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第19話 学んだ弱さと伝え合う大切さ

2日ぶり?3日ぶり?

わかりませんが、何にせよかなり早く更新です!

みちると天月に忘れ物を取りに行くと行って別れた後、俺は天風邸、つまりは琥珀の家に戻って来ていた。


先に言っておくと、忘れ物をしたというのは真っ赤な嘘であり、戻って来た理由は単純に心配事と不安が胸に突き刺さっていたからだ。


俺はピンポーンと琥珀の家のインターホンを鳴らす。

しかし、少し前に琥珀の家を出たばかりだと言うのに、押しても誰も出迎える気配は無かった。


「どうして誰も出ないんだ……?」


俺の中で不安が増長していく。ふと、敷地内に入る為の木製の扉が空いていること気が付き、そのまま俺は敷地内にお邪魔する。

そして家の扉の前に立つと、ここでも俺は一つの違和感に苛まれることになる。


「家自体の扉の鍵もかかってない……開きっぱなし……」


俺の中でモヤモヤとした不安が形になっていく気がした。


「お邪魔しまーす」


恐る恐る俺は扉に手をかけ、琥珀の家の玄関に入る。

入ってすぐに感じたことはただ一つだけ。先程までの喧騒が嘘のように家の中は静まり返り、家自体が静寂という何かに包まれているように錯覚するほど、閑散としていた。

形になった不安が更に増長し、言い表しようの無い胸騒ぎに俺は気づけば琥珀の家に上がり込み、琥珀を探していた。


「居間にもいない……となると寝室か?」


廊下の先へ、更に奥へ進む。

部屋の前、障子の貼られた扉の前で立ち竦む。

中から琥珀の悲痛な呻き声が漏れていた。


「……やっぱりか」


扉を開け、月明かりに照らされるだけのその部屋にいたのは。

苦しみに悶えている琥珀と、看病しながらただずっと沈黙を貫き、正座しているオーディンの姿があった。


※ ※ ※


「琥珀。お前、やっぱり無理してたんだな」


不安は的中していた。疑問から不安に変わっていた、琥珀が目眩を起こしたあの時。これが、俺は親友に嘘をついてまで琥珀の元に戻って来た理由であり、不安の元凶である。


「オーディン、琥珀の病気は一体何なんだ?」


俺はオーディンに質問した。看病しているということは、解析は既に終わっていると判断したからだ。

だがオーディンは目を伏せたまま、こう答えた。


「……わかりません。解析出来なかったんです」

「解析出来なかった……?物質の再構成とそれによる解析能力では他に肩を並べる物はありはしない、と組織でも言われていたお前が?」

「……うん。こんなことは始めて」


悔しそうに唇を噛み締めるオーディン。ここまで感情豊かなオーディンを見れたことに正直驚きを隠せなかったが、本人からすれば初めての感情。即ち悔しさと歯痒さに苛まれているのだろう。


「容態はどうなんだ?病気の解析は出来なくても、今琥珀がどういう状態なのかはわかるはずだ」


オーディンは俺に言われるがまま、琥珀の現状をつつがなく丁寧に話し出した。


「不規則な周期で一気に快復したり、しなかったり。動ける時は何も無いけど、少し経てばまた突然、今みたいに悪化する。昨日は一日中、目を覚まさなかった。こんな病気、今まで見たことない」

「……もしかしたら、病気じゃ無いのかもしれないな」


不意に俺は今までの経験上の推測を呟いていた。


「とすると、魔法の副作用や誓約の代償ってこと?」

「ああ、魔法発動の代償、薬物の副作用、他にも代々継承していく魔法に良くある呪いのような副作用とかも考えられる」


オーディンが俺の呟いた言葉に返答し、俺もその言葉に対して返答する。


組織にいた頃、こういうよく分からない状態の被検体や魔法は嫌と言うほど見てきたし、同時にそう言うものの解析やデータ収集は俺の仕事だった為、こういう状況には慣れていたりする。

不安が無いわけではないが、だからといって心配はしない。今までの経験上、必ず治す方法はあるからだ。

妹の日陽の病気が、天月のお陰で治ったように。


「あれ……堅土……どうしてここに……」


琥珀は瞼を徐々に開いていき、月明かりだけの部屋の中、俺とオーディンを見つめる。


「目が覚めたか、琥珀」

「お姉ちゃん!」


意識が戻ったことに安心し、俺とオーディンは琥珀に声をかけた。


「琥珀。家の扉、開けっ放しだったぞ?」

「そう……」


帰ってきたのは残念そうな落胆混じりの素っ気ない返答。


「そうってお前……ああなるほど、扉を開けていたのはそういう理由か」


俺はここでようやく扉の空いていた理由を、琥珀の表情から読み取り、理解することが出来た。

そして俺はその理由を、認めたく無いであろう琥珀本人に突きつける。


「琥珀。お前、俺じゃなくて、みちるに来て欲しかったんだろ。だから扉を開けてたんだよな?」

「…………」


帰ってきたのは無言の肯定とも取れる静寂の間。


「だんまりか。まぁ気持ちは分からなくも無いけどな。好きな人に今の姿は見られたく無いけど、そばにいて欲しい。自分だけを見ていて欲しい。……琥珀、それは思ってる事と、やってる事が矛盾してるぞ」


