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雷の王と二色の王




 「アルゼスさん、貴方の騎士叙任が議会にて正式に採決されました。おめでとうございます」



 龍から土地を取り返して一週間、事態の変化は俺の元へ唐突に訪れた。例の如く運んできたのはアーシェリーさんである。


 「……騎士? それは仮じゃ無く?」


 「ええ、正式な騎士です。異例ではありますが、件の龍の存在を考慮して、また私やリュシオール様と共に任務を達成した功績も認められたため研修期間なしに正騎士になることが許可されました。つきましては叙任式を行うため私と共に国王陛下の元へ出向いて頂きたいのですが………」


 「無理に決まってんだろ、今ここからラピスを離れさせる事は出来ない」


 「それは承知の上です」


 「………つまり、ラピスを置いて俺一人で出向けって事だな? 却下だよ。何が悲しくて単身敵の巣窟に特攻せにゃならんのだ」


 (ラピス)に関して、また貧民出身の男が出世することについても、あらゆる面で俺の敵は国の中枢に行けば行くほど多くなる。最前線でラピスの近くにいる方がよっぽど安全だ。


 「それも承知の上です。ですが、騎士叙任に関係無くいずれにしても一度は国王様に謁見して頂かなければなりません…………龍の代わりとして。本来は龍本人を連れて行きたい場面ですが貴方の言う通りここから動かす事は出来ませんからね、せめて代理人をば、と」


 代理人て、あーた。


 「そんなことしても意味無いだろ。龍を見せないと」


 「そんなこと分かってます。ですが組織に属している以上、どのような形であれ上に態度を示す必要は常に付きまとうんですよ」


 嗚呼、げにおそろしきは宮仕えかな。俺はフリーでよかった。



 「……なので、最初に戻りますが貴方の騎士叙任にかこつけて呼び出そうということになりまして」


 「騎士の話は建前か」


 「まぁ、そうですね。ですが悪い話では無いと思いますよ? 建前とはいえ騎士になれない訳では無いですから」


 「単独行動せざるを得なくなる時点で悪い話だよ、さっきも言ったが今は敵だらけなんだぞ」


 「一応対策は練ってますよ、三騎士のどなたかに同行して頂くとか」


 「……国の英雄に守ってもらえるのか、俺も随分偉くなったもんだ」


 「ええ、今や貴方は国と龍を繋ぐ唯一の架け橋ですからね、死なれては困るのですよ」


 おどけた言葉に真面目で返された。赤っ恥ものである。




 「王が来ればいいのだ」


 「馬鹿を言うな馬鹿野郎」




 今まで沈黙を貫きベッドに横たわっていたラピスの爆弾発言。咄嗟に罵倒で返しちまったじゃないか。


 「お前王なんだろ? なら王がすべきで無い行動なんかも分かるだろ?」


 「龍と猿を同じにするな。龍の従者が猿の王の元へわざわざ出向いてやる必要が何処にある」


 駄目だ、話が通じない。


 「お前、こないだは別に良いって言ってただろ」


 「形式の上でどのような立場にあろうと気にしない、が、龍の僕に相応しくない態度をとるなと言っているのだ。下僕が猿如きに頭を下げるなど恥辱の極みだ」


 「その下僕は猿なんだが」


 「種族はどうでも良い、私の僕であることが大事なのだ」


 こうなってしまっては最早どうしようもない。てこでも意見を曲げはしないだろう。


 「………こういう訳だから、今回は見送ってくれ」


 「了解しました」


 恨み言一つも言わず一礼したアーシェリーさん。ラピスの性格をよく理解している。だが彼女も内心では毒を吐きまくっているに違いない。いや、確証があるわけじゃ無いけど。




 突然、うつ伏せでベッドに寝転がっていたラピスの尻尾がピーンと真上に伸びた。男性の発情時の生理的現象みたいだと一瞬思ってしまった自分を殴りたい。


 「何か来たぞ、空だ」


 俺の不埒な思考など知らないラピスはむくりと起き上がり、新しい宿にはちゃんと付いていた窓から身を乗り出した。


 「ちょっと出てくる、すぐ戻るから気に」


 言葉は最後まで続かなかった。そしてその表情も見ることはかなわなかった。ただ、再びその尻尾が千切れんばかりの速度で跳ね上がり、傍目にも分かるほどにラピスの身体が大きく震えた。


