4.お説教ですか!?
4話目です。少し短め。
隣にある執務室に呼び出されました。十中八九、昨日の私の失態についてでしょう。いつもは私をへらへらと揶揄っている団長ですが、駄目なことは駄目としっかり叱ります。きっと私も叱られるのでしょう。
しかし、団長は席に座ったまま、こちらを見ようともしません。そのデスクの前で立たされている私は居たたまれません。
「あの、団長」
沈黙に耐えきれず、私の方から口火を切ります。
「申し訳ございませんでしたぁ!!」
がばっと音が出そうなくらいの勢いで頭を下げます。こうなったら先手必勝です。どうせ怒られるなら、自分から非を認めて謝った方がいくぶん団長の気も収まるでしょう。
「昨日は団長に夕飯を奢っていただいたにもかかわらず、酔って寝てしまうという大失態を私は晒してしまいました。さらには、寝てしまった私を家まで送っていただいて、そのときには負ぶっていただいたのも薄っすらとですが覚えております。団長ともあろうお方の手を大変に煩わせてしまい、大変非常にご迷惑をおかけしたと思っております。ですので、本当に、本当に申し訳ございませんでした!」
「おい、」
「しかも送っていただいたときに、部下としてあるまじき行動と発言をしてしまいましたようで。発言の内容はあまり覚えておりませんが、なんとなく恥ずかしいことを申したのはぼんやりと記憶にあります。昨日の自分を殴れるなら殴ってやりたいくらいです。本当にお恥ずかしい限りで、本当に申し訳が」
「おい!」
ひたすら謝る私を、団長が強い語気で制しました。
「……おまえは何を言っているんだ。酔っ払ったのは下戸のちびっこに酒を出した店側の責任だし、酔って寝た部下を家まで送るのは当然のことだ。謝ることじゃない。それよりも、なんだ、二日酔いは大丈夫なのか」
「へ?」
「だから、二日酔いは大丈夫なのかと聞いている」
「あ、いえ、二日酔いもなく、よく寝たのでむしろすっきりしていますが」
「そうか、それは良かった」
あれ、怒られるんじゃないんですかね。むすっとしているように見えましたが、これはむしろ、団長が心配してくれていた……?
「それと、昨夜のことは覚えていないのか」
「えと、家まで負ぶっていただいたことはなんとなく覚えています。ですが、家に着く辺りから記憶がだいぶあやふやでして」
「じゃあ、ちびっこを家に着いてからのことは覚えてないのか」
「家に着いてから……?」
なんでしょう。送ってもらったところまでは覚えていますが、そのあとは団長がすぐに帰って、私は寝たのではないのでしょうか。
「えと、何も覚えていませんが……あっ、もしかして私が何かやらかしてしまったのですか!?」
酔っ払って負ぶってもらうという醜態を晒したうえに、さらに私は何かやらかしたのでしょうか?
「いや、覚えていないなら、いい。大したことではないから」
「本当に?」
「気にしなくていい。大したことじゃないから」
大きくため息を吐いて、額に手を当てているから大丈夫そうには見えないのですが。
気にするなと言われれば気にはなりますが、気にしない方がいいのでしょう。
「それより、朝礼でも言ったような組織が動いているから、しばらくは定時で帰れ」
定時で帰れないのはあなたのせいですよね、と言い返したかったが、団長がひょいと本を渡したので受け取ります。
少し分厚いそれは、『騎士団マニュアル(事務官ver.) -緊急事態における対応の仕方―』。
これは、第三騎士団で働く事務官全員が入団前に必ずもらうものなのです。事務官の仕事は主にデスクワークといっても、騎士団という危険と隣り合わせの職場ですからね、何が起こるかわからないのですよ。だから、武官ではない事務官にも護身術を身につけさせようというわけです。これ、団長の発案らしく、他の騎士団にはないものらしいです。
マニュアルには、あらゆる緊急事態を想定し、わかりやすく図入りで護身術や緊急避難の仕方などが紹介されています。事務官全員にこのマニュアルが配られ、それに沿って、実際に訓練講習を毎年やっています。ですから、私も読破して一通りはできますが、改めて読めということなんでしょうね。
団長が下がるように手で合図をしたので、マニュアル本を持っておとなしく自分の席に戻ります。とりあえず、怒られなくてよかったです。
団長、撃沈。
ありがとうございました。