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騎士団と龍と冒険者



 「アルゼスさん、上と話がつきました。お二人には騎士団本部に来ていただきます」


 一時間ほどでアーシェリーさんが帰ってきた。ブロン氏の姿は無い、別に居なくても問題ないんだが。それと外が少々騒がしいが野次馬が集まってきているのかもしれない。


 「付いて来て下さい」


 言われるまでも無いと玄関から外に出ようとした所で強い光が目に飛び込む。なんかデジャブ。玄関の外には先程同様光を反射する鎧を装着した騎士の方がいた………約二十人ほど。野次馬に至っては数えるのが億劫なほどである。


 「………やり過ぎじゃないか?」


 「龍相手では物の数にもなりませんよ。これは移動をスムーズにするためです」


 「……そ、そうか」


 後ろを確認すると、不愉快そうな顔をしながら目を手で隠して騎士の集団の方を向くラピスがいた。光が鬱陶しいのだろうが、そんな理由で暴れられては流石に参る。


 「なぁ、その角と尻尾どうにかなんねぇの?」


 目は……まぁいいか。


 「隠せという事か? お断りだ。これ以上誰が好き好んで猿に似せるか」


 「そ、そうか」


 口ぶりからして現状ですら妥協の結果らしい。言葉すらも人語にしている以上もはや気にすることなんて無いと思うのだが、譲れない一線は存在するのだろうか。それとも、角と尻尾は龍の証だとかそんな理由なのか。


 「大丈夫ですよ、一般人に見られないように大柄な騎士達を要請したんですから」


 大丈夫ではないと思うが。どうもこの騎士さんも何処か抜けているようだ。



 結局頭に布を被せることを何とか同意させた。だいぶ後頭部の突き出した人間になってしまうがこの際仕方がない。尻尾は丸めて隠せと言っておいたがどうなるか。


 玄関から一歩外に出ると途端に大勢の騎士に囲まれた。必然全方向から光が反射する。ちょ、やけるやける。


 ラピスはラピスで不機嫌なのが一目で分かる。窮屈なのを嫌うのだろうが、王がそれで大丈夫なのか。


 「移動します。退いてください」


 いつの間にか騎士の輪の外に居たアーシェリーさんが野次馬に対して退くように命令をしている。しかし野次馬の人数が多く思うようにいってないのは明らかだった。ラピスの苛立ちが募っていく。


 いつまで経っても遅々として進まない現状に、とうとう龍の王は切れた。



 「ええい、退け!!!」



 龍王の命令、再び。ラピスの前に立っていた人間が周りのことなどお構いなく皆ほぼ反射的に左右にはけた、騎士も野次馬も関係無く。静寂が辺りを包む。


 「おい、動くのだろう? 早くしろ」


 自分の行いによる人災―――具体的に言うと無理に左右に別れたせいでドミノ倒しのように野次馬が倒れて血みどろの二次災害が発生したこと―――などお構いなしに周りの騎士に話しかけたラピス。話しかけられた騎士は一瞬ハッとなった後憎々しげにラピスを睨んだ。目の前の存在のせいで守るべき民が傷ついたとあらばその反応も当然か。


 しかし、下等生物からの敵意などどこ吹く風とばかりにラピスは同じ言葉を繰り返した。早くしろ、と。


 「………移動しますよ」


 「アーシェリーさん!」


 納得いかないと騎士の一人が追いすがる。しかし、自身も悔しさをかみ殺したような表情の女騎士はそれを聞き入れなかった。


 そして巻き込まれた俺は何もして無いのに針の筵である。逃げたい。


 「………何やってくれてんだよ、いきなり心象最悪じゃねえか」


 「猿にどう思われようと知ったことでは無い」


 小声で話しかけると、ラピスは声を小さくするなどの配慮も無しにある意味敵対宣言にとられかねない危険発言を言い放った。また周りの目がきつくなる。


 しかし、それ以上は誰も口を開くことなく集団は動き出した。




 「ここで待っててください」


 騎士団本部だという巨大な建物に連れて来られ、色々報告があるからと一室に通された俺達。明らかに鋼造りのその部屋は殺風景で、絶対住む為じゃ無くて何かを拘束するためだろと思わずにはいられない。


