いつものアレで辱めます
我が家のリビングである。
俺やティト、パメラ、アイヴィなどが見守る中、羞恥に震える一人の少女がいた。
「くっ……どうして戦士の僕が、こんな格好を……」
銀髪ショートカットの少女は、さっきまでの黒ずくめの衣装を脱ぎ捨て、今やフリル豊かなメイド服に身を包んでいた。
スカートをぎゅっと握った恥ずかしそうな姿は、なかなかに見ごたえがある。
ただ胸がないのと、髪型ほかが少年っぽいのとで、美少年の女装に見えなくもない。
でもそれはそれで、案外可愛かったりするわけで。
俺は玉座よろしく、椅子にどっかりとふんぞり返って座り、自分の前に立つ少女に言ってやる。
「どうしても何も、お前が言ったんだろ。弱者をどうするも、強者の権利だって。だから俺はお前にそれを着せて、俺の前に立たせた。何か問題が?」
「ぐっ……」
俺の言葉に、アルトは返す言葉がないというように、悔しそうに歯噛みして俯く。
そしてそれから、俺に視線を合わせて、胸に手を当てて言ってくる。
「……た、確かに、お前の言うとおりだけど……。で、でも普通、男が女を好きにするっていったら、これじゃないだろ!?」
「なにお前、そういうの期待してたの?」
「ちっ、違っ……! そうじゃなくて!」
地団駄を踏むアルトに対して俺は不敵に笑って見せてから、椅子から立ち上がり、少女のもとへと歩み寄る。
そして怯える少女の顎に右手の指先をあて、くいっと持ち上げてやる。
俺よりもアルトのほうが、少しだけ背が低いから、それでちょうど目線が合う。
「……な、何だよ。何をする気だ」
「ふっふっふ……今は何もしない。お前のことは、これからたっぷりねっぷりと時間をかけて、『女』にしてやる。何かするとしたら、その後だ」
「くっ……僕は戦士だ! お前に何をされようと、心まで屈することはない」
「へぇ、そうかい。楽しみだね」
そう言って俺は、とびっきり悪い顔を作って見せると、彼女の顎から手を外し、解放してやる。
そして再び、椅子にどっかりと座り込んだ。
それからふと横を見ると──じーっと、俺のほうをジト目で見つめているティトの姿が目に入った。
俺は脳内で、『念話』のチャンネルをティトに合わせてやる。
『……カイルさん、楽しそうですね』
『い、いや、ティト。さっき説明しただろ?』
『聞きましたよ。分かってますよ。でも随分堂に入ってるなぁって』
『……ごめん、実は楽しい』
『ん、正直でよろしい』
ティトは満面の笑顔を俺に向けてくる。
可愛い。天使。
……じゃなくって。
俺がアルトに対して行なっていることには、一応の理由というか、計画がある。
そのことはすでに、ティトやアイヴィには話してある。
と言ってもまあ、大した考えでもないんだが……。
アルトの考え方は、残念ながら、彼女個人の中ではまずまず筋が通っている。
これを理屈で切り崩そうとしても、多分そうそううまくいかないだろう。
それらしく論破することぐらいはできても、心変わりさせることまでは難しいと思われる。
であるならば、アプローチの仕方を変えようということだ。
理屈が動かせないなら、その理屈の土台になっている感性のほうにアクセスをする。
名付けて、『アルトのシリアスな世界観を、コメディな世界観で塗りつぶしてしまおう大作戦!』である。
まあ、これがうまくいくかどうかは分からないが、少なくとも人ひとりの考えをどうこうしようと言うんだから、一朝一夕ではいかないだろう。
長い目で見ていく必要がある。
しばらくはうちに置いて、一緒に暮らしてゆくことになるだろう。
幸いなことに、アルトは自身を打ち負かした俺には、服従の姿勢を見せている。
俺のもとにいる間は、あまり無茶はしないだろう。
ちなみに、服従と言っても、どんな命令でも受け付けるというわけじゃない。
そのあたり、隷属の首輪をつけたフェリルとは事情が異なる。
例えば──
「よしアルト。メイドとして、俺の肩を揉んでくれたまえ」
「……ふん、冗談じゃない。こんなものを着たところで、誰がお前の侍従になどなるものか。どうしてもやらせたければ、力づくでやらせてみろ」
そう言ってメイド服姿の女装少年、じゃなかった少女は、俺を睨みつけてくるのである。
力づくで肩揉みをさせても嬉しくもなんともないので、こういうのは通らないわけだ。
あくまでも消極的な服従ということになる。
なので例えば、こういう従わせ方になる。
「よし、分かった。じゃあ肩揉みはやめだ。俺は冒険者ギルドに行くから、アルト、お前もついてこい──その格好のままな」
そう言って、俺はニヤリとした笑みを作って立ち上がる。
そしてゆっくりと、アルトに向かって近付いてゆく。
「ふざけるな。誰がそんなことをするか。どうしてもというなら、力づくで──ふぇっ!?」
俺はアルトの背後へと一瞬で回り込み、足払いをかけて彼女のバランスを崩す。
そして、後ろ向きに倒れてくるところを、お姫様抱っこで抱き上げた。
「なっ……何をして……!」
「何って、アルトが言うように、力づくで連れて行こうってだけだが。ちなみに暴れたら、その可愛らしい唇にチューするからな。よーし、じゃあ行くぞー」
「なっ……!? ちょっ、ちょっ、ちょっと待った! 分かった、ついていく! 自分で歩くから、お、降ろしてっ!」
「おう、分かった」
俺は彼女の体を、すとんと降ろしてやる。
頬を赤く染めたメイド服の銀髪少女は、ドキドキした様子で、「迂闊な反抗はまずいか……」などとぶつぶつ言っていた。
このように、強制的アクションによって選択肢を狭めてやれば、自分から動いてくれるといった塩梅だ。
なかなかにコントロールが難しいが、楽しくはあるな。
「じゃあ俺、アルトと二人で冒険者ギルド行ってくるから、留守番頼むな」
俺はほかのメンバーにそう言って、アルトを連れて家を出た。
すみません、また予定が立て込んでしまって、再開直後なのにまた少し更新停止になるかと思います……。