 「………………………エドガー、付いて来い。それと猿、絶対に、何人たりとも外に出すな」


 窓から身体を引き戻したラピスの表情は形容しがたいモノだった。




 狂喜と興奮、そしてまぎれも無い戦いへの渇望が歪な笑みとして一つの顔に詰め込まれていたのだ。


 そして突然、どちゃっ、と鈍い音が窓の外から鳴った。




 すぐさま窓から覗いた外には胴体が抉れた巨大な白い生物が横たわっているのが見てとれた、背中の翼から察するにあれがラピスの言った空から来た何かなのだろう。地に叩きつけられて形を保っていることから考えるとかなりの強度を持った肉体なのだろうが、それに穴を開けるとは……一体何があったというのか。


 そして、遅れて耳を劈く地響きが轟いた。


 反射的に耳を塞いだは良いものの、それでもなお音は手を超えて耳に届く。だがラピスは轟音などなんてこと無さそうに俺の襟を掴んで駆けだした。当然、絞まる。


 「ぐえっ!!」


 俺のうめき声は華麗に無視された。



 宿を出た瞬間に光を伴って龍の姿へと変化したラピスは俺の両腕を掴んで軽やかに空を飛んだ。音に驚いて飛び出してきた兵士たちが騒いでいるのが目につくが、ここからではどうしようもない。


 あっという間に城壁を飛び越えたラピスはしかし、何かを探すように旋回すると西へ進行方向を変えた。速度は少しずつ落ちていき、俺にも地面をしっかりと確認する余裕ができてきた。



 そして俺の目がそれを捉えた瞬間、全身の血が逆流したように錯覚した。



 天から見ると大地に僅かに零れた血液のようだった、しかしよくよく観察すればそれは血などでは無く、艶めく赤黒い鱗を持った一頭の龍なのである。全長は随分小柄で、戦争の時に見た将の龍と比べると二回りは、そしておそらく兵の龍よりも更に小さい。肉食獣のような体形をし、流線型と言うのかその鱗は全体としては滑らかな曲面を描いているものの頭の先端は鋭い刃のように尖っている。


 だがその小さな体躯からは、かつてラピスに向けられた物よりも更に強烈な、そして純粋な殺意がヒシヒシと迸っている。正直これ以上近づくと気絶しかねない。


 俺の恐怖に気付いていないはずは無かろうが無情にもラピスは少しずつ高度を下げていく。そして、半ば程降りた所でラピスの声が俺の頭に響いた。



 {エドガー、覚悟を決めろ。アレは以前お前の求めた存在だ。


  赤の王、またの名を雷の王グリムバルクという。世界最強の一角だ}



 ――――――赤の王、確かに手を組もうと考えたこともある相手だ。だが――――――


 「……………これは桁が違いすぎんだろ……っ!!」


 {ほう、誰に比べてだ?}


 お前にだ、とは口が裂けても言えない。俺はラピスの本気を未だ知らないのだ。


 「……今まで見た赤の龍共だ」


 {それはそうだろうな……一応言っておくが、私はあれ相手でも負ける気はサラサラないぞ}


 「…………勝てる、とは言わないのな」


 {王が相手だからな…………先ほども言ったが覚悟を決めろ、エドガー。この重圧も耐えきれないお前ではあるまい、何せ既に身をもって体験しているのだからな}


 



 ズゥン、と低い地響きを伴ってラピスの足が地に着く。腕を掴む手を離されて俺は無様に尻もちをついた。冷静を装って尻をはたく。大丈夫、肚は括ってる、言動に支障は出な……出ない……はず。