 「こんなちゃちな部屋で私を封殺できると思ったか?」


 言いやがった。しかもちゃちって……。これには流石のアーシェリーさんも苦笑いだった。


 「思ってませんよ、ここは人間用ですから。単純に部屋が無いだけです」


 「そうか。だが、部屋が無いとはいえ客人をこのような部屋に通す奴の神経を疑うな」


 それを口に出す奴の神経こそ疑うよ。


 「無い物は無いです。と言うか相手は龍ですし、部屋の良し悪しを気にするとは思いませんで」


 「ま、そうだな。雨風さえ防げれば問題無いと言う奴もいる。私もそんなに気にはしない」


 「じゃあ良いじゃないですか」


 「許されるならいいや、で平然と非礼を行う性根に文句を言っているのだ」


 「姑ですか貴方は」


 「龍王様だ」


 どうもそりが合わないらしい。ラピスの方は合わせる気が無いのだろうが、アーシェリーさんはどうなのだろうか。天然か、狙っているのか。


 「アーシェリーさん、急いだ方が良いんじゃないのか?」


 「あ、そうですね、すみません、失礼します」


 「おい、逃げるな!!」


 俺の言葉にこれ幸いと退散したアーシェリーさん。ラピスはまだ言いたいことがあったらしく不満げである。確かに囚人扱いには俺も言いたいことはあったが、何だろうか、ラピスが怒るのを見て冷めた。



 「ふむ……おいエドガー。悪知恵の働く貴様が騎士ならここからどうする」


 「天井の通風孔から毒ガスを流し込む」


 「うむ、清々しいまでの外道だな。だが私に並の毒は効かんから大丈夫だ」


 「俺には有効なんだが?」


 「私が毒を感知してからすぐさま天井ごと吹き飛ばせば良い」


 「無茶苦茶言いやがる」


 「龍だからな。……で、他には?」


 「そうだな。………ありったけの爆薬で部屋ごと消し飛ばす」


 「私を殺傷する程の爆薬か。この建物、いや、ここら一帯が消し飛ぶな」


 「もう全員退避済みなんだよ」


 「クフフ、やはりお前は面白いな。だが残念、この建物内に人間の気配は残っている。それも大人数な。私を爆殺する線は無さそうだぞ」


 「そりゃあ残念だ」


 本当に残念である。龍からの解放への道のりがまた一歩遠のいた。




 「……………暇だ」


 「はぁ」


 「エドガー、何かないか」


 「何か…………ねぇ。…………あ、そういえば一つ質問」


 「ほう? 今の私は退屈だからな、例え今まで殺した敵の数だろうと答えてやらんことも無いぞ?」


 退屈の度合いは余程だったのだろう。身を乗り出すように食いついた。


 「………覚えてんの?」


 「まさか、冗談だ。ま、千では足りん事だけは確かだな。……で?」


 「お前さ、契約の時に龍の王って言っただろ? 本当に王なのか?」


 「……む? そんなことが聞きたいのか? 私はてっきり鱗の事だと……………ああ、まあいい。で、私は王なのかだと? 答えはノーだ」


 鱗の事も気になるが、


 「詐称かよ」


 「最後まで聞け馬鹿者。その様子では貴様は龍の資質についても知らんようだな」


 「資質?」


 「龍はな、それぞれに才として生まれ持った立場がある。大きく分けて三つ、兵、将、王だ。兵と将、将と王の間には圧倒的な力の隔絶がある、覆すことは不可能だといって良い。そして契約の際には自らの資質を名乗るのが通例なのさ」


 「初耳だ」


 「猿には知られていないのかもな。で、つまり私は王の資質を持っているという訳だ。だが支配するべき領民がいない、仕方がないから猿を使う……そんな所さ」


 「仕方ないで戦わせられた挙句滅ぼされちゃ人間としては堪ったもんじゃないな」


 「馬鹿を言うな。誰がせっかくの駒を簡単に手放すような真似をするか。使い倒すに決まっているだろうが」


 「なお悪いわ」


 漸くこの龍の姿がほんの僅かではあるが見えた気がする、暴君だ。




 「お二人とも、お待たせしました。面会の準備が整いましたので付いて来て下さい」


 半ば分かってはいたがこいつが暴君だと確定した後すぐにアーシェリーさんが帰ってきた。面会、とな?


