私の婚約者(王子)がお馬鹿すぎる。……でも好き、っていうこの羞恥に満ちた状況について
「エリザベス・ブラッドリ侯爵令嬢。君との婚約は破棄させてもらおう」
衆人環視のパーティの最中、そう言い放ったのは私の婚約者で、この国の第三王子でもあるエドワードだった。
その隣には、ストロベリーブロンドのかわいらしい少女…カインズ男爵令嬢が寄り添っている。
超然としたエドワード王子とは対照的に、カインズ男爵令嬢の頬は赤く染まり、恥ずかしそうに眼を伏せている。
そのくせ王子に寄り添う彼女は、なれなれしくも王子の腕に自らの腕を絡めていた。
あーあ。
私は心中でため息をつく。
この馬鹿王子、馬鹿だ馬鹿だと思っていたけど、本当に馬鹿だ。馬鹿すぎる。
どうしていいのかわからないレベルの馬鹿。
どうしよう、私の婚約者が馬鹿すぎて、めまいがする。
確かに、このところカインズ男爵令嬢と王子がよく一緒にいるという話は耳に入っていた。
下町育ちのカインズ男爵令嬢は、昨年母が亡くなり、正妻との間に子どものなかった父カインズ男爵に引き取られた。
初めは社交界の好奇と同情を集めた彼女だったけど、この一年でその視線は侮蔑と呆れに代わっている。
カインズ男爵令嬢といえば、社交界では男好きとして知らない者はいない。
未婚の女子にとって厳重に守るべきとされる貞操も貞節も、彼女の辞書には載っていないらしい。
見た目は無垢な愛らしい少女なのに、その男性遍歴はすさまじく、ちょっと気に入った貴族の男性ならだれにでも一夜を共にしたいと言いより、最近ではお忍びで下町の酒場にまで男を漁りにいっていると聞く。
彼女の出身は下町だから、そちらは単なる里帰りかもしれないのだけど、そんなフォローをする気にもなれないくらい彼女の素行は悪かった。
当初は悪質な噂かと思ってかばっていた子もいたんだけどね。
驚いたことにそれらの耳を覆いたくなるような噂は事実らしく、あまりにも破廉恥な彼女の態度に、近々男爵家には貴族院から厳重注意が行く予定だったりする。
そんな彼女と王子が親しくしているなんて大問題で、私も一度ならず王子にも、彼女にも、交友を慎むようにと言っていたのに。
その結果が、この「婚約破棄」だ。
あぁ、もう!
なんで私の婚約者ってば、こんなにお馬鹿さんなのよ!
王子の発言は、小さな声ではなかった。
学院の創立記念行事のラストを飾る今日のパーティは、無礼講がたてまえだ。
パーティがもう少し進んでいたなら大音量の音楽がかけられ、参加者がダンスを楽しむプログラムだったから、他の方にはこの声は聴かれなかったかもしれない。
だけどパーティはまだはじまったばかりで、人々は談笑していたけれど、盛り上がるほどではなかった。
宣言と言ってもいいほど明瞭な王子の言葉は、パーティ会場の隅々にまで響くようだった。
とたんにパーティ会場は小さなざわめきが起きる。
周囲にいた人々は「まさか」と言いながら、困惑した表情でホールの中央に立つ王子と私、それにカインズ男爵令嬢に目を向ける。
人々の視線を感じて、私は目を伏せた。
学校主催のダンスパーティだから、出席者は私と同じ年代の子どもばかりで、大人はいない。
とはいえ、同年代の貴族の子弟はほとんど今日のパーティに出席している。
好奇の視線は、気が強いほうではない私の身には堪えた。
なにしろ彼らは、私のことも王子のことも、よく知っている。
そして、これからも彼らとの付き合いは続くというのに、こんな事態。とんだ恥さらしもいいところだ。
「顔をあげろ」
そんな私の気持ちなど忖度するつもりもない王子は、厳しい声で言う。
昔から、彼はいつもこんなだった。
いつもいつもひとりよがりで、私の意見なんて聞かないで、私の心をかってに決めつけて。
挙句に、私を傷つけるような馬鹿なことをしでかす。
ほんと、うんざりだ。
震えそうになる体を必死で抑えて、顔をあげて、王子と視線を合わせる。
王子は、今日もいい男って感じだった。
銀の髪にアイスブルーの目が印象的なあまく整った容貌と、対照的にがっしりと鍛えられた武人の体。
王子として知性と社交性を叩き込まれ、武人として他者の追随を許さない実力を誇る彼の所作は、優雅にして野性的。
まぁ性格は思い込みが激しくて脳が筋肉でできていて、自分勝手なお馬鹿さんなんだけど、被害者がほぼ私だけなせいか、周囲の人の彼をみる目は優しかったりする。
武人としての彼は超人的なので、ちょっとアレなところも親しみがあっていいそうです。
私は迷惑かけられっぱなしだから、そんな暖かな気持ちにはなれないけどね!