「……堅土に私の気持ちはわからないよ」


自分の感情の矛盾を突きつけられた琥珀は、天井を仰いだまま、何処か諦めるように呟いた。

しかし俺は当然とばかりにその言葉に反論する。


「当たり前のことを言うな。他人の本心なんか分かりゃしない。誰だって他人の本心なんか推測して行動するしか無いんだ。だからこそ、人は言葉を用いて感情を伝えあうんだよ」


他人の気持ちはわからない。だからこそ伝え合う。時には言葉では無く拳ででも。

それは先のみちるとの戦いで学んだ、最近まで気づけなかった俺の人としての弱さである。


「聞かせろ。琥珀、お前の病状は一体なんだ?」


俺は琥珀に問うた。自分の過ちをこれ以上、繰り返さない為に。


「……私にもわからない。分かっているのは背中の模様が浮き出てから体調が崩れたってことだけ」

「―――見せて貰ってもいいか?」


そう言って琥珀は俺のことを変質者を見るような目で見てきた。


「ばっ…勘違いすんなよ!?別にお前の裸何て見たところで何とも思わねぇよ。今まで俺がどれだけ人の体を見てきたと思ってる。組織で管理していた頃は、それこそ明美とかの裸体だって嫌って程見てるんだぞ?」


俺は慌てながら否定する。

今言ったことは、みちるにも明美にも絶対に伝えられない恐らく一生話さないであろう秘密である。


「……いつもなら蹴りの一つでも入れたいところだけど、良いよ。オーディン、ちょっと私を仰向けにしてくれる?」


そう言ってオーディンは琥珀を仰向けにした後、琥珀の裸体が、正確には、月明かりに照らされた綺麗で艶やかな白い素肌と、その背中に光り輝く魔法陣が俺の目に飛び込んでくる。


「これか。この模様か」


じっくりと俺とオーディンはその魔法陣を観察する。

ふと視界に入った琥珀の顔が、少し赤かったのは羞恥によるものだろう。


「……いくら見ても、魔法陣ってこと以外よく分からんな。仕方ない、専門家に聞くとしよう。琥珀、悪いが写真撮らせて貰うぞ」


そう言って琥珀の返答も待たず、俺はそのまま背中魔法陣を写真に納める。


「……よし。後は」


その写真をある人物に送った後、俺はその人に電話をかけた。3コールもしないうちにその人物と連絡は繋がった。


「もしもし、夜遅くにすみません。今送った画像が何なのかを調べて欲しいのですけれど良いですか?……はい。分かりました。お願い致します」


自分でも驚くくらいあっさりと物事は進んだ。


「とりあえず、明日にはそれが何なのかわかるだろうってさ」


俺は電話の向こうにいた人の言葉をそのまま琥珀に伝える。


「おかしい人では無いだろうけど。堅土、いったい誰に電話してたの?」

「ん?ああ、企業秘密って言うか、黙秘しなきゃならない事柄だから、それは教えられない。けど、お前もよく知ってる人だよ」


そう言って琥珀は疑問に包まれた表情のまま、オーディンにまた体を仰向けにしてもらって布団を被せて貰う。


「それと琥珀。すまない。やっぱりさっきの言葉は撤回させてくれ。やっぱり俺も男だったわ。お前の体は立派に女性のそれだったよ。裸体を見慣れた俺がドキドキするくらいにはな」


顔を紅潮させて琥珀はそのまま布団から少しばかり顔を出して恥ずかしがる仕草を見せた後。


「………へんたい」


そう言って俺を罵倒してきた。


「……甘んじて受け入れよう。……琥珀、今まで馬鹿にしてて済まなかった」


思い出される、月明かりに照らされた琥珀の白い艶やかな素肌に、脇から少しばかりはみ出した丸いライン。すらっとしたそれなりに肉付きのいい背中から腰のくびれにかけてのライン。

当分忘れることは出来そうに無いだろう。


「また明日も来るよ。みちるも連れてな。オーディン、琥珀の事を頼む」

「うん。わかった」


そう言って、俺は琥珀とオーディンに別れの挨拶を告げた後、立ち上がって玄関の扉の前まで送ってくれた琥珀を背に帰路につく。


※ ※ ※


「ごめんね堅土。堅土は優しすぎるから、言わなかったんだろうけど、私は堅土にも、みちるにも嘘をついたよ」


そして私は今まで思い出を回想して、泣きそうになりながらも、自分の感情に区切りを付ける。


「さようなら、私のかけがえのない大切な人達」

さて、次はいつになるかな?


更新したらちゃんとTwitterで更新しましたと伝えます。


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