 「誰に会うんだ?」


 「ここのトップですよ」


 「私じゃないか」


 「なぁラピス、お願いだからもう少し考えて発言してくれ」


 「私が何も考えて無いと言いたいのか?」


 「考えて無いだろ、少なくとも今の発言に関しては」


 あれは絶対に脊髄反射だった。


 ふと視線を感じると、そんな俺達のやり取りを不思議な物を見るような目でアーシェリーさんが眺めていた。確かに、何も知らない人間から見るとこの光景は理解不能かもしれない。当事者である俺さえそうなのだから間違い無い。


 「あ、すみません。………その、仲がよろしいんですね」


 「む? ……そうか?」


 「端から見たらそうなんだろ」


 「そうか」


 「ま、あんたの気持ちも分かるよ。なんで龍と人間が軽口をたたき合っているのかが分からねぇんだろ?」


 「……お察しの通りです」


 「ま、俺は肚括っただけだけどな」


 「ええ!?」


 大きく目が見開かれる。すました騎士様の表情とは思えない。


 「当たり前だろ、戻っても止まっても死ぬんだ、進むしかない。ま、進んでも死ぬ可能性は高そうだが」


 「は、はぁ…………」


 「分かってるかは知らんけど、あんたもその一端だからな?」


 「え?」


 「いきなり斬りかかってきたのは誰だと思ってるんだ」


 「あ、ああ………すみません、その、仕事だったので」


 歯切れが悪いがまぁ仕方あるまい。許すかどうかは別だが。



 「……ここです。ちょっと待っててくださいね、くれぐれも勝手に開けないように」


 そう言い残してアーシェリーさんはある扉の内側に入った。


 「……なぁ、今のはフリか?」


 「違うと思う」



 「どうぞ、入って下さい」


 「お、呼ばれたぞ」


 ラピスは俺の返事を待たずにノブを捻り戸を押した。しかし開かない。


 「む?」


 押す、押す押す押す押す。ここでふとアーシェリーさんが先に入ったシーンを思い出した。


 「……おい、それ引きd「ベキッ」………あー」


 不意に鳴った不穏な音、引き攣った笑みのラピス、手に残った扉。見事にぶっ壊しやがった。ラピスはほんの僅かに身を硬直させた後、ポイとさっきまで扉であった木材を捨てると何事も無かったかのように入室した。これには中に居たお偉方たちも唖然としていた。


 コッソリとその後に続く、視線が少ないのが幸いだ。


 「さて、私を呼びつけたのはお前らか」


 こいつ、無かったことにしようとしてやがる。


 「…………弁済はしてもらうぞ」


 「こいつに言え」


 部屋の中では騎士たちが円卓のような席につき、壁際にも数人立っていた。そして上座に座った中年男性が発言した、無かったことにはしてくれないらしい。そしてラピスは躊躇無く俺を売った。ふざけるな馬鹿野郎。弁償しろと言った中年には憐れむような目で見られた。


 「………私はクレール・オーフィラという者だ。一応国家騎士団の団長をさせてもらっている。そして、お前が件の龍だな、報告ではラピスと呼称されていると聞いたが?」


 「それを許してしまったのは私の汚点だ、傷口を抉るような真似は止めてもらいたい」


 「そうか、では何と呼べばいい?」


 「龍で良い」


 「では龍、お前は何の目的でこの国に侵入し、あまつさえ善良な国民を脅して使役するような真似をした?」


 「……善良?」


 おい、そこで悩むなよ。


 「………まぁ良いか。……何の目的で、と聞いたな。そうだな、身を隠すため、それと駒の確保だ」


 「身を隠すとは?」


 「言葉通り隠れているのだ。他の龍からな。現状では万に一つも勝ち目は無い」


 「では、それがばれた時ここが狙われるのではないか?」


 「だろうな、ま、ばれてもすぐに来ることは無いはずだが」


 「と言うと?」


 「奴らは皆少しでも多く自分の領土が欲しいのさ。今どいつかがここを襲えば間違い無く他の連中も乱入して大規模な戦争になる、それは不利益の方が大きいと分からんほど馬鹿じゃない」


