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超短編ホラー

超短編ホラー14「祖母が人を殺した」

作者:青木森羅
 祖母が逮捕された。
 私の祖母は県内の山奥にある寂れた村に住んでいたのだが、そんな祖母がデイサービスに行った先で人を殺したのだそうだ。

「お母さん」

 重苦しい車内の空気に耐え切れず、運転席の母に声をかけた。

「うん?」

「お婆ちゃん、なんで、アンナコトしたのかな?」

「……さあ、ね」

 私達は、留置場にいる祖母の必要な物を取りに、母の生家に向かっている。

(殺人、か)

 高校生の私にはまったく縁のない物だと思っていた事で、未だに現実感がない。
 昨日、学校で友達と話していると、母からのメールで「お婆ちゃんが人を刺した」と、短い文だけ送られてきて、次の日には学校を休んでここにいる、そんな状態に現実感なんてあるはずがなかった。
 第一、母が聞いた話だとそれまで仲の良かった相手の目に向かって、フォークを振り下ろし……。
 想像しただけで、吐き気がした。

「着いたら起こして」

 そう母に告げると、私は現実から逃げるように目をつぶった。



「かすみ、着いたよ」

 私はその言葉と、体を揺すられる感覚に目を覚ます。

「う、うん?」

「ほら」

 と、後部座席のドアの前から母が退けると、目の前には小さい頃に見たお婆ちゃんの家があった。
 幼稚園の頃に来た以来だから久しぶりだったけど、意外と覚えている物なんだと、自分の記憶力に感心する。
 赤い屋根の平屋、家の周りには昔通り田んぼがあるが、今は誰も使っていないようで荒れている。
 道の先には隣家である、二階建ての家が見える。その距離は私の街では考えられない程に遠い。

「さあ、早く」

 急かされた私は、目を擦りながら車から降りた。
 ここの空気は、街中と違って排気ガスの臭いはせず、草の匂いがした。

「それで? 何を持っていくの?」

 母は、家のまわりの置いてある植木鉢を持ち上げ、そこから鍵を取り出し、玄関に差し込んでいる。

「着替えとか、あとは薬」

 薬。
 確か祖母は七十過ぎのはずだが、やはりそういう年になると薬も必要なのかと少し考えた。
 祖母の事というよりも、母の事だ。
 私に父親はいない、母が言うには小さい頃に亡くなっているという事だった。
 そんな訳で、どうしても母が老いた時の事を最近よく考える。

「おじゃましまーす……」

 祖父はだいぶ昔に亡くなっているので、誰かがいる訳ではないのだけど、あまり馴染みのない家だと、緊張してしまう。
 玄関の辺りには、小さい頃にも見た覚えのある黒電話が置いてあった。
 長めの廊下を抜け、居間に足を踏み入れた。
 室内の掃除はされているみたいで綺麗だった。

「かすみは、お婆ちゃんの肌着を取って来て。向こうの部屋にあるはずだから」

 と、居間とは反対側の扉を指差す。

「分かった」

 そう答え、向こうの部屋の引き戸を開ける。
 その部屋には大きなタンスに押し入れ、隣の部屋に仏壇があった。
 急いでいるのは分かっていたが、私はその仏壇に飾られた祖父の写真が気になり、足を向けた。
 写真の祖父の顔は、優しそうに微笑んでいた。

「かすみ、どうしたの?」

 いつまで経っても、帰ってこない私を気にしたのか母が居間から声を上げる。

「うん、ちょっと待って」

 私は慌ててタンスの方に行こうとしたのだが、仏壇に飾られている物に違和感を覚えた。

「なんだろう? この花?」

 ピンク色の綺麗な花で少しチューリップの様な雰囲気だったが、チューリップほど花が大きく開いていなかった。それに、一緒に飾られている葉も指のように分かれて見た事のない様な物だった。

「ごめんください」

 その花をよく見ようと手を伸ばすのと同時に、玄関を開ける音と女性の声が聞こえた。

「はーい」

 と、私は来客の応対に玄関にむかう。

「あら! もしかして、かすみちゃん?」

 そう、私の名前を呼んだ見知らぬ老齢の女性。
 私の戸惑いを察したのか、彼女は、

「あ、小さい頃にあっただけだものね。隣の大村です、覚えていないかな?」

 すみません、と詫びると彼女は笑顔で、

「仕方ないわよ、小さかったんだから。それにして、今回は……」

 その言葉に、私は祖母に対する叱責を予想していたのだけど、違った。

「タイミングが悪かったね」

 タイミング?
 一体どういう意味なのだろう?
 私には何の事なのか、分からなった。

「帰ってくるのがもう少し早ければ、こんな事にはならなかったのにねぇ。クスリは忘れないで、って言い合っていたのに」

 早ければ? 時間が関係あるのだろうか?

 それに、 クスリって一体?
 それとお婆ちゃんが人を殺した事に、何か関係があるの?