現在進行形で、今も泣きそうな気分ですし。
「エリザベス。いやブラッドリ侯爵令嬢。君との婚約期間は長い。……なにか、言いたいことはないか?」
婚約破棄、ねぇ。
それが王子の本心なら、言いたいことは山ほどある。
物心ついたころからこの王子の傍で育ち、この王子の妻となるよう育てられたのだ。
言いたいことのひとつやふたつや百や千、ないほうが不思議でしょう?
なにしろこの俺様王子ときたら、暇があれば私を王宮によびつけやがるのである。
王子が勉強している際も傍でひかえさせられ、喉がかわいたの、菓子が食べたいのとぶつくさいいやがる。
愚痴をいうだけならいいのだけど、面倒だからと放っておくと、今度は勉強をさぼりだす。
王子の教師の方々やメイドの懇願を受けて、私は王子が愚痴を言いだすと、彼の口にお菓子を運んであげたり、メイドが用意したお茶を王子に手渡したりさせられた。
……まだ幼い侯爵令嬢の私が、ですよ?
普通なら、ありえない。
他にも、パーティの時には、彼の服に似た衣装のドレスを強要されたりもしたな。
今日のドレスも銀糸の刺繍をたっぷりあしらった薄いブルーのドレスだ。
同色のチュールを何枚もまとったドレスは繊細できれいだけど、黒髪黒目の私にはあまり似合わない。
当然だ、銀の髪とアイスブルーの瞳を持つエドワード王子に合わせた色彩のドレスなんだもの。
私だって、自分を引き立たせるドレスが着たいのにね。
だけど「言いたいこと」なんて、言う必要ない。
王子が私にむける視線が、なにより雄弁に彼の気持ちを語っている。
……あぁ、本当にばかばかしい。
こんな茶番に、泣きそうになるなんて。
こみあげてくる怒りを押し殺し、私はスカートをつまんで腰をおり、王子へと礼をとった。
「ございません、王子。わたくしたちの婚約は、王に定められたもの。ですが、王はわたくしたちがこの学院を卒業するまでの間に、お互いの心が通わない場合、婚約を解消するようにとおっしゃっていました。王子がそれをお望みになるのなら、わたくしはお心に従いましょう」
「なんだと!?」
婚約破棄という言葉は、自分では口にできなかった。
けれど王子は、あっさりと私が婚約の解消を了承したと思ったのだろう。
あわてて私に駈け寄る。
「そんなこと、私は父から聞いていないぞ!」
あらまぁ、王子。
そんなに動揺をあらわにしては、普段の俺様王子っぷりが泣くわよ?