 初耳である。だがそうなると……。


 「ふむ……それについては後で詳しく話を聞かせてもらっても?」


 「条件次第だな」


 「そうか、で、もう一つの方は?」


 「言葉の通り、単純な駒だ。さらに巨大な集団への足掛かりにするつもりだったが、こいつは十分に有用だったからな、良い拾い物をした」


 「解放する気は?」


 「無い。そもそも契約で縛ってある」


 「空手形と言う話だが?」


 「本気で龍から逃れられると思っているわけでもあるまい。殺しはできんが、猿相手なら威圧だけでも十分な脅しになる、手は出せないと分かっていても死の恐怖を感じる程にな」


 「なるほど………所で、私と契約してみる気は無いかね?」


 「ほぉ……内容は?」


 「お前に従属し、忠実な駒となる、でどうだ? 無論そこの彼と違って詳しい内容は後で詰めていくし、国に所属したままというのは変えられないが」


 …………名より実を獲りに来たか。反論が無い以上既に承服済み、と。


 「………………ふむ、エドガー、私は受けても構わないと思うのだが、お前はどう思う?」


 どうしてここで俺に振るのか。騎士たちの眼が俺に集まり、心労で胃に穴が開きそうだ。ただ、俺より圧倒的に偉い筈の騎士サマの縋るような目線がなぜか俺の悪戯心を擽った。



 一瞬だが確かに、人間として騎士の味方をするより、この龍を手伝った方が楽しいと思ってしまった。



 「……いや論外だろ」


 ピクリと団長殿の眉が動く。言った後で気づく、後悔先に立たず、と。


 「………エドガー、と言ったか。説明、して貰っても?」


 「…………………契約するのは”騎士団”じゃない、”騎士団長一人”、だ。中年一人切り捨てりゃ騎士団は大した損害の無いまま大戦力を手にできる。簡単に引っかかると見抜いたのは流石だと思うが、それにしたって杜撰すぎるだろ」


 「……おお! なるほど! 流石悪辣外道だな!」


 「褒めてんのか?」


 「半々だな。それとお前も言葉は選ぶべきだと思うぞ」


 「事実だ」



 俺とラピスによる場にそぐわないユルい掛け合いを眺めていた騎士団長は暫く黙っていたが、やがて深々とため息を吐いた。


 「……まさか同じ人間に裏切られるとは思ってもみなかったな」


 「裏切ったつもりは無い、別に騎士団に所属するわけでも無し」


 「現状では人間が一丸となって戦わねばならんのだ、それが分からないのか?」


 「分からないねぇ、こちとらその日暮らしするので精一杯でな。良い機会だから一般民の生活を知っておいた方が良いと思うぜ」


 「考えておこう。それと、杜撰すぎると言ったな? だがその理由も分かってるんじゃないのか?」


 「まぁ、そうだな。取れる手が余りにも少ないんだ、最尤の手ということであれば上手く龍を嵌めるしかなかったんだろ」


 「その通りだ、だが十分に勝算はあった。……龍は高い身体能力と知力を誇るが、頭が硬く駆け引きや言葉遊びには弱い、この情報は持っていた。後は賭けに勝つだけだったが………最後に邪魔をされてしまったな」


