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第2話 もたざる者と持つべき者

魔法の実技試験の為に中庭にきた俺達を待っていたのは、すらっとした体型にジャージ姿の一人の若い女性教師だった。


紫先生おにきょうかん!?今日の担当、この人なの!?」


実技担当の教師の一人。鷺宮さぎみや ゆかり先生。


生徒と教員の両方から鬼教官のあだ名で呼ばれている教師だ。


何故この通り名で呼ばれているのかと言うと、魔法の実技のハードさと、それをこなせなかった時の罰としてのペナルティが他の教師に比べて重いからである。

そのペナルティーとはただ一つ。『出来るまでやらせる』この一点に尽きる。


―――俺からすれば、本当に頭の痛くなるペナルティである。


このペナルティは魔法が使えない俺からすれば、永久に授業の終わらないペナルティと化すのである。


「鬼教官とはいきなりの挨拶だなぁ、みちる。お前だけ魔法の実技の時間を、この学校の周りを走り込み100周にしてやろうか?もちろんこの時間内でだ。出来なければ更に100周追加した上で、今日中に走りきってもらうとするか。さぁてどうする?」


「え、遠慮しておきます!!」


この鬼教官!この学校の周りの1周するのに何分必要だと思ってんだ!1周するのに20分はかかるんだぞ!?馬鹿なのか!?


「ふん。なら鬼教官などといった言い方は辞めることだな」

「い、以後二度と致しません!」


間違ってもこの人の前では二度と言わないと心に誓うのであった。

その後、魔法実技の試験は紫先生の指導の下に始まり、今は生徒同士の模擬戦の時間となっている。


魔法はその殺傷性の高さからS、A、B、C、EXのランクにそれぞれ位置づけされており、学校ではCランクまでの魔法が認められている。


Sランクは軍用や戦術級の殺傷性の最も高い

魔法。殺傷性がなくとも軍用であれば、治療魔法であろうともこのランクに位置づけされる。一般には公開されていない魔法である。


AランクはSランクに劣るものの、一般人が知り得る中でも最も殺傷性の高い魔法が位置する。風を操り物体を切り裂く真空刃しんくうはや、振動を操り物体を遠距離から破壊する振動破壊バイブ・ブレイクなどが位置する。即死性の高い魔法は大体がここに位置している。


Bランクは、殺傷性はAランクに劣るものの、攻撃として使えば四肢欠損や致命傷には至らない深い傷を追わせることの出来る魔法が位置する。同じ振動を利用する魔法でも、武器を振動をさせて物体を切断する高周波ブレードや、水をその場に固定化させて相手を包み込み捕らえると同時に窒息もさせるという水牢ウォータープリズンがここに位置する。


一番下のランクで学生に使用が認められているCランクは殺傷性が低いか、もしくはあまり無い治癒魔法や、生活にも用いられるようになった一般に普及した魔法が位置する。熱を操り火を生み出す魔法や逆に水を凍結させて氷を生み出したり、振動で沸騰させたりと言った魔法がここに位置する。汎用性が高く文化の根幹を支えている多くの魔法がここに当てられる。


最後にEXランクだが、ここは分類不可能、もしくは個人で編み出したが、諸事情により国に登録出来ず秘匿されてしまったオリジナルの魔法だったり、現在でも科学的に解析が不可能な魔法、殺傷性がS~Cまで変動するような特殊な魔法などが位置する。精神に干渉するような魔法は良くここに位置している。


魔法学校で習うものの多くはCランクであり、Bランクでは基本的に国の試験を受けて合格する必要である。Aランクともなればその上に位置するさらに特別な国家資格が必要な上に、ものによっては使う際に国の承認が必要な物もある。


と言った具合に魔法はそれぞれランク付けされていて、危険な事故やテロが起きないようにある程度は管理されているのである。とは言え魔法を使えない俺に取っては全く関係のない話だった。


