7.絶体絶命ですか!?
7話目です。
暗い路地裏で、石畳の上に転がった私は4人の男に見下ろされていました。
「へぇ、眼鏡がないと意外と可愛い顔をしてんのな。これなら高く売れそうだぜ」
最初に私に声をかけてきた主犯格らしき男が、不穏なことをのたまいながら獲物をいたぶるようにゆっくりと近づいてきます。私は男から距離をとろうと後ずさりますが、じわじわと距離を詰めてくる男たち。
「安心しな、お嬢ちゃん。今に可愛がってくれる金持ちのじいさんにでも売ってやるからよ」
男は楽しそうに顔を歪めながら、腰を屈めて私に手を伸ばしてきました。
肩を掴まれる、そう思った瞬間――
「ぐえっ!」
男の背後から悲鳴が聞こえ、男の仲間が地面に倒れる音がしました。
「何事だッ!」
男の顔が一気に険しくなって振り返ります。そこには、
「……団長」
顔を顰め、肩で息をする団長の姿が。足元には、仲間の男が腹をおさえてうずくまっています。
「間に合った」
どうやら団長が助けに来てくれたみたいです。
良かった……。思わず、目にじわと涙が浮かびます。
団長は私の姿を確認すると、男たちの方に視線を移し、
「俺は第三騎士団団長。この後、俺の部下たちが到着する。そいつを離し、おとなしく投降しろ」
今まで聞いたことのない冷やかな低い声で男たちに呼びかけます。凄みのある団長の言葉に少し怯みながらも、男が叫びました。
「ふ、ふざけんな! どうせ一人なんだろっ! 投降なんかするかってんだ。おい、おまえら、一度にかかれ!」
男の声にうずくまっていた男も含め、三人がナイフを持って団長に跳びかかります。
「団長!」
思わず悲鳴に似た声が出ました。
刃物を持った複数相手ではさすがにと思いましたが――
形勢は瞬時に決まりました。
団長は、体を左に捌いて跳びかかってきた男を躱し、捌きざまに膝を相手の腹に立ててさらにその上から肘で一人目の男を地面に沈めます。さらに、二人目の男には腰に佩いていた剣の腹でナイフを弾き飛ばし、さらに体をやや沈めて相手の懐に入り、剣の柄を鳩尾にお見舞いして倒す。三人目の男には跳びかかってきた勢いを利用して薙ぎ払い、相手がバランスを崩したところに延髄に手刀を入れて昏倒させました。あっという間の出来事でした。
「形勢は決まったかと思うが」
主犯格の男は圧倒的な実力の差に唖然としていましたが、団長の射貫くような視線にハッとして私の後ろへと駆け寄り、
「おい、武器を捨てて、ここから離れろ!」
私の首筋には男の右腕が絡み、顔にナイフが突きつけられているではありませんか。
ひえーこれって人質ってこと!?
「その手を離せ」
団長の顔が険しくなり、短く固い声で男に告げます。
「近づくな! 一歩でも近づいたら、この女の顔に大きなキズがつくことになるぞ。そうされたくなかったら、今すぐその剣を捨てろ。それで両手を挙げて後ろに下がれ」
男がナイフをさらに私の顔に近づけて、団長を威嚇します。私の喉がゴクっと大きく上下します。
「わかった」
団長が剣を地面に投げ、両手を挙げます。カラン、と乾いた音が辺りに響きました。
「これでいいか?」
「ようし、いい子だ。そのまま後ろに下がれよ」
団長が剣を捨てたことで一安心したのか男はニヤッと笑って、地面に転がったままだった私を立たせます。
「言うことは聞いたぞ。早く人質を解放しろ」
「いや、まだだ。お前の強さはよくわかった。武器を捨てたくらいじゃ駄目だ。せめてお前の手足を使えないようにしてからじゃないと安心できない」
そして、意識を失っていた仲間を足で蹴って起こします。
「うっ」
「おい、お前、いつまでも寝てる場合じゃねえぞ。そこの剣でそいつを殺せ。トンズラすんぞ」
「なっ」
思わず声が出てしまいました。
なんてことを言うんでしょう! 自分たちが逃げるために、団長を殺すなんて!
団長を見ると、目を見開きつつも男たちに反撃する様子もありません。それどころか、私と目が合うと、安心しろとでも言うように小さく微笑みながら頷いています。人の心配をしている場合じゃないのに!
どうしたらいいでしょう。私が人質にされたせいで、このままでは団長が酷い目に遭わされてしまいます。私が足手まといになったせいで――。
こうしている間にも仲間の男が団長の捨てた剣を拾って、団長に近づこうとしているではありませんか。私に何かできることがあれば。
その時、頭の中にパッと閃いたことがありました。それができるかどうかなんて考えずに、反射的に私はそれを実行しました。
絶体絶命な状況は続きます。
ありがとうございました。