 そして、ここに二頭の王が相対した。



 敵意の激突で空気が震え、魔力の衝突は地を揺らす。まもなくここが地上の地獄になることが容易く予想できた……できてしまった。


 {………まさか二色の王が絡んでたたぁな、完全に予想外だったぜ}


 {お互い様だ、私もまさかこんな地雷原に名高き雷の王が直々に乗り込んでくるとは思ってもみなかった。お前はもう少し賢いと踏んでいたんだがな}


 {けっ、この程度のことも予想できない阿保に言われちゃお終いだ、”新世代”の特異性を忘れたのか?}


 {別にそういう訳では無いさ、ただ、同じ”新世代”である私は王が出てこないと読んだのだが。つまり新世代の特異性など関係無い、単にお前が単細胞だっただけだ}


 謎言語での掛け合いを続ける二頭。何故か戦闘、否、戦争は始まらない。


 {……忘れない内に一つ聞いとこう、テメェ、何で猿如きに手ェ貸した?}


 {なに、手駒として猿を使ったのだ。生憎兵士の持ち合わせが無くてな}


 {………あァ……つまり、参戦の意思表示、だな? 安心しろ、俺は老害共と違って非難はしねぇからよ}


 {ゆくゆくはな、だがこの場で開戦するのは望ましくない}


 {街一つ獲っといてほざきやがる}


 ぐっぐと低く笑った赤の王は体勢を低く構えた。戦闘の意思表示、だろうか。ラピスもそれに合わせて前傾姿勢をとり、攻撃の姿勢に入った。そして、この二頭が激突した際の余波(・・)で俺はあっさりと死ぬ事を悟った。


 「お、おいラピス………」



 つい、口から零れてしまった言葉。だが、この細やかな言葉が緊迫した空気を一瞬で凍結させた。



 「……んん?」


 {ば、馬鹿者っ!}


 {…………おい、二色よぉ。お前、確かラピスファズマっつったよな?}


 {……………}


 {シカトっつーことは合ってんのか。ラピスファズマ、略してラピス………………クッ、クカカカ!!!}


 {笑うなグリムバルク!!!}


 急に笑い出した赤の王。何がそんなツボったのか、龍の笑いはさっぱり理解できない。


 {カカカ!! いいじゃねえか……ククッ………ラピス、よぉ……クカカカ!!}


 {お前にその呼び方を許した覚えは無いぞ!!!}


 {猿が許されるんならオレだって許されんだろ、クカカカカカカ!!!}


 {ええい、埒があかん!! エドガー! 彼奴に恥ずかしいあだ名を付けてやれ!!}


 「え、いや、えー……?」


 なんで俺に振るんだよ。


 {おい猿、妙な事言ったらぶっ殺すぞ}


 {エドガー、お前は私の僕だろう。守ってやるから気にするな!!}


 巻き込まれそうになり笑いが一瞬で収まった赤の王と相手を笑い者にしてやろうと必死なラピス。享楽で命を落としてしまっては堪ったものでは無いのだが、主サマに恥をかかせる訳にもいかない。しかも、ここで命令に逆らえばラピスを信頼してないと取られてしまう、それはすこぶるマズい。


 「…………グリム…………とか?」


 言い終わるよりも早く赤の王の鋭い爪が俺の眉間に突き付けられた―――いや、ラピスによって眉間に届く前に止められたのだ。暴風と衝撃が俺の全身を叩き、危うく体中複雑骨折になりかけた。殺気が軽かった分勢いが弱く、幸運にも死なずに済んだのだろう。