「かすみ? 誰と話しているの?」

 質問しようとした私を制するように、奥から母が出てきた。

「あら、海ちゃん! 久しぶりだねぇ」

  母の顔を見る、その顔は怒っているような困っているような奇妙な表情かおだった。

「……ご無沙汰してます」

「あなたがここを出て行ってから、二十年くらいかしらね?」

「ええ。その位ですね」

「調子は、どう?」

「いいですよ」

「そう、二十歳前に出たからかしらね?」

「あまり娘の前で、その話はやめて下さい」

「やっぱり成人の儀をしない人は、ここからいなくなるしかないんだねぇ」

「やめて……」

「あなたのお母さん、この村でなんて呼ばれてたと思う? 『裏切り者の母』、そんな事を言われて可哀想だったわ」

「やめて!」

 母は声を荒げた。

「やめて……下さい」

 隣人はニコニコと笑うだけで、その表情が変わらない。
 まるで仮面をつけているかのようで、息がつまるような薄気味悪さがあった。

「あ、ごめんなさいね。そろそろ、お夕食作らないと」

 さようなら、と言って彼女は去って行った。

「ねえ? お母さん? クスリって?」

「いいの、かすみは知らなくて」

「けど」

「いいの!」

 母の大きな声に、私はたじろいでしまう。
 母も自分のした事に驚いているようで、寂しそうな顔をしていた。

「……少し出てくるね」

 私は飛び出すようにして、家を飛び出した。

「待って、かすみ!」




「はあはあ……」

 見知らぬ場所を全力で走った、そのせいで息が上がる。
 私は母がここに住んでいた事を知らない、母はその事を教えてはくれなかった。
 それは何故?
 それにさっきの『裏切り者』って?
 そんな事が私の頭に浮かび消えを繰り返す。

「なあ、君?」

 ビクリと体が跳ねた。
 辺りにその姿は見えない。

「どこ?」

「ここだ」

 と、脇に生える木々の中から年老いた男性が現れた。

「どうした、こんな所で? まず、君は誰だ?」

「あ、えっと」

 頬に涙が流れているのを感じ、目をこする。

「うん、どうした? 泣いてるのか?」

「いえ、大丈夫です」

 そういって走り去ろうとしたのだが、

「まぁ、待ちなさい。人の苦労なんてのは意外と話せば忘れるもんだ。どうだ? このじじいに、苦労を置いていくのは?」

「え?」

「お前さんの気になる事を聞くぐらいなら、私にも出来るだろうって言っているんだよ」



「なるほど。そういう事か」

 私は彼の作業場だという小さな木材所で、母に対する疑念の様な物をおじいさんに話した。
 彼はうんうんと頷き、一通り話をするまで聞き役に徹してくれた。

「はい」

「君は、千草さんの所の孫さんか」

 千草というのは祖母の名前だ。
 私は言い当てられた事に驚いていると、

「ああ、すまん。この辺りで、その話にあいそうな人は彼女しかいないからな」

「そう、なんですか」

「こんな辺鄙な場所だからな。どうしてもすぐに分かってしまうんだ」

 民家が十軒程度しかないからな、とつけ足して。

「君のお母さんは外の人間と大学時代に出会って、そのままここを出て行ったんだ。その当時から、もうここは老人ばかりでな。若者はここに居るべきだと、当時の村長を含め色々な年寄りから出たんだ」

 そう言いながら、彼は切株にそのまま置かれた茶碗を手に取る。

「強制的にでもココに抑えつけて、絶対出さないようにしようとした輩が居たんだが、君のお母さんはそれを振り払って出て行った。それを恨んでいる人は、まだ何人も居てな。そんな人達は、千草さんの事を『裏切り者を産んだ』なんて言っているんだ」

 おじいさんは茶碗を傾け中の液体を飲むと、近くに置いてあった透明な箱から何かを取り出して口の中に放り込んだ。
 祖母が裏切り者と呼ばれている理由は分かった。
 けど、本当にここに残って欲しいなら今でも捕まえようとしてもいいんじゃないだろうか?
 けど、あの大村という女性にその素振りはなかった。

「それにな」

 おじいさんは続けた。

「あと二年だったしな」

 あと二年?
 私の顔を見た彼は、納得した顔をして、

「そうか、お母さんからも聞いてないか」

「何を、ですか?」

 暑い日だというのに、ここは少しだけ寒く感じた。

「この村には二十歳になったら行われる『成人の儀』ってのがあってな」

 さっきの女性がそんな事を言っていたのを思い出した。

「それを終えるとここから出て行くのは御法度になるんだよ」

 彼は、片手に透明な箱を持ちながら話を続けた。

「その儀式ってのは、この村の秘密を共有する事」

「秘密?」

 不意に尋ねてしまった事を、彼の表情を見て聞かない方が良かったのかもしれないと後悔した。

「このクスリだ」

 彼は透明な箱の中から、ピンクと緑のナニカが詰まったカプセルを見せた。

「これはここでしか作られないし、ここ以外に流通させてはいけないモノだ。これを飲んでいる間、ここに住む人は幸せであると思いこめる」

 思いこむ、思えるだけという事なんだろうか?

「このクスリは大人にしか効かない、子供のうちはいくら飲んでも何も感じない。けど、大人はおおらかになれるんだ。だがな……」

 彼はクスリを、箱の中にゆっくりと戻す。

「これが切れると、人を襲いたくなるんだよ」

 ざわざわと木々が鳴る。

「それも見境なくな。だから昔はここの事をヒトゴロシ村なんて呼んでいたんだそうだ」

 ヒトゴロシ……。

「だから、君のお母さんは何も悪くない。世間から見たらこの村の住人がおかしいだけだろう。だが、ここの人からすればおかしいのは世間の方なんだよ」

 なにか得体のしれないモノを除いてしまった気がした。

「千草さんは、クスリを忘れてしまったんだよ。これは事故だ、悲しい事故」

 彼は笑いながら話していた。
 私はその場にいてはいけないと、逃げるように走った。

「かすみ!」

「お母、さん」

 逃げてきた私を母は、ゆっくりと抱きしめた。

「大丈夫だった?」

「……うん」

「もう準備出来たから、はやく帰りましょう」

 私はすぐに母の車で、その場所を後にした。

「……ねえ、お母さん」

「……何?」

 あのおじいさんの笑みが浮かぶ。

「……なんでもない」

「そう……」

 私はもう、あの村に関わりたくないと思った。

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