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第11話 みちる&明美VS堅土

目を覚ますと俺は、辺り一面真っ白の不思議な空間をにいた。

ふわふわと体が浮いている浮遊感に包まれ、流されるままにその空間に浮いている。


「ここは…確か俺は堅土に思いっきり吹っ飛ばされて……」

「良かった。目を覚ましてくれたんだね、みちる」


すると不意に空間に声が響き、俺の目の前に突如光り輝くの粒子が集まりだし、明美が現れた。


「明美。ここはいったい、どこなんだ?」


すると明美は真っ直ぐな目で、冷静に答えてくれた。


「ここは私のチカラで作り出した、私とみちるの精神が交わった空間。今のみちるは堅土に殴られ吹き飛ばされて意識を失って、その先にいた私と奇しくも『接続コネクト』……つまりは合体している状態なの」


「ってことは、初めてあった時みたいに、また俺は明美に助けられたのか」


明美に言うのではなく呟くように言葉を漏らす。助けに来たのに逆に助けられるとは、かっこ悪いことこの上ない。


「そんなことないよ。私はとても嬉しかった」


言葉に出していたのだろうか。心を読まれたように明美は俺を慰めてくる。


「読んだんじゃなくて、私達は今文字通り、心が通じあってるの。言ったでしょ、ここは私とみちるの精神が交わった空間だって」


「なるほどな。じゃあ、本当に通じあってるのか」


読まれた訳ではなく、どうやらこの空間では本当に、明美と心が通じあっているようだ。


「それで、これからどうするの?私のチカラを使えば、互角に堅土と闘えるようになる……ううん、一方的に虐殺出来る程の圧倒的なチカラを手に入れられるけど」


そう言う明美の顔はとても冷たく、寂しいものだった。


「どういう事だ?明美のチカラはあくまでも、わかりやすく言えば『魔力に関わる物の破壊、無効化』だろ?魔力に関係の無い、肉体自体を破壊する事は出来ない筈だ」


すると明美は首を横に振り、俺の言葉を否定する。


「普段なら確かに、私のチカラでは人の筋肉や肉体を傷つけることは出来ない。でも今の堅土は『身体強化フィジカルブースト』の魔法を使っているでしょう?魔力によって強化されている肉体だったら、全部私のチカラの対象になるの」

「ーーー?何がどう違うのか解らない。わかりやすく教えてくれ」


明美に説明されたものの、俺の頭ではよく理解することが出来なかった。


「ええと、簡単に説明するなら、ここに新聞紙に包まれた水の通ったチューブがあります」


すると何も無い空間に突如、水の通ったチューブとその周りを覆うように新聞紙が現れ、横の端に断面図を作って現れた。


「新聞紙を筋肉、水が魔力として、普段が破壊しているのは、新聞紙を通り抜けてチューブの方だけなの」

そう言う次はチューブはそのままで、新聞紙の全体が水に濡れていた。


「そして、今の全体が濡れた新聞紙のこの状態なが『身体強化』の魔法を使った堅土の状態。筋肉(しんぶんし)魔力(みず)ひたされているから、この時だけは私のチカラで、筋肉自体も破壊できるの」


そう言って明美は自分の腕を刃に変えて、水に濡れた新聞紙を真っ二つにしてしまった。

明美の表情は、更にとても暗く落ち込んでいた。


「やっぱりその魔法……ううん、違うな。兵器としてのチカラは嫌いか?」


すると明美は刃を再び元の手に戻し、泣きながら叫ぶ。


「嫌いだよ」


「こんなチカラが無ければ、私はこんな事にならなかった!十年前の脱走した時に誰かを殺す事も無かった!こうやってみちるや琥珀、学校の皆を巻き込む事も無かった!私は私が嫌い。この人を傷つけることしか出来ないチカラが大っ嫌い!!」


声高く泣きながら訴えるその叫びは、紛れもない本心であり願いであり、抗いようのなく、救いの無い今までの運命に対しての慟哭だった。


でも、だからこそ俺は明美に伝えなければならない事があった。


「でもな明美。俺はそのチカラに、お前の兵器としての、そのチカラに生命を救われたんだよ。俺はそのチカラも含めて明美の事が好きだよ」


「……え?」


キョトンとした表情で固まる明美。兵器としてのチカラも好きだと言われるとは、夢にも思わなかったのだろう。

正直、自分でも恥ずかしい事を言っていると思っている。


でも俺は伝えなければならなかった。


明美に生命を救われたから。そのチカラの正しい使い方を知っていて、そのチカラの使い方を勘違いして、自分自身を嫌いになっている明美に、教えてあげなければならないからだ。


「確かに明美のそのチカラは人を傷つけてしまうものなのかもしれない。その側面があるのは認めるよ。でも、それだけだったら俺はこうして生きて明美に会えていないんだ」


そして、俺は一番最初に助けられたあの日の事を語り出す。


「明美、覚えてるか?俺が、お前の追手に『雷鳴(ブリッツ)の稲妻(ドンナー)』で殺された時の事を。あの時、明美が咄嗟に『接続コネクト』して、一緒に体を共有して治癒してくれたお陰で、俺は今こうして生きてる」