 そして、相手の名前をもじった(略しただけだが)あだ名を得たラピスは一転していじめっ子の様に相手を弄り始めた。


 {グリム………良いではないか!! 赤の王よ、お前が私の事をラピスと呼ぶ限り私はお前の事をグリムと呼ぶぞ、盛大に笑ってやるがそれでも良いのだな!!?}


 {良いはずあるか阿保がぁ!! ……ラピスファズマ、休戦だ}


 {うむ、それが良い}


 お前ら本当は仲良いだろ(白目)。




 {…………おい、猿………お前本当に猿か?}


 「え?」


 あだ名騒動が一段落付き、なんか空気が弛んだ所で赤の王から質問された。


 「そりゃ当然人間だが。龍にでも見えるのか?」


 {猿にしか見えねぇから聞いてんだ。オレの爪を眼前に突き付けられて何で平然としてられんだよ、並の生物なら卒倒するぞ? あと、口の利き方に気を付けろ}


 「別にお前の僕じゃないし……」


 {強者に敬意を払えっつってんだ}


 ラピスと同じことを言っている、やはり王となれば根本的な部分が共通しているのだろうか。


 {んで、オレの質問に答えろよ、何で平然としてられんだ}


 「何で…………と言われてもな………肚括ったから?」


 {はぁ?}


 うん、それが正しい反応だろう。


 {じゃあなんだ、お前は死の恐怖に根性で打ち勝ったってのか?}


 「そうなるんじゃなかろうか」


 {……………………なぁ、ラピスファズマ………お前の僕イカレてんじゃねぇの?}


 {猿にしては面白い奴だろう、私が気に入るのも分かるんじゃないか? それに、だ、そもそも龍と普通に会話できる時点でどこかおかしいのは自明だ} 


 {それをすんなり受け入れる君主の方もイカレてやがったか、どうしょうもねぇな}


 {戦闘狂に言われたくは無い。………ま、無論それだけではないがな}


 {ほう、と言うと?}


 {………話して良いものか}


 {何だよ、気になるじゃねえか。勿体ぶらずに言いやがれ}


 完全に仲の良い友人の間の会話である。殺すべき敵同士だとは思えない。


 {まぁいいか………猿共はな、我々龍と違った視点を持っているのだ。特にそいつはそれが顕著でな}


 そして話すのかラピスよ。……まぁ良いけど。


 {あー、そうか、そういうことか。だから力を無下にできるんだな、納得がいった}


 何が納得いったのか俺にはサッパリだ。



 {おい猿、お前、俺の下に付く気はねぇか?}


 なんと、龍王直々にスカウトされた。


 {おい、グリムバルク。人の僕を奪おうとするな}


 そしてもう片方の龍王は不快そうに唸った。


 {良いじゃねぇか、話を持ち掛けるくらい。……で、どうだ? 今なら生かして帰してやるが?}


 交換条件が酷い。つまり呑まなきゃこの場で殺す宣言である。


 {エドガー、一応(・・)言っておくが、私を裏切ればこの場で即刻捻り潰すぞ}


 なんてこった、呑んでも呑まなくても殺されるとは。



 「……お話は嬉しいが、それは呑めないな」


 {……そうか、残念だ}


 緩んでいた場の空気が一瞬で引き締まる。龍王が”一歩”殺意を持って踏み出したのだ。俺の顔からはダラダラと冷や汗が流れ、ラピスの纏う空気も剣呑な物に代わる。


 「……待った、そっちが人間を受け入れる気があるなら一つ提案があるんだが」


 {……あ゛? 提案だぁ?}


 {エドガー!!}


 ラピスの静止の声が響く。だが、それを振り切って精一杯の虚勢を張り、俺は人を羽虫のように蹴散らす怪物へと言葉を投げた。




 「赤の王グリムバルクよ、我らが王ラピスファズマと同盟を組んでみる気は無いか?」




 {……………………………………はぁ?}


 心底馬鹿にするような声が届く。だが、足は止まった。


 {……それは、苦し紛れの戯言か?}


 「いいや、あの町を紫から”獲る”前から考えていた}


 嘘は言ってない。出撃していたが獲ってはいなかった。


 {………話せ、聞いてやる}


 おちゃらけた雰囲気など欠片も無い、まさしく支配者の声音で言い放った赤の王はその場に座り込んだ。ここからが正念場だ、一つ間違えれば簡単に首が飛ぶ。


 「まず俺が考えたのは二色の王の軍の弱さだ。人間ではいくら龍のパーツによるドーピングがあっても精々兵を討ち取るのが関の山で、将には歯が立たない。防衛するにもラピスファズマだけでは限界がある。我々は火急速やかに龍の戦力を必要としていたんだよ」