少しだけ溜飲がさがるけれど、私の怒りはこんなものでは収まらない。
「わたくしの言葉をお疑いになるのでしたら、王にご確認くださいませ」
感情を押し殺して、顔を伏せて言えば、王子は私の腕に縋り付いてぼうぜんとつぶやく。
「そ、そんな…。エリザベス、本当なのか?」
「わたくしは、自国の王の発言を偽るような不敬者ではございません」
きっぱりと言い放てば、王子はようやく自分の発言の重みを知ったかのように、顔色をなくす。
そんなエドワード王子の狼狽ぶりに、カインズ男爵令嬢が不思議そうに首をかしげ、あまったるい声音で言う。
「なにを戸惑っていらっしゃるのです?ブラッドリ侯爵令嬢は、王子との婚約解消に応じてくださったのです。なにも王子を煩わせることはなくなったのですよ?」
にっこりと笑うカインズ男爵令嬢を見て、私は苦々しい気持ちでいっぱいになった。
近くで見ても、彼女はとてもかわいらしかった。
小さな女の子が大切にしているお人形のように、無垢なかわいらしさに満ちていた。
この愛らしさなら、どんな淫らな噂があっても、そんな噂など信じず、彼女を心から愛する男もいるだろう。
だけど、彼女は、あまりにも何も見えていないようだ。
私たちを見ている周囲の貴族たちの呆れた表情も、先ほどからの私の冷ややかな態度も。
なにより、彼女が愛し、愛されているはずの王子の、本当の気持ちも。
「ねぇ、王子。いいじゃありませんか。ブラッドリ侯爵令嬢との婚約は解消できたのです。お楽しみは、これからですわ」
カインズ男爵令嬢は、その大きな目をうるませて王子に囁き、形のいい胸を王子の腕におしつけた。
けれど、そんな男爵令嬢の態度に、王子は激昂するだけだった。
「君はなにを言っているんだ?カインズ男爵令嬢。エリザベスが!本当に私との婚約を破棄すると言っているんだぞ!?」
「え…、えぇ。ですから、王子はわたくしとたっぷりお楽しみいただけましてよ」
「わけがわからないな、カインズ男爵令嬢。現状を見れば、君のあまりよくない頭でも、『婚約破棄をすると言って驚かせてエリザベスに愛してるって言ってもらおう作戦』が失敗したことはわかるだろう…!それどころか、このままだと本当にエリザベスと婚約破棄……い、いやだっ!」
エドワード王子は、青くなって、赤くなって、それから真っ白になった。
わー、人間の顔色って、こんなに変わるものなのね。ぱちぱちぱち。
なんて現実逃避したくなっちゃう。
なにその『婚約破棄をすると言って驚かせてエリザベスに愛してるって言ってもらおう作戦』って。
馬鹿だ馬鹿だとは思っていたけど、本当に、予想の数百倍レベルで馬鹿王子です。
これが私の婚約者ですと。信じたくないわー。ないわー。
王子は、涙目で私の前に膝をつく。
そして地面にへばりつくように体を折り、涙ながらに許しを乞うた。
「え、エリザベス…!君と婚約破棄したいなんて、本気じゃなかったんだ。ただ最近君が忙しくてかまってくれないのがさみしくて耐えられないと思っていた時、カインズ男爵令嬢に素晴らしい作戦を授けられて…。つい、乗ってしまただけなんだ」
「仮にも王族の一員ともあろう方が、公衆の面前で婚約破棄を口にして、前言をひるがえされると?」
「…君が私のことを『愛している』と言ってくれれば、すぐにこれは冗談だと、パーティの余興だと言えばごまかせると思ったんだ」
「ごまかせるはずないでしょう。それにカインズ男爵令嬢は、どうするのです?彼女はこの後、あなたと『お楽しみ』の予定みたいですけど?」
エドワード王子は、私の足にすがりつかんばかりににじり寄ってくる。
顔が涙でぐちゃぐちゃだ。
それでもまぁ見られる顔で、つくづく美形って得だなぁと思う。
冷ややかに足元の王子を見下げれば、王子はえぐえぐと泣きながら、
「カインズ男爵令嬢は、私の君への愛情を見透かし、協力してくれただけだぞ?もちろん未婚の淑女の評判に傷をつけるのではと思ったが、彼女は自分はもう貞淑な乙女とはみなされていないし、構わないと言ってくれてな。確かに彼女を貞淑な淑女と思っている人間は社交界にはいないし、君という素晴らしい婚約者がいる私が、彼女を愛するなんてことを信じる人間もいないだろう。もちろん見返りとして、私の個人財産で宝石やドレスをいっぱいプレゼントしたし」
