけど。志穂が羽島達に気付いて、キョロキョロと周りを見渡している。


「あれ? 羽島さん、れんれんは一緒じゃないの?」

「れんれんは、この前のテストでおふざけが過ぎて呼び出されてるの」


 ”れんれん”とは彼女達と同じ砺波中出身の蓮華寺(れんげじ) (すみれ)のことだ。濃い茶髪のロングを振り回し、入学早々に問題児カーストの頂上を脅かさんとする女だ。サバサバしてて悪い奴ではないのだが、見た目は良いのに中身は漢だ!すでに志穂とはマブダチらしい。マブダチって……。


「菫は中学では成績優秀だったんだよ。うちの教室でも、お母さんにお小言(こごと)言われてるよ。やれば出来る子なのにやらないんだよねーって」

「そうそう。これから三人で稽古に向かうんだけど、燕ちゃんに負けないくらい菫ちゃんも上手なの。私、下手っぴだから肩身が狭くて」

「では、ご機嫌よう」「バイッ!」


 笑いながら二人は、忘れ物を回収し教室を去っていった。



 志穂の方へ目をやると、なんか不貞腐れてる。彼女を差置いて他の人と盛り上がると、何時もこうなる。へそを曲げられても面倒なので、機嫌を伺いつつ話かけてみる。


「志穂、何読んでいるんだ?」


 チラリとこちらを見ると、また本に視線を移し応えた。


「本……」

(もう手遅れらしい……)


「ライトノベルだよ。今、大人気なんだから!【現世界食堂】」


 灯里が助け舟を出してくれた。本を覗き見ると、可愛らしい悪魔風のコスプレ? をした女の子が表紙に描かれている。


「現世界食堂? ああ、異境界食堂のことだよな。オレも好きなんだよ。面白いよなぁ」


「違いまーす! なになに大輝知らないの〜お? あ、ごめんねぇ、文字の多い本なんて読めないかぁ。ぷぷぷっ♪」


(機嫌直したかと思ったら、イラッ……! 殴りたい、その笑顔……)


 悠一がそんな志穂と俺のやりとりを苦笑いしつつ見ていた。隆は我関せずといった感じで、目を閉じて座禅をしながら意識を集中………… いや、寝てるだけだった。


 俺は志穂と灯里に疑問を投げかける。


「ソレってあれか? いきなり現れた扉を開けると美味しい洋食屋に行けるのか?」


「なにそれ?もちろん食堂に決まってるじゃん」


「なっ!? じゃあ、食堂の店主はイケメンのダンディな二代目じゃないのか?」


「普通の爺ちゃんと婆ちゃんがやってるんだよ。創業七十周年」


「長っ!後継者問題深刻だな!じゃ…… じゃあ、トレジャーハンターの女性客とか、若い伯爵とか、美人な亜人の姫とか、遭難した髭面の将軍が客で来たりとか……」


「来ないよぅ、近所のおばちゃんとか、サラリーマンのおじさんだよ」


「客層狭いぞ! めっちゃローカルだよな! でもでも、飛び込みの客とかにカツ丼とかカレーライスとかメンチカツ出して客が感動して涙流したりする……」


「だから違うよ! 疲れ果てたサラリーマンの身体を気遣かい、人肌のビールに、ラップのかかった冷奴と玉子焼きを出してあげるんだよ。それでサラリーマンは感動の涙を流すんだよね。おふくろの味だって。奥から聞こえるチン! って音に懐かしさで肩を震わして静かに男泣きするの。感動するなぁ〜」


「それ絶対違うよな! 一見さんで入ったら、おかず作り置きでビールも温くて(失敗した〜!)って後悔してるよな。料理してると思ったらレンチンかよ!って呆れて何も言えねぇって感じだよな!」


「もう、いいから。大輝も知らないんだったら、見栄はらずに読めばいいのに」


 志穂がヤレヤレとばかりに、生暖かい目で俺を見ている。


(………… 。)




