表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
RPGっぽい異世界でだらだら冒険者生活する  作者: いかぽん
第七章 邪教の信徒、あるいは最低で無力な俺と我が家の天使たち
94/121

邪教徒にセクハラ

「よう、元気か?」


 俺が鉄格子の前で呼びかけると、少年?は俺と目線を合わせるように立ち上がる。

 そして、キッと俺を睨みつけてきた。


「何しに来た」


「さぁね。それより聞きたいことがあるんだが」


「何だ」


「お前さ、男、女、どっち?」


「そんなことを聞いてどうする」


「いや、気になるだけだ」


 ちなみにティトが後ろからくいくい引っ張って、「カイルさん、聞き方がストレート過ぎますっ」とか嗜めてくる。

 なんか最近、ティトが俺のお母さんみたいだ。

 もしくは彼女か。いや、彼女でいいのか。


 それはさておき、鉄格子の向こうから答えが返ってくる。


「一応、性別は女だ。でもそんなことはどっちだって変わらない。僕は戦士だ」


 胸はぺったんこだけど、どうやら女の子らしい。

 ん、よかった、一つすっきりした。


「代わりに僕からも一つ聞かせろ。あのとき、僕はお前に倒されたのか? 正直言って、何をされたのか、ほとんど分からなかった」


「あー、あのときって、あの商館の地下で戦ったときだよな。ああ、確かに俺がお前を気絶させた。あのときは悪かったな、手荒な真似しちまって」


「くっ、僕を愚弄するのか……! ……いや、でも、実際にそれだけの力量差があるのは事実か。悪いのは、弱い僕だ。──お前は一体、どうやってそんなに強くなったんだ?」


 ……うーん、何ていうか、女の子を相手にしているにしては、色気のない会話だなぁ。

 ここは切り返しでコントロールするか。


「それはトップシークレットだ。っていうか、余人に真似できる性質のものじゃない。じゃあ今度はこっちの質問の番だな。──お前、パンツの色は?」


「白だ。こっちの質問。あの商館の地下牢には、僕のほかにもたくさんの教団員がいたはずだ。それをお前が一人で倒したと聞いた。本当か?」


「ああ、事実だ。こっちの質問。お前、ブラの色は?」


「そんなものしていない。こっちの番。もう一度聞く。ここに何しに来た」


「お前と話しに来たんだよ。こっちの番。週に何回、自分の体を慰め──んがっ」


 スパァン!

 ティトの振るったハリセンが俺の頭にヒットし、綺麗な音を立てた。


「カイルさんっ!? それ聞く必要ありますか!? ねぇ今それ聞く必要ありますか!?」


「……お、おう、ティト。さすがのタイミングだ。これ以上は危なかった」


「さっきから危ない人ですっ! っていうか、危ないって分かってるんなら言わないでくださいっ!」


 ハリセン片手に涙目でふーふー言ってるティトを、なでなでしてなだめる。

 ティトは「もうっ」とか言ってから、自身で牢の中の少女と向き合う。


「こんにちは。ごめんね、カイルさんが変なこと聞いて。あなた、名前はなんて?」


「キミはあのときの……。僕はアルト。キミは、ティトっていうのが名前でいいのかな」


「うん」


「あのときとは立場が逆転したね。キミの連れ──カイルが僕より強かったからだ」


 鉄格子の向こうの少女──アルトは、俺をちらっと一瞥しつつ、そんなことを言う。

 しかし何だか知らないが、強いとか弱いとかを妙に気にするやつだな。


「お前のところの邪神様は、強さでも司ってんのか?」


 俺がそう聞くと、アルトはよくぞ聞いてくれましたとばかりに、嬉しそうな顔を見せてきた。


「近いね。我らが神、ポルプトが司るのは“暴力”、そしてその教えは“弱肉強食”だ。強者が弱者を支配する──それがこの世の真理であり、正義だ。この教えを邪教とするのは、弱者である愚民どものさえずりさ」


 謳うように言ってのける少女の顔は自慢げで、さあ論破できるものならしてみろと言わんばかりだった。

 俺はそれを見て、あー、こりゃ真っ当にやり合っちゃダメだなと認識する。


 けどとりあえず、ジャブ程度に突っ込みを入れてみる。


「じゃあ、強い奴は弱い奴に何をしてもいいと」


「ああ。弱者に対してどうふるまうかは、強者の権利だ。弱者を冷遇するも、温情を与えるも、強者が自由に決めればいい。弱者を救いたければ、自らが強者になって救えばいい」


「ってことは、お前に勝った俺は、お前に何をしてもいいと」


「ああ。それは勝者であるお前の権利だ。さっきから聞いているに、お前は僕が女であることに興味を持っているようだけど、そういう風に扱いたいならそうすればいい。それはお前の権利で、悪いのはお前より弱かったこの僕自身だ」


「なるほど」


 ……うーん。

 困ったことに、こいつ自身の中では、筋は通ってるんだよな。

 でもこの考え方のまま牢の外に出して自由になったら、こいつは確実に問題を起こす。


 さて、これはどうしたものか……と、考えていると、


「じーっ」


「……な、なんだよパメラ」


 横合いから、パメラが俺のことをじっと見つめていた。


「いや、別に。ダーリンのことだから、きっとやらしいこと想像してんだろうなーって思って」


「し、してねぇよ!」


「えっ、してなかったんですか?」


 俺がパメラに抗議すると、今度はティトが、意外そうにそう言ってきた。

 お前ら俺のことを何だと……。


「うぅっ、カイルの(ピーッ)奴隷になったのは、ボクのほうが先なのに、このままだと先を越される……ねぇカイル、やっぱり若さなの? ボク年増だからダメ?」


「よしアイヴィ、お前も黙ろうか」


 俺がどんどん危険人物のように聞こえてくるだろ。

 だいたいその誤解、確か解いたはずだよな……?


「……ふん。どうしてお前みたいなやつがそんなに強いのか、理解に苦しむよ。……でも待てよ、欲望こそが強さの源泉だっていうのは、ポルプト様の教えでもある……。僕に足りないのは、欲望っていうこと……?」


 そしてアルトは、これまた見事に誤解を始めた。

 ああもう、収拾がつかん。


 ──まあともあれ、アルトは俺の言うことには従うということだったし、嘘をついて自由になろうとしているとも思えなかったので、ひとまず家に連れて帰ることにした。


 看守にその旨を話すと、冒険者ギルドのマスターであるターニャから話が通っていたようで、あっさりと認めて外に出してくれた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