第21話 琥珀の秘密
はい!久しぶりの投稿です。お待たせいたしました!
俺と明美は堅土に連れられて、今は使われていない映像を映し出す多目的室に連れてこられた。
「鷺宮中尉、お連れいたしました」
堅土がそう言うと、目の前にいたのは、いつもの学校用ジャージ姿ではなく、黒い女性用のスーツを来て色気さえ醸し出している、紫先生の姿だった。
「ご苦労、葉隠 堅土三等兵。それと学校では鷺宮と呼ぶな。あくまで私がいるのは潜入任務の為だ。いつも通り普通に紫先生と呼べ。話し方も接し方も、全ていつも通りにしろ」
「了解しました。紫先生」
紫先生は少しばかり寂しそうに堅土に伝えて、堅土はそれを了承する。どうでも良いけど、紫先生の上の名前は鷺宮って言うのか。初めて知った。
「さて、お前達を呼び出したのは他でもない。昨夜、堅土から携帯経由で送られて来た、天風のヌード写真についてだが」
そしていきなり紫先生はとんでもない爆弾発言を口にした。
え?琥珀のヌード写真?ヌードってことはつまり裸だよな?それが堅土から先生に直接送られて来た?そう言えば昨日、堅土は病気の琥珀の家に戻ってたよな?まさか、つまりそれって…
「待ってください先生。今の発言にはかなりの悪意を感じます。ほら、二人が凄いドン引きした顔で見てますから!違うから!!二人ともそんな目で俺を見ないでくれ!」
「黙りなさいこの鬼畜。今からでも遅く無いわ。みちる、警察に出頭させましょう」
「月一くらいは顔をだしてやるよ」
汚物を見る目で冷酷なまでに吐き捨てる明美。
そして落とされた爆弾発言を必死に弁明する堅土。
優しい友達思いの良い幼なじみの親友だと俺は思っていたのたが……。堅土も結局の所は欲望を抑えきれず、病人のクラスメイトに手を出してしまうような鬼畜だったと言う事なのか。だとしたら流石の俺も擁護出来ないぞ。
あれか。テレビの取材がきたら『こんなことする奴じゃないと思ったんですがねぇ』とか言う事になるのか。
すると、紫先生はケラケラと笑い俺たちに話しかけてきた。
「まぁ悪意ある冗談をしたのは許してくれ。だが、私の心情も察して欲しいんだが」
そう言って紫先生は前かがみで、俺と明美に昨日の夜の事を話し始めた。
「夜、いきなり写真が送信されてきたと思ったら、教え子である天風のヌード写真が送られて来てな。焦りに焦って、その送って来たメアドを見たら、同じ教え子の堅土だったんだぞ?私は遂に自分の教え子から、同じクラスメイトをレイプするような犯罪者を出してしまったのかと思って、かなり気が動転したもんだ」
「おおおおおおおぃぃぃぃぃぃぃ!!!!???あんた何言ってんだ!!!???」
再度冷えていく、俺と明美の目。駄目だ。やっぱり堅土は手遅れかもしれない。
「ほら紫先生!!『うわ……やっぱりこいつ最低だわ』みたいな目で明美が見てるでしょうが!!」
「事実そう思ってるけどね。この変態鬼畜欲情魔」
「完全に冤罪だろぉぉぉぉぉ!!!」
本気で涙目になりつつある堅土を見て、そろそろ本気で堅土が不憫になってきたので俺は一旦話の流れを切って、話を戻すことに決めた。
「話が進みません。先生、琥珀はいったいなんの病気なんですか?」
「ああ、そうだったな。つい、堅土を弄るのが楽しすぎてつい熱が入ってしまった。何せ、こんなに人と話すのは仕事の話以外では久しぶりだったからな」
そして紫先生がそう言った後、突如部屋の温度が冷えていくような感覚に陥る。
否、正確には真面目な顔をしだした紫先生の雰囲気が、底冷えするほど冷たい物になり、部屋全体が寒くなったと錯覚したのだ。
俺は改めて、紫先生も父さんと同じ、人を殺す側の軍人なのだと言う事を再確認した。
「天風の病気の正体だったな。あれは正確には病気ではない。正直、私も初めは単に病気だと思っていたんだが、然るべき軍の専門家に依頼した所、とんでもない情報が発掘された」
そして先生は自身の携帯と映像を出力する機械をコードで繋いだ後、携帯を弄り、再度俺達に向き合う。
「説明するにあたってまずは昨日送られて来た天風のヌード写真を見てほしい。背中の模様を特にな」
「え!?今でここでみちるに見せるんですか!?」
動揺する明美。何か問題があっただろうか?
