プロローグ!
二〇一八年 九月下旬。
ここは富山県富山市にある”とやまオーヴァード・ホール”。会場の中では高校生達の熱い戦いが繰り広げられていた。
「頑張れー!魚滑ぇ〜」
「キャー! 纏くんこっち見てー」
「ハァ〜、セイヤ!セイヤ!セイヤ!」
ウォオオオ〜!!
観客の盛り上がりは最高潮。応援の声にも力が入る……
『さあ、それでは決勝ステージ開始です。トップバッターは予選六位通過の魚滑水産高校です。演目は新居側古大臣。これは富山県滑川市で毎年七月に行われる”ふるさと竜宮まつり”で街流しなどが行われ大勢の観光客で賑わいます。それでは、お願いします!』
”フェスティバル” 富山県大会、二日目。予選、AとBの両ブロックから合計六チームが決勝に駒を進めた。
「よっしゃー! 行くぞー!」
「おおぅ!!」
三味線の甲高い演奏が始まる。片膝をついてスタンバイしていた男衆が掛け声で立ち上がった。
「セイ!」
松明を両手に持ち、右〜上下〜左〜上下〜くるりと一回りと素早く振り回している。
「ヤッタチャ、 トッタゼ!」
『ヤッタチャー、 トッタゼィ!』
合いの手に男衆が勇ましい掛け声で応える。ステージの一番奥に色鮮やかな二本の大漁旗が、勇壮に舞っている。ハキハキとした歌声で新居側古大臣のお囃子を唄う少年にも力が入る。
「ハァー、ドッコイショ」
『ドッコイ! ドッコイ! ドッコイショ!』
大漁旗の前で白い祭半纏を身にまとった少年達が、頭に豆しぼりを巻いて両手の松明を振り回す!
(これが俺達の本気やちゃーー!)
凄まじい勢いで松明が右に左に波の様に動き回る!
「セイッ! セイッ! ハァー!」
『ソリャ・ソリャ・ソリャ・ソリャ!』
太鼓がどんどんテンションを盛り上げる。舞台上に日の丸扇子を両手に持った踊り子が増えて、多重の舞踊りに会場は興奮の坩堝になった。
そしてフィニッシュ!
「ハイ!」
(よっしゃあ、見たかぁ!)
『ありがとうございました。とても躍動感のある素晴らしい踊りでした。』
ウォオオオー……
会場が割れんばかりの拍手喝采を贈る。
「魚滑も流石だな。僕達も負けてられない。なあ、大輝…… ん?、 どうした?」
「いや、思わず感動してしまって。 ……悠一、ありがとう。ここまで来られたのもお前のおかげだ」
「そんなことはないよ。大輝も頑張ったじゃないか。それにみんなだって……。 だが、ここで終わりでは無いよ」
「ああ、勿論だとも」
次々と決勝進出を決めた有力校がステージ上で自らのパフォーマンスを全力で披露していく。その見事なパフォーマンスに会場は歓声や拍手とスタンディング・オベーションで応えた。
舞台袖には、決勝の残り三校が控えていた。俺達は井田川の次に踊る。
「大輝!」
井田川高校の集団から一人の少女が駆け出して来た。肩までの髪を後ろでまとめた、浴衣の似合う美人だ。俺達の前まで来ると、志穂に向かって言い放った。
「志穂、貴方には絶対に負けない!」
横で佇む志穂を一瞥し、その少女は俺の肩に手を添えて口づけをした。
(なっ!? ○✕◇!■◎)
「キャァー! なっ! 何してるのよー!!」
固まる俺と錯乱し激昴する志穂。少女はウインクをすると、足速に井田川高校の元へ帰って行った。集団からは、女子の『キャー』という黄色い声や、『良くやった!』・『想いがかなったな』などという男子勢の賞賛の声が聞こえてきた。
『決勝ステージ、四校目の登場です。毎年、グランプリ候補として名高い井田川高校です。』
「がんばろうね」 「オー!」
井田川高校がステージ上にスタンバイする。艶やかな衣装に身を包んだ少女は、静かに瞳を閉じて三味線の弦がしなる音、最初の所作に意識を集中した。
(さあ会場の皆さん、私達の舞を”魅”せてあげる。大輝…… 見ててね……)
黒の半纏に猿股、黒足袋を履き、頭には編笠を被った男衆と、色鮮やかな桃色の浴衣に白足袋姿、頭には朱色の顎紐を付けた編笠を被る女衆が、流れるような哀愁を感じさせる踊りを繰り広げる。そのなかで、編笠の陰で顔を赤らめる少女の姿があった。
(越中緒花節は可憐な町娘と若い男との焼ける様な熱い恋の物語。今の私なら……)
会場が妖艶な舞に酔いしれる。男衆の力強い踊が観客の視線をつかんで離さない。完全に井田川高校のペースに呑まれていった。
「あわわわわ…… 志穂ちゃん、勝てる気がしないよぉ」
「余裕な顔して演奏しとる。はがやしいわぁー!」
灯里と隆は完全に、井田川のプレッシャーに押されていた。無理も無い、相手は全てにおいて格上なのだから。
「大輝っ!」
横で顔を真っ赤に染め、わなわなと震えていた志穂が叫んだ!
「何でこうなるのよ!」
ビシッと俺に向けて指を指す志穂。睨む目は涙ぐんでいる。人を指差すなと、いつも言ってるのに。
「はぁ〜」
(そんなこと、俺か知りたいわ!……)