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8.収束ですか!?

8話目です。

「団長!」

 鋭く声を上げます。団長、信じてますよ。団長ならわかってくれる、って気持ちを込めて。

 人質の私がいきなり声を出したので、男がさっと殺気を私に移して、首に巻き付けた右腕に力が込めました。ええい、気にしません! 一か八かです!


「事務官マニュアル、28ページ第3章その4、いっきまーーす!」


 この場にそぐわない謎の言葉を叫びながら、首に巻き付いている男の右手を両手で掴み、思いっきり体をぐいっと下に屈め、その勢いで男の背後に回って、すかさず男の腕を後ろに捻じ曲げ、男の右肩を渾身の力で地面に押し付けます。バランスを崩し、無様に地面に倒れ伏す男。それと同時に左手でナイフを奪い、男の首筋に刃を押し当てました。

 一瞬の出来事。


 やったのは、こちら。

『騎士団マニュアル(事務官ver.)-緊急事態における対応の仕方―』

第3章「ナイフを首筋に突き付けられたときの護身術」その4


 一か八かでしたが、大成功です。体が流れるように動きました。

「ぐっ……」

 地面に顔を押し付けられ、苦しそうな声を漏らす主犯格の男。まさか人質(しかもチビの女)が反撃してくるとは思ってなかったはずで、今でもきっと何が起こったのか理解してないでしょうね。

 男の首筋にナイフを押し当てながら顔を上げると、団長がもう一人の男の手にしている剣を見事な体術で弾き飛ばし、ちょうど制圧したところでした。私がやろうとしたことがうまく伝わったみたいです。

 いやぁ、騎士団の事務官になる前に受けた護身術の講習がここまでうまくいくとは思わなかったです。実戦でやったのはこれが初めてでしたが、まさかそれがこうやって役に立つ日がくるとは。備えあれば憂いなし、ですね。

 しかも、数週間前にマニュアルを団長から渡されて、内容を確認したばかりだったのが功を奏したのでしょう。うーん、この事態を予想していたかのようです。団長、先見の明がありますね。男たちに対する体術や剣術もそうだし、やっぱりデキル男なんですね。っていうか、助けに来てくれたとき、すごくかっこよか――。

 そこまで考えたところでバタバタと数十人のものと思われる足音が聞こえました。騎士団の皆さんです。騒ぎを聞いて来たのか、団長を探して来たのかわかりませんが、これでどうにか事態は収束でしょうか。

「ヴィレム、大丈夫か!?」

 副団長が騎士の皆さんを率いて走ってきます。後ろにいるのは、第三騎士団(うち)だけでなく、第二騎士団の方々ですかね。そして、男を抑えている私の姿にぎょっと目を止めると、固まっていたのは一瞬で、すぐに事情を察知し、私の方に駆け寄ってきました。

「こいつをセシリアちゃんが制圧したの? すごいね」

 感心したようににっこり微笑みながら、副団長は取り出した縄を手際よく男の体に巻き付けて拘束しました。

「護身術の講習が役に立ったんです。あと、マニュアルも」

「それでも、それが実際にできるっていうのはすごいよ。怖かっただろうに、よく頑張ったね」

「偶然うまくいったんです。本当無我夢中で。だって、団長が殺されちゃうかと思って……」

 にっこり笑おうと思ったのですが、ほっとしたのかそのときのことを思い出したからなのか、目から熱いものがポロリと零れました。

「ふっ、だ、団長が、わ、わたしのせいで、こ、殺されちゃうかと、でも団長は、あ、ひうっ、私を安心させようと笑ってて、うっ、う、うう~~~~~~~」

 大人なのに人前で泣くなんて、とは思いましたが、それからは堰を切ったようになってしまいました。

「あーあー、あいつ、これだけセシリアちゃんに大事に思われて。……おーい、ヴィレム!」

 副団長が私の背中を擦りながら何かごにょごにょと呟いていましたが、顔を両手で覆って嗚咽を堪えようとしていた私にはよく聞こえませんでした。

「何だ?」

 騎士団の皆さんにあれこれ指示していた団長が、副団長の呼びかけに近寄ってきました。

「おい、何泣かせてるんだ!?」

 私を見てぎょっとして団長が副団長に詰め寄ります。

「おいおい、勘違いすんな。セシリアちゃんはな、お前が殺されるかもって思って怖かったんだよ。しかも、お前が自分の身を顧みないもんだから、自分のせいで危険な目に遭わせたって責任感じてるんだよ。だから、セシリアちゃんが泣いてるのはお前のせいってこと。責任持って謝れよ」

「えっ、俺のせいなのか!? いや、悪かった。すまん、泣くな」

 な、とオロオロしながらまるで子どもをあやすように言う団長。

 柄になく狼狽える団長が珍しくて、涙が少しひっこみましたよ。

「ヴィレム、どうせ取り調べや残党の追討は第二がやるんだ。第三騎士団(うち)がやるのは検問だけだろ。その辺の采配は僕がやっとくから、お前はセシリアちゃんを送っていけ」

「いや、でも」

 言い募る団長に、副団長がぴしゃりと返します。

「でも、じゃないから。善良な市民を安全に送るのも、騎士団の仕事。ってことで、セシリアちゃん、帰りは団長に送ってもらいなさい。詳しい事情聴取は明日やるから。ちなみにね、今日この場に僕らより先にヴィレムが到着したのは、君が遅くまで残業して一人で帰ったっていうのを聞いて飛び出したからなんだよ。君を一人で帰すなんて自分の落ち度だ、ってね。探している途中で怪しげな馬車と君の鞄を見つけたときの誰かさんの半狂乱な様子を見せてあげたかったくらいだよ。じゃ、いろいろと気をつけて帰ってね」

 いろいろと、のところで意味深に笑って副団長は他の騎士様たちのところに小走りで移っていきました。

 ……いろいろって何でしょう。



わかりづらいかと思いますが、セシリアの護身術は実際にあるものです(私はやったことありませんが)。


ちなみに、次回最終話です。


ありがとうございました。

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