―――話を戻そう。と言うか現実逃避はもうそろそろ限界だった。


俺の相手は魔法を使える他のクラスメイト―――ではなく、教師であるゆかり先生だった。

なぜゆかり先生が相手なのには理由がある。


一つ、生徒同士では魔法を使われた瞬間に勝敗が決着がついてしまう故に不平等である為。


二つ、生徒ではいくらCランクの魔法と言えども場合によっては昏倒させてしまう可能性があるため。魔法を使える生徒たちは皆、まず最初に魔法の痛みなどを軽減する耐性魔法を使い模擬戦をする。その後倒した相手を治癒して試合は終わるのだが、魔法の使用が前提である為、魔法を使えない俺はそもそも参加することが出来ない為。


三つ、先生であればその万に一つの魔法の使用もなく、かつ先生自信がある程度の治癒魔法を使える為。


以上のことから俺の相手はゆかり先生に決まった。


「さぁて、どこからでもかかってらっしゃい。遊んであげるわ」


不敵に笑う紫先生。かなり余裕ぶっているが、その立ち振る舞いには一片の隙もありはしない。


「行きます!」


俺はまず両手を胸の前で構え、足を運び、重心を前に移動させて体の体重を全て乗せて突進するように紫先生に攻撃する。

しかし紫先生は右に避けたと思ったら次の瞬間、俺の背面を思いっきり下に打ち付け勢いを殺し、地面に叩きつける。


「あぐっ!」


一瞬で肺の中にある酸素を全て吐き出さされたような感覚と、地面に叩きつけられた衝撃で一瞬ではあるが呼吸が出来なくなる。

その瞬間、体が硬直した所を狙い紫先生は俺の下半身に跨り、背面から動けないように頭を押さえつけられたあと、俺の手を後ろに持ってきて完全に押さえつける。


「痛い痛い痛い!」


苦痛に顔を歪めて涙ながらに紫先生に降伏宣言をする。

すぐさま先生は手を離し、俺から離れる。


「まったく情けないわね。これでもかなり手加減してるんだけど。もう少し骨があると思ったわ」


「ご期待にそぐえず、申し訳ございませんね。て言うか先生に肉弾戦で勝てる生徒なんていませんよ」


げんなりした様子で俺は紫先生に言う。


すると先生は、そんなことはない。ときっぱり否定して、模擬戦をしている一組の生徒を見る。

その向こうでは琥珀と一人の男子生徒が模擬戦をしていた。


「あ〜堅土けんとなら勝てるかも知れませんね。それでも100回やって1回勝てるかどうかだと思いますけど」


本名、葉隠はがくれ堅土けんと。主な戦い方は自分の体や武器を硬質もしくは軟質化させて戦う魔法で防御型と一撃が重い攻撃で戦うのを信条とした戦闘方法。


俺の小学校からの親友でもある。


模擬戦は今、琥珀の優勢だが、決め手にかけている琥珀は攻め手に欠けると言った様子で逆に劣勢になりつつあった。


琥珀の戦い方は機動力を生かした風の魔法で自身の速度を上げて、直接的な炎の魔法での攻撃や雷を当てて痺れさせる、水を上から浴びせて微弱な感電狙いと言った多様性のある戦い方である。


決め手にかけていると言ったのは、単純に幅広く魔法を使えるが故に、一つの魔法を極められないと言ったことが起因している。


ましてや今は殺傷性の少ないCランクの魔法しか使えない。決め手にかけるのは当然だろう。


結局、決着は堅土の勝利で終わった。


一撃を入れたあと、動けなくなった琥珀はそのまま保健室に連れて行かれ退場した。


「手加減してはいたんだが、未だに調整が難しい。けれど一時的な昏倒で済んだのは不幸中の幸いだった。次はもっと威力を抑えるか、もしくは自分自身の体を強くするしかないな。後でちゃんと琥珀に謝らないと」


模擬戦の終わった後、堅土は俺と紫先生の所に来て報告と反省をしに来た。

堅土は昔から優し過ぎる。攻撃的な魔法を覚えられないのもこの性格のせいであり、自ら攻めに行かず防御型の戦闘方法なのもこの性格のせいである。


「そうね。放課後ちゃんと謝りに言った方が良いわね。幸い午後だからこの後、授業も特にはないし」


「そうします」


堅土と紫先生はそれっきり話すことは無く、紫先生の号令で授業は終わりを告げる。

そしてあっという間に学校は終わり、放課後になるのだった。

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