 「残念だったな。……それじゃ、聡明な騎士団長様がすべき事は分かるな?」


 「ああ。………何でも言え、それを呑む以外に手は無い」


 「だってよ、ラピス」




 「………すまない、状況がよく分からないんだが」


 「……一言で言うと、騎士団は詰んだ」


 「なお分からんわ」


 やれやれ、この龍王様は。


 「いいか? お前はまずここから出ていく気が無いんだろ?」


 「まぁ、当面は無いな」


 「すると、この国はいつかお前を狙う龍に襲われる可能性が高い。人間でさえ龍の居場所が分かるんだ、龍なら分かって当然だろう」


 「………ん? んん? ……ま、良いか。それで?」


 「何が良いのか気になるんだが………。龍が襲ってくると分かっているが、原因については対処不可能。逃げ場も無いと来れば迎え撃つ方向で話を進めるしかない。しかしお前が手を貸さないと言ったら? そりゃもう滅亡待ったなしだ、何としても協力の確約を得にゃならん。だが一度嵌めるのに失敗した以上相手の警戒心は増して二度目は無い、龍は誇り高く人間との協力関係など望むべくも無い……つまり降伏するしかない、詰みだ」


 「それで何でも要求を呑む、か。なるほど」


 得心が言ったとばかりに何度も頷くラピス。ホントこいつの将来が心配になってきたよ。その様子をじっくりと観察していた騎士団長は不承不承とばかりに口を開いた。


 「分かったか、それで? どんな命令を下す気だ」


 「そうだn「ちょっと待てラピス、契約を結ぶのは駄目だぞ」……はぁ?」


 契約をされてしまうと嘘がバレる、今の立場を維持する為にもこれは止めなくてはならない。だがこれで困る者達がいる、勿論騎士だ。


 「………どういうことだ、お前は私からさっきの言葉を引き出したかったんじゃないのか?」


 ”何でも言え”の事だろうか。勿論それもあるし、大事なことだ。ただ、それ以上に重大な理由があるだけである。それを口に出す訳にはいかないため新たな理由をでっちあげなければならない。


 「そうだな、当然こいつの言うことには従ってもらうぞ。だが契約は結ばない」


 言いながらラピスに目で訴える。祈りが通じたかラピスはハッとした顔になった後にかすかに頷いた。


 「その理由は……?」


 「決まってるだろ、負けそうになった時に逃げだすためだよ。ラピスは俺と契約済みな一方であんたらとは契約してない、つまり今優先されているのは俺の命だ、全国民の命じゃない」


 「………なるほど、お前は確かに悪辣外道だ、まさかここまで屑とはな」


 「何とでも言え、お前ら騎士団に味方してやる恩も義理も無いんだ」 


 「……………だが実際に戦うのはお前じゃないだろう。本人に確認すればいいんじゃないのか? 龍を嫌い、強制力が無ければ従わん者も出てくると思うがね」


 「そんときゃ自分らが滅ぶだけだぞ。忘れるな、お前らにもう選択権は無いんだ」


 とうとう完全に押し黙った。あーーー、やらかした。だがとても清々しい気分だ


 「……なぁ、エドガー。認めるよ、お前は私よりよっぽどクズだ。外道だ。糞野郎だ」


 「馬鹿言え、人間からすれば龍よりクズな生き物なんていねーよ」




 「…………分かった、我々騎士団は、そこの龍の命令に全て従おう」


 「団長!?」「お気を確かに!!」


 観念したように生気の抜け落ちた顔で宣言した騎士団長と、彼を諫める他の騎士。おい、余計な事すんじゃねぇ。思い直したらどうしてくれる。


 「だが頼む、どうかこの国を守るのに手を貸してほしい」


 深々と頭を下げた騎士団長。それを見たラピスはほんの少しの不安を滲ませて俺の方を向いた。そんな龍王様に俺が頷きを返すと、ラピスは無表情になって口を開いた。



 「断るっ!!」


 「馬鹿野郎!!」


 何でだよ、何でそうなるんだよ!! 騎士の人たち愕然としてるじゃん、一部の人は俺の方を視線で殺せるぐらい睨んでるじゃん。


 「なぜ罵倒したのだ!?」


 「そこは受ける場面だろ! 何で断るんだ!?」


 「お前は頷いたじゃないか、つまり断れという事だろう?」


 「俺はどんな天邪鬼だ!!」


 「では受ければいいのか?」


 「……ここで断る理由は無いだろ」


 「そうか、だろうな。私も不思議だったんだ」


 「だろうなって、お前………」



 「………結局どっちなんだ?」


 「受けてやる」


 「そうか、それは助かるよ………」


 騎士団長はこの会談で随分とやつれた気がする。

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