邪教徒にセクハラ
「よう、元気か?」
俺が鉄格子の前で呼びかけると、少年?は俺と目線を合わせるように立ち上がる。
そして、キッと俺を睨みつけてきた。
「何しに来た」
「さぁね。それより聞きたいことがあるんだが」
「何だ」
「お前さ、男、女、どっち?」
「そんなことを聞いてどうする」
「いや、気になるだけだ」
ちなみにティトが後ろからくいくい引っ張って、「カイルさん、聞き方がストレート過ぎますっ」とか嗜めてくる。
なんか最近、ティトが俺のお母さんみたいだ。
もしくは彼女か。いや、彼女でいいのか。
それはさておき、鉄格子の向こうから答えが返ってくる。
「一応、性別は女だ。でもそんなことはどっちだって変わらない。僕は戦士だ」
胸はぺったんこだけど、どうやら女の子らしい。
ん、よかった、一つすっきりした。
「代わりに僕からも一つ聞かせろ。あのとき、僕はお前に倒されたのか? 正直言って、何をされたのか、ほとんど分からなかった」
「あー、あのときって、あの商館の地下で戦ったときだよな。ああ、確かに俺がお前を気絶させた。あのときは悪かったな、手荒な真似しちまって」
「くっ、僕を愚弄するのか……! ……いや、でも、実際にそれだけの力量差があるのは事実か。悪いのは、弱い僕だ。──お前は一体、どうやってそんなに強くなったんだ?」
……うーん、何ていうか、女の子を相手にしているにしては、色気のない会話だなぁ。
ここは切り返しでコントロールするか。
「それはトップシークレットだ。っていうか、余人に真似できる性質のものじゃない。じゃあ今度はこっちの質問の番だな。──お前、パンツの色は?」
「白だ。こっちの質問。あの商館の地下牢には、僕のほかにもたくさんの教団員がいたはずだ。それをお前が一人で倒したと聞いた。本当か?」
「ああ、事実だ。こっちの質問。お前、ブラの色は?」
「そんなものしていない。こっちの番。もう一度聞く。ここに何しに来た」
「お前と話しに来たんだよ。こっちの番。週に何回、自分の体を慰め──んがっ」
スパァン!
ティトの振るったハリセンが俺の頭にヒットし、綺麗な音を立てた。
「カイルさんっ!? それ聞く必要ありますか!? ねぇ今それ聞く必要ありますか!?」
「……お、おう、ティト。さすがのタイミングだ。これ以上は危なかった」
「さっきから危ない人ですっ! っていうか、危ないって分かってるんなら言わないでくださいっ!」
ハリセン片手に涙目でふーふー言ってるティトを、なでなでしてなだめる。
ティトは「もうっ」とか言ってから、自身で牢の中の少女と向き合う。
「こんにちは。ごめんね、カイルさんが変なこと聞いて。あなた、名前はなんて?」
「キミはあのときの……。僕はアルト。キミは、ティトっていうのが名前でいいのかな」
「うん」
「あのときとは立場が逆転したね。キミの連れ──カイルが僕より強かったからだ」
鉄格子の向こうの少女──アルトは、俺をちらっと一瞥しつつ、そんなことを言う。
しかし何だか知らないが、強いとか弱いとかを妙に気にするやつだな。
「お前のところの邪神様は、強さでも司ってんのか?」
俺がそう聞くと、アルトはよくぞ聞いてくれましたとばかりに、嬉しそうな顔を見せてきた。
「近いね。我らが神、ポルプトが司るのは“暴力”、そしてその教えは“弱肉強食”だ。強者が弱者を支配する──それがこの世の真理であり、正義だ。この教えを邪教とするのは、弱者である愚民どものさえずりさ」
謳うように言ってのける少女の顔は自慢げで、さあ論破できるものならしてみろと言わんばかりだった。
俺はそれを見て、あー、こりゃ真っ当にやり合っちゃダメだなと認識する。
けどとりあえず、ジャブ程度に突っ込みを入れてみる。
「じゃあ、強い奴は弱い奴に何をしてもいいと」
「ああ。弱者に対してどうふるまうかは、強者の権利だ。弱者を冷遇するも、温情を与えるも、強者が自由に決めればいい。弱者を救いたければ、自らが強者になって救えばいい」
「ってことは、お前に勝った俺は、お前に何をしてもいいと」
「ああ。それは勝者であるお前の権利だ。さっきから聞いているに、お前は僕が女であることに興味を持っているようだけど、そういう風に扱いたいならそうすればいい。それはお前の権利で、悪いのはお前より弱かったこの僕自身だ」
「なるほど」
……うーん。
困ったことに、こいつ自身の中では、筋は通ってるんだよな。
でもこの考え方のまま牢の外に出して自由になったら、こいつは確実に問題を起こす。
さて、これはどうしたものか……と、考えていると、
「じーっ」
「……な、なんだよパメラ」
横合いから、パメラが俺のことをじっと見つめていた。
「いや、別に。ダーリンのことだから、きっとやらしいこと想像してんだろうなーって思って」
「し、してねぇよ!」
「えっ、してなかったんですか?」
俺がパメラに抗議すると、今度はティトが、意外そうにそう言ってきた。
お前ら俺のことを何だと……。
「うぅっ、カイルの(ピーッ)奴隷になったのは、ボクのほうが先なのに、このままだと先を越される……ねぇカイル、やっぱり若さなの? ボク年増だからダメ?」
「よしアイヴィ、お前も黙ろうか」
俺がどんどん危険人物のように聞こえてくるだろ。
だいたいその誤解、確か解いたはずだよな……?
「……ふん。どうしてお前みたいなやつがそんなに強いのか、理解に苦しむよ。……でも待てよ、欲望こそが強さの源泉だっていうのは、ポルプト様の教えでもある……。僕に足りないのは、欲望っていうこと……?」
そしてアルトは、これまた見事に誤解を始めた。
ああもう、収拾がつかん。
──まあともあれ、アルトは俺の言うことには従うということだったし、嘘をついて自由になろうとしているとも思えなかったので、ひとまず家に連れて帰ることにした。
看守にその旨を話すと、冒険者ギルドのマスターであるターニャから話が通っていたようで、あっさりと認めて外に出してくれた。