すると紫先生が明美の心情を察したようで、俺に指を指しながら明美の心情を代弁しだす。
「なんだ、みちるが他の女の裸を見て欲情するから見せたくないとか思ってるのか?安心しろ、明美君の方がスタイルは良いし、そもそもみちるに二股なんてやる度胸も甲斐性もないだろうからな」
「……分かりました」
渋々と言った様子で、先生の話を聞いて明美は了承する。
いやまぁ確かにそうなんだけどさ。俺だって健全な男の子ですよ?二股は確かにする気はこれっぽっちも無いけど、少なくとも女の子の裸を見たら緊張くらいはするよ?ましてやそれが友達だったら尚更なんだけどな。と言うか甲斐性くらいは普通にあるっつーの。
そんな様々な抗議を即座に思いついたのだが、俺は何も言わないでおいた。
今しがた自滅した男を目の前で見たからだ。でも、悟られないように常に冷静を心がけようとは思った。
そして、琥珀の背中が写った裸の写真が投影される。
それを見た俺と明美は二人して首を傾げた。
「背中にある魔法陣……これ、魔法陣のようにも見えますけど、普通の魔法陣とは形も描かれている術式も違いますね。一体何なんです?」
俺は紫先生に率直な疑問をぶつけた。俺がわからない、見た事も無いと言うことは少なくとも学校では見てはいないと言う事だからだ。
紫先生は苦虫を噛み潰したような顔で俺の質問に答える。
「通称『神降ろし封印強化の結界』と言われているらしい」
「……何ですかそれは?明らかに物騒極まりない名前なんですが」
やはり、聞いたことがなかった。
すると先生は、粛々とこの魔法について話し始める。
「この封印魔法は魔法がこの世界に伝わった黎明期のものだ。この前授業で話した戦争ととても深く関わりがある。効果は単純。霊的存在を術者の中に封印して、実力の何倍もの力を生み出させる。戦争以後の現在では禁忌とされる魔法。拭えない負の遺産の一つだ。今まではその力を使用した事が無かったから、今のような副作用が現れなかったんだろう。だが、この前の明美君を奪還する際に使用し、今は副作用に苦しみ寝込んでいると言った所だろうな」
「あの……副作用って?」
恐る恐る明美が紫先生に質問する。先生は一息、間を開けて答え出す。
「魔法の性質上、魔法の力を何倍にも増幅させるんだが、体がその魔法の出力に耐えきれないんだ。言わばこの魔法は使い捨ての人間兵器に仕立て上げる。当時の戦争で死傷者が際限なく増加したのは、この魔法による使い捨てにされた兵士があまりにも多すぎた為でもある」
「つまり、副作用って言うのは自分自身の命を差し出した故に起きる肉体の崩壊ってことですか?」
「ああ、しかし治療する方法は今迄無かった。今まではな」
今まではと言う所を強調して、紫先生は話し終えた後に、明美を指さした。
「だが、明美君の他社の精神に介入する力を使えば、天風を救う事が出来るかもしれない」
「私の……チカラですか……?」
「ああ。方法は簡単だ。明美君のチカラで天風君の精神世界に介入した後、封印されている霊的存在を引き剥がす、もしくは消滅させる。それだけで良い」
しかしここで俺は一旦話に割り込み、一つの疑問を先生に提示した。
「随分簡単に言いますけど、その霊的存在って何なんですか?」
紫先生は少しばかり逡巡した後、意を決してその霊的存在が何なのかを説明しだした。
「……恐らく俗に神様と言われる存在と言うのだけは判明している。が、それが弱いのか強いのかは全くわからない。何せ前例がないからな」
「つまり戦闘は何が起きてもおかしくないと?」
「ああ。そうなる」
前例が無いと言う所から大凡は察しはついていたが実際に口にされると、恐ろしいものがあった。
これから戦うと言う時に、敵の情報が一切無い。
それでも救ける為に戦わなければならない。何が起こるかわからないと言う不安は、時として戦うこと自体よりも恐ろしいものがあった。
「……内容は理解しました先生。ありがとうございます。琥珀を助けて来ます。明美、堅土、チカラを貸してくれ」
それでも俺は覚悟して、琥珀を救うと宣言する。
そもそも逃げるという選択肢は元から俺の中ではありはしないのだから。
「はぁ……わかったわよ。ここで死なれても寝覚めが悪いし、みちるがそんなの絶対に許さないだろうしね」
「言われなくても、俺も行くぞ。苦しんでいる友達を助けるの当たり前だしな。それにやっと組織から抜け出して幸せになったオーディンの悲痛な顔なんざ、二度と見たく無いからな」
頼もしい限りだった。仲間がいて、一緒に歩んでくれる人がいる。それはとても心強く、俺の中の不安を消し去るには充分過ぎる程だった。
「話しは決まりだな。あんなに良い生徒が死ななければならない運命を背負っているなんて間違っている。頼む。今の天風を救えるのはお前達だけだ」
紫先生は頭を下げて悲痛な声で自分の無力さを嘆いていた。
その光景には並々ならぬ者があるようにも思えた。
「紫先生、顔を上げてください。必ず、俺達が助けて来ますから!」
そして俺は部屋の扉に手をかけて。
「それじゃあ、琥珀を助けに行くぞ!」
「「おうっ!!」」
確かな覚悟と決意のもと、琥珀の家に向かうのだった
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