あの日、俺は本来なら死ぬ筈だった。でも明美に助けられこうして今も生きている。明美に助けられたからこそ、もう一度琥珀や堅土に会うことが出来たのだ。


「それに今だってそうだ。堅土に殴られて意識を失っている俺の精神をギリギリで留めてくれたおかげで、俺はまだ死なずに済んでいる。どっちも明美のチカラのお陰で、俺は生き続けて来れた」


そして俺は泣きながら聞いている明美の涙を、手で優しく拭き取って真っ直ぐに伝える。


「だからさ明美。きっと明美はチカラの使い方を間違った方向に、その上偏って考え過ぎてるんだよ。だから自分のチカラが嫌いになって、自分自身の事も嫌いになっているんだ」


最後に俺は明美のその暖かい二つの手を握って教える。


「だから明美、もう一度だけ自分のチカラと向き合って、考えてみてくれ。きっとそのチカラは人を傷つけて害する事しかできない、そんな悲しいチカラじゃない筈だから」


「…ありがとうみちる。……みちるがそう言うなららもう一度だけ考えてみるよ。それでも解らなかったら、みちるのことを頼ってもいい?」


未だ不安に心を揺らす明美。

俺が返すべき言葉は一つだけだった。


「ああ、目一杯頼ってくれ。俺は明美の彼氏なんだからな」


そして、俺の意識は現実に引き戻された。


※ ※ ※


俺の体が白い光に包まれる。

体が軽い。殴られた箇所もズキズキと痛い。

骨は軋み、機械にぶつかった体は悲鳴をあげている。

けれど、今までとは違う事が一つだけある。


『なに、寝てるのみちる!立ちなさい!』


体の奥から響く明美の声。俺は今、明美と『接続コネクト』していた。


「ふん……アルテミスと『接続コネクト』して一時的に助かったか。つくづく悪運が強いな、みちるは」


未だ余裕の表情で、しかし俺と言う敵を見定め表情に反して全く油断のしていない堅土は言う。


『明美、俺は堅土の事を傷つけずに、真正面から闘って、助けたい。何か武器は無いか?』


『なら、いい武器があるよ!』


明美はそう言って、俺の腕に光り輝く粒子を収束させて一つの武器を作り出した。

それは月の紋章が入ったガントレットだった。


『刃物や鈍器、飛び道具だとどうしても傷つけてしまうからね。これなら安心だよ』


「さすがだ!ありがとう明美!!」


両拳を合わせ、それが堅土との再戦の合図になった。


「行くぞ堅土!!」

「こいッッ!みちる!!」


そして、助ける為の拳と殺す為の拳がぶつかり合うのだった。


※ ※ ※


「はぁっ!」


俺はかけ声と共に、右のストレートを打ち込みにかかるが攻撃を読まれ、そのまま地面に綺麗に叩きつけられる。


「かはっ……ッ!」


そしてすかさず俺の腹へ向けて堅土が拳を振り下ろしてくる。

―――ッ!!

間一髪これを避け、床から堅土背後に回り込み蹴りを叩き込む。


「ぐはっ!」


しかし、それと同時に足を捕まれチカラの限り堅土に放り投げられ、俺は宙を浮く。

そのまま壁に激突すると、追い打ちの如く真っ直ぐのストレートを堅土が打ち込んでくる。


「死ね!!」

「食らうかッッ!!」


間一髪、堅土のストレートを避ける。威力が強すぎたのか壁に拳がめり込んで堅土は動けなくなる。


「ここだッ!食らえッ!!」


「ッ!!?」


その隙をついて、俺は堅土の顎に思いっきりアッパーを食らわせる。


――――――っ!!?


堅土に一発入れると、突如俺の頭の中に、映像が流れ込んできた。


―――そこには、病室の穏やかに眠る女の子の前で滂沱の涙を流す堅土の姿があった。


咄嗟に俺と堅土は距離をとる。

堅土は今の一撃で脳が揺れたのか、ちゃんと立てなくなっていた。


「ーーーっ!?今のはいったい―――?」


『恐らく今のは堅土の記憶。私のチカラが堅土の精神、魔力に干渉したためにみちるに流れ込んで来たんだよ』


明美がそう言うと、今度は不意に堅土が己を鼓舞するように叫びだした。


「負けられない。ーーーを護れるのは俺だけ……俺だけなんだ。俺が……護らなきゃなんねぇんだよォォォォ!!!」


そう言って力の限り堅土は、無造作に拳を振り上げ突貫してきた。今までとは違い隙だらけだ。


その拳を俺は横に避け、思っきり顔面に向けてカウンターを放つ。それきり堅土は床に倒れ込むこととった。


殴った時に再度流れてきた、堅土の記憶。


―――それは、ごく最近の記憶だった。

そこには、培養器の中に入った明美を解放し、研究所から脱走させようとした、白衣姿の堅土姿があった。


「はぁ……はぁ……堅土、お前…一体何でこんな事をしてんだよ。何の為にこんな事を続けてるんだよ」


息を荒げて、俺は堅土に理由を問いただした。


そして、床に倒れ仰向けになった堅土は遠い目をして、自分の半生を語り出すのだった。

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