だから問題ないはずだと、のたまう。
そんな王子に、カインズ男爵令嬢は頬を赤く染めて、叫ぶ。
「で、ですが王子…!王子はわたくしのことを魅力的だと思っていらしたでしょう?初めはエリザベス様への嫉妬をあおるおつもりでわたくしと一緒にいられたのでしょうけど、わたくしのことを子猫のようにかわいらしいと、いとおしいとおっしゃっていたではありませんか……!」
「そ、それは君が普段から恋人らしい雰囲気をつくらなければ、敏いエリザベスにやきもちをやかせることなどできないと申したからだろう……!ここでそんなことを蒸し返して、エリザベスに誤解させないでくれ!!」
「なっ……!こ、この国でいちばんかわいらしいと評判のわたくしがずっとお傍におりましたのに、少しもお心がうごいていらっしゃらなかったとでもおっしゃりたいの!?」
カインズ男爵令嬢は、もはや絶叫と言ってもいい叫び声をあげる。
大きな目のまなじりに涙さえうかべ、彼女の女としての自信に傷をつけるエドワード王子につめよる。
だが王子は地面にはいつくばったまま、顔だけを彼女のほうにむけ、当然のごとく言い放った。
「この国でいちばんかわいいのも、きれいなのも、エリザベスだろう?君程度の容姿で、エリザベスの婚約者である私が心を動かすとなぜ思ったんだ?」
エドワード王子は皮肉やあてこすりで、カインズ男爵令嬢に言ったのではなかった。
それは、純粋な疑問。
カインズ男爵令嬢は、もはや言語らしい言語も口にできないようで、超音波のような音を口から吐き出している。
頭いたい……。
このあほ王子と、馬鹿女をどこかの異次元に葬りたい。
それで一生、彼らと無縁に過ごしたい。
だけど私は、このあほの極みのような男のいちおう婚約者なわけで。
「カインズ男爵は、このことはご存知なのですか?」
「ああ。令嬢の評判に傷をつけるような真似をするんだ。話はした」
「で?」
「彼も、娘同様、宝石が好きなようだったよ」
つまり金で話をつけた、と。
「あなた王族としての手当てはわずかでしょう?よくそんなお金、ありましたね?」
エドワード王子は、上のお二人の兄王子たちとは年齢が離れた末王子ということもあり、たいそう甘やかされている。
けれどそれは愛情面でのことで、金銭面は王族としての対面を保てるぎりぎりの額が支給されているにすぎない。
不思議に思って問えば、王子は私の許しが得られそうだと判断したのか、アイスブルーの目に期待をにじませながら答えた。
「先日の人食い龍の退治で得た賞金があったからな。あれを使ったんだ」
「ああ、なるほど」
私がからむと全力で残念になる王子なのでつい忘れがちだけど、この王子は武人としては稀にみる優秀な男なのだ。
人間では倒せないと言われていた人食い龍だって、彼の手にかかれば不可能ではない実力の持ち主。
ちょいちょいそれを忘れてしまうのは、私が見る王子の姿は、今のこの状況のようにめまいがするほどの馬鹿だからなんだけどね。
私は足元で泣きながら私の許しを乞うている王子をじっと見る。
すると王子はほんのりと赤くなった。
デカい男のそんな様子は、いかに王子が美形であっても情けないものだ。
ましてや、現状にいたる過程を思うと、ほんっとうに情けない。
だけどまぁ、カインズ男爵や男爵令嬢にもいちおうの筋は通しているようだし。
学院の生徒たちはみんな、こんな王子の醜態にも慣れていて、王子が土下座しはじめたころから、こちらを無視してパーティを楽しんでいらっしゃるようだし。
こんな馬鹿な考えで婚約破棄を口にするなんて王族としてはあってはならないことだけど、エドワード王子の兄である王太子様にはもう王子もふたりご誕生されていて、エドワード王子の王族としての重要性はかなり低い。
一方で、武人としての王子の国への貢献は、まぁ評価されていいものだし。
我が侯爵家としては、国を支える貴族として、彼がよりよく国に尽くしてくれるよう導く責任があるわけで。
そのためには一時の怒りで彼との婚約を破棄するより、傍で監督していたほうがマシだし。
今回の件に関しても、私の打つ手もまずかったというのもあるし。
……いいかなぁ。
いいよね?