「いい加減、話を進めようぜ」


 このままでは埒が明かない。こうしてる間にも安藤先生を顧問にして同好会を立ち上げようとしている輩が居るかもしれないのだ。


「志穂!なんで安藤先生じゃ駄目なんだ?」

「だって厳しそうじゃん、安藤先生」

「それが問題になるのか? 全国狙うなら、名前だけの責任者は要らない。そうだろう?」

「わかってる! ……けどさ、嫌なんだよね……」


 そう告げると、志穂は本を片付けて教室から出ていった。そんな俺達のやり取りを見ていた灯里が、気を使い志穂を追いかけてくれた。


「仕方がない。大輝、隆、僕達三人で頼みに行こう」


 志穂の事は気になるが、まず同好会として立ち上げられるかの瀬戸際でもあり、職員室へ向うことにした。




「失礼しまーす、安藤先生」


 職員室に入るとインスタントコーヒーのまったりとした匂いや、印刷機の匂い、そして何とも言えない緊張感が漂っている。先生の席は、すぐに見つけられた。しっかり整理されており、小物のセンスもなかなかだ。やはり、安藤先生が適任だと思った。





「ん? 長月君達どうしたの。テストの点は上げられないよ」

「違います! 実は先生にお願いがありまして…… 」

「なーに?」


(よし、まずは僕からいこう)と目で合図をした悠一が切り出す。


「その前にお聞きしたいのですが、安藤先生は何処か部活の顧問をされてましたか?」

「いいえ、していないけど…… 貴方達、部活動の顧問を探してるの?」

「はい、そうなんです! 新たに部活動を立ち上げたいと思っているのですが、なかなか受けてくれる先生がいらっしゃらなくて」

「ふーん…… そうなの。 で、どんな部活をつくるの?」

「郷土芸能部です。」



 安藤先生の顔色が変わったような気がした。何か少し…… そう、興味が湧いて来た、みたいな……



「郷土芸能部!? え、君達どんな活動をするつもりなの?」

「ざっくりと言えば、フェスティバルに出たいんです! そして日本一になりたい」

「フェスティバル? 日本一!? こりゃまた大きく出たのねぇ!」


(なんて無謀な!)的な表情だ。それは百も承知だ。


「じゃあ、結構踊りを踊れるんだ?」

「いえ…… まだ何も踊れません」


 急に安藤先生の表情が曇る。そりゃあそうだろうな。フェスティバルの出場を狙っているのは、小学生の頃から真剣に祭り行事にかかわっている人達がほとんどだ。他には習い事で教室に通っている人達とかもいる。


「え?……………… そう。じゃあ、何で私に顧問を頼みにきたの?」


 ここは正直な気持ちをぶつけて、俺達の覚悟をわかってもらおう。三人の視線が交わり以心伝心、押して!押して!押しまくれっ!勝敗の是非ここにあり!


「そりゃあ、安藤先生は美人で他校に自慢出来るし、若いのにしっかりしてると校長先生からの推薦でもあるし。あと、優しく指導してもらえそうだからです。お願いします!先生!」

「我々で議論したところ、これがベストと判断し安藤先生の御指導を頂戴したいと思う次第です」

「先生だけが頼りちゃ!頼むわ」


 しばらく考える安藤先生。


「………………うん、いいよ」

「やったー!」

「ただし、条件があります。一週間(いっしゅうかん)あげるから、貴方達のやる気を見せて頂戴」


 駄目で元々だったわけで、条件付きでも可能性があるのだから二つ返事でオッケーした。


「やる気ですか? わかりました!何でもやります。で、具体的に何をやればいいですか?」

「城華節の男踊りと女踊り、一週間後に私の前で踊ってもらいます。及第点を取れれば、顧問を受けてもいいわ。できる?」


(城華節なら小さな頃に少しの間やってたので何とかなりそうだ)


「よぉし! やってやる……」

「ところで、部員は集まったの?」

「はい、今のところ五人集めました」

「……そう、わかりました。ところで長月君達って斉藤 志穂と仲良かったわよね」

「はい、メンバーにも入ってます。志穂が何か?」


 少しニヤッとした先生を見て疑問に思った。


「ん〜? 何かあるって訳じゃないけど、要所は押さえてるんだなぁと思って」

「志穂が要所?…… 先生、志穂と知り合いなんですか?」


 左腕を伸ばし、右手で支ながら大きく伸びをして先生は答えた。



「うん、よーく知ってるわよ。私達、従兄弟だしね」









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