 {そうだろうな。……それで?}


 「では、どうすればその戦力が手に入るか。どこかの王を討ち取ることも考えたがあまり現実的では無い。なら第二の手段だ」


 {それが同盟か}


 「そうだ。そこで策を練った結果が今だ。赤の王は俺達の目の前で、俺の話を聞いている!」


 本当は偶然だが、それを言っても損しかないので黙っておく。


 {………つまり、全てお前の手の平の上だったと? 二色の王が俺の進出を読んでいなかったことも?}


 「ああ、勿論だ。…………それで、どうするんだ?」


 {……………オレにはどんな益がある}


 「単純だよ、王クラスの戦力が二倍になるんだ。それと、競争相手が減る。六から一までな」


 これにはかなりグラッときた様子だった。だが、赤の王はそう簡単には落ちない。


 {………どうして赤を選んだ}


 「ラピスファズマに教わったんだよ。赤の王は愚かで無い新世代の王だ、得だと理解すれば手を貸すだろう、ってな」


 ――――――真夜中の質問の内の一つ、どの色の龍であれば俺達に力を貸すか? 


 この問いにラピスはこう答えた。”赤か紫、こいつらの王は他と違う”と。これだけでは理解できない部分も幾らかあったがそれについては追加で尋ねている。


 {………そうか、紫はあの怠け者だからな}


 そして赤の王は何かに得心がいったらしく、熟考に入ったようである。




 {……………いいぜ、乗ってやる}


 一〇分経っただろうか、固まっていた赤の王はそう口にし、俺は安堵のため息を吐いた。


 {ただし、条件がある}


 そしてどん底に突き落とされた。


 {なに、そう難しい事じゃねぇ。二色の、お前は仮にも俺の盟友になるんだ。オレぁ自分より弱い奴を認める気はねぇ……この意味、分かるな?}


 {当然だ。むしろそっちの方が分かりやすくて良い}


 「待って、俺死んでまう」


 結局戦争おっぱじめるのかよ。


 {………分からん奴だな、龍王を前にあれだけの啖呵切っといて今更命を惜しむのか。オレだったから良かったもののお前の提案は旧世代の老害共に聞かせたら連中発狂もんだぜ? 地獄逝き待ったなしだったろうし、オレがその生意気な面を胴体とオサラバさせる可能性だってあった。とうに死の恐怖なんぞ克服していると思っていたんだが}


 「そりゃ出来れば死にたくは無いぞ、命を危険に晒さないといけない場面に強いだけで」


 {―――なぁ、ラピスファズマ、やっぱりコイツ譲ってくれよ}


 {断る}


 {……しゃあない、貴重な人材だ、余波が無い所まで移動してやるよ}


 言うが早いか赤の王は爆音と共に一条の赤黒い閃光となって姿を消した。何やら光の膜が俺の周りに展開されていなければ衝撃であっけなく消し飛んでいただろう。


 「……ラピス、ありがとうな」


 {礼には及ばん………済まんがエドガー、一人で帰ってくれ。私も何かある前に帰る}


 「何かあると思っているのかお前は」


 だがラピスは龍の凶相でニヤリと笑い、飛び去った。





 「……お帰りなさい、アルゼスさん。一体何事だったんですか?」


 「……すぐお偉方に報告する。会議になるだろうからその時にしてくれ」


 「……………分かりました。では、後ほど」


 城門を潜った所で待っていてくれたらしいアーシェリーさんと即座に別れて騎士団の出張所(仮)に向かう。現在騎士団長含めた重要人物は軒並みこのハルフラムの町に集結している。居ないのは町の防衛に残った三騎士のお一人くらいのものだ。


 俺の報告は驚愕を生み、すぐさま緊急会議が開かれた。会議は一昼夜に及び盛大に紛糾したが、結局もう一人の当事者であるラピスがいない事にはどうしようもないという程度の結論しか出てこなかった。





 そして三日後の明朝、未だラピスが帰らぬ内にハルフラムの町は白き龍の襲撃を受けた。

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