これ見よがしにため息をついて、私は言う。
「仕方ありませんわね、今回だけは、婚約破棄はなかったことにしてあげますわ」
仮にも王子相手にどんなに上からなんだよ、とは自分で思う。
けれどエドワード王子はそれを聞いた途端、顔を輝かせて、私に抱き付いてきた。
「愛してるよ、エリザベス!婚約破棄なんて馬鹿なこと言って、ほんとうにごめん!」
「知っていますわよ、王子様。ただし、二度目はありませんわよ」
許された、と思ったんだろう。
王子が、ぎゅうぎゅう抱きしめてくるんだけど。この人、さっきまで、床に膝をついていたよね!?
こっちのドレスまで汚れそうじゃん。やめてほしい。
それにこんな騒ぎ、二度とごめんだわ。
こっちがどんな気持ちになったと思っているのよ。
まったく、ばかばかしい茶番だった。
エドワード王子の顔を見れば、王子が私のことを変わらず愛してるのなんて、一目瞭然だった。
そもそもエドワード王子が子供のころから私を溺愛しているのなんて、社交界ではみんなが知っていることだ。
だから年ごろの令嬢たちは誰も、エドワード王子をそういった相手としては見ていなかったのだ。
だけど、だからこそ。私には、王子が他の女の子と一緒にいる姿に免疫がなかった。
カインズ男爵令嬢が王子に寄り添っている姿を見て、そして王子が婚約破棄なんて言い出した時は、本当に胸が痛かった。
エドワード王子が愛しているのは私だけだと自負していたけど、それでも、彼が私に婚約破棄なんて言って。
男の人の相手に慣れたカインズ男爵令嬢が、自信ありげに彼のそばにいて。
それで自分は王子に愛されているからだいじょうぶだと思い切れるほど、私は強くなんてない。
私は王に認められた彼の婚約者だし、王は双方の意思を重んじる方だけど、結局のところこの婚約は、馬鹿だけどかわいい末っ子に、侯爵家の後ろ盾がほしいという王の親心からの婚約だ。
例え王子が心変わりしたって、カインズ男爵令嬢との婚約なんてありえない。
だけど、それでも心は揺らぐし、痛くなる。
だって、認めたくないけど、私もこの馬鹿な王子が大好きなんだもの。
いいところなんて、顔と武人としての能力だけ。
私の前に出ると発生するお馬鹿っぷりを思えば、そんなの帳消しになるくらい駄目な王子なのに。
「あなたこそ、知るべきですわ。あなたが他の女を愛しているかもしれないと思ったとき、私がどんなに苦しかったかを」
二度と、あんな気持ちを味わいたくない。
ひとまわり大きなエドワード王子の体に包まれながら、そう言えば。
エドワード王子は跪いて、私の手を取る。
「エリザベス。あのような茶番をしくんだことは謝罪する。けれど、私が君以外の女を愛することなんて、永遠にありえないよ。だから、今すぐ結婚してくれ」
先走りすぎぃ……!
そんなことまで、私は望んでないよね?
またこの馬鹿王子は、斜め上のことを言い出すんだから。
頭がいたい。
「ですから、王子。あなたの結婚は、国家の重大ごとなのですよ?そんなふうに気軽に言葉になさるものではありません。もっと王族としての自覚をもってくださいと何度いえば……」
「エリザベス。君、顔が真っ赤だぞ」
「こ、これはパーティの熱気にあてられただけです!」
こんな時ばかり目ざとい王子が、いらない指摘をする。
私は王子をにらんでいい返し、けれど小声で付け加えた。
「……はやく王に結婚が認められるくらい、立派な王子になってください」