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RPGっぽい異世界でだらだら冒険者生活する  作者: いかぽん
第二章 巨大蟻退治、あるいは少女たちのメイドさんご奉仕を賭けた戦い
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ヒロインまだー?

 宿に部屋を取って、軽くくつろいだ後。

 俺は宿に併設された酒場で、夕食を取っていた。


 カウンター席に座った俺の前のテーブルには、わりと豪勢な料理が並んでいる。

 大ぶりの白身魚のバター焼き、肉と野菜がふんだんに盛られたスープ、ふんわりと焼かれたパン、ベリー系の果物などがそのメニューだ。


 しかし──


「……何かが足りない」


 俺はフォークとナイフを手に、ぽつりとつぶやく。


「足りないって、何がっすか? 白いご飯がほしいとか、それ系っすか?」


 フィフィがいつものポジション、俺の胸元から聞いてくる。


 ……いや、別に食事に文句があるわけじゃない。

 酒場の夕食は、満足できる量のメニューは銅貨五枚~というのが相場のところ、銀貨二枚ほどをはたいて頼んだ料理の数々は、バリエーションも豊かだし、その味もなかなかに悪くない。


 足りないのは、もっと違うものだ。

 異世界で冒険者になって、何となく強くなって、何となく小金持ちになって、このまま行けば、何となくいい感じの生活を送れるような気もしている。


 だけど、こう──何かが足りない。

 それは例えるなら、ふわっとして、あったかくて、もふもふとして──


「そうだ──可愛い女の子の、仲間が足りない」


 そのひらめきは、天啓のようだった。

 そう、今の俺に足りないものは、まさにそれだ。


 すると、胸元のフィフィが、よよよっと涙を流す、ふりをする。


「そ、そんな……! うちというものがありながら──ご主人様、うちのことは、遊びだったんすね……!」


「相変わらずの小芝居をありがとう。でもそれ、どこから突っ込んだらいいか分からんからな」


「うっす、精進するっす」


 このどこを目指してるんだかわからない妖精もどきは、わきにどけておくとして。


 俺は、どこかに美少女いないかなーと、酒場をぐるりと見渡してみる。

 期待はしていなかった。

 何となく、見渡してみただけだった。


 しかし──いた。

 酒場の端っこの方のテーブル席に、一人の美少女。


 少女は、どことなく冒険者風の出で立ちだった。

 濃緑色を基調としたローブを身に着けていて、わきに立てかけられた木のつえには、ローブと同色の三角帽子が引っ掛けられている。


 輝くような銀色の髪は、緩やかに波打ちながら、背中に流されている。

 純真そうな眼に宿る大粒の瞳は、綺麗きれいなエメラルドグリーン。


 その少女が、酒場の隅っこのテーブル席で、一人もしゃもしゃと食事をしている。

 その存在は、周囲の風景から劇的に浮いていた。


 だが──そうして彼女を注意して見ると、別のことにも気付いた。

 彼女を見ているのが、俺だけではない、ということだ。


 別のテーブルで飲んでいる二人組の粗野な男たちが、彼女のほうを見ながら何やら相談していた。

 かと思うと、彼らは席を立ち、少女のほうへと向かって行った。


 そして彼らは、酒場の端っこの少女のすぐそばまで行くと、一人は少女とテーブルをはさんで対面に座り、もう一人は少女の斜め後ろぐらいに陣取って、少女の肩になれなれしく腕を回し、何やら少女に話しかけ始めたようだった。


 酒場の喧騒けんそうのせいで、何を話しているかは分からない。

 知りあいだろうか?

 俺の勘は、そうじゃないだろうと告げている。


 俺は迷わずチートポイントを1ポイント消費して、「超聴覚」のスキルを取得した。

 これはいろいろな使い方のできるスキルで、例えばこんな用法がある。


 俺は、少女のテーブル周りの音を集中的に拾い、一方で酒場のほかの喧騒を除外するよう意識する。

 すると、まるで映画の一場面を見ているかのように、少女と、彼女にまとわりつく男二人の会話だけが、クリアに聞こえてくるようになった。


「──なあ、いいだろ嬢ちゃん。一緒に楽しく飲もうぜ」


「そうそう、こんなところで一人寂しく食事してねぇでさぁ」


「……私がどう食事していても、私の勝手です。どうぞお構いなく」


 少女は男たちと目を合わせないよう、うつむきながらサラダにフォークを刺し、口に運ぶ。

 その様子は冷静をアピールしようとしていたようだが、実際のところ、少女の声は少し震えている。


 その様子に気付いているのか、男たちは楽しげだ。

 少女の背後から絡んでいた男が、吐息が少女の顔にかかるぐらいの距離まで自分の顔を近付け、


「なあ、そんなつれないこと言わねぇでよぉ。一緒に楽しくやろうぜ?」


 なんて言って、少女に寄りかかっている。


「……は、離れてください。怒りますよ」


 少女はフォークを置き、両手で自分の肩にかかる男の腕を、物理的にはがしにかかる。

 そうすると、男の腕は一度はどけられるが、しばらく後、また同じように少女の肩に回される。

 男たちは二人とも、一貫してニヤニヤ顔だ。


 ──ん、そろそろ確定でいいよな。

 あの男二人は少女の知りあいでもないし、少女は絡まれて嫌がってる。


「フィフィ、俺ちょっとヒーロー願望満たしてくるんで、隠れててくれ」


「ほへ? ──分かったっす」


 フィフィが俺の服の中に、しっかりと隠れる。

 俺は席を立ち、少女たちのいるテーブルへと向かう。


 少女のいるテーブルの前まで行くと、男たちと少女が、一斉に俺のほうを見てきた。


「──なんだお前?」


 男の一人が、少女の正面に座っていた方が、俺の前へと立ち、ガンをつけてくる。

 顔が近い、息が酒臭い──男と顔が近いとか、誰得だよ。


 俺はその男に向け、言ってやる。


「嫌がってんだろ。消えろよ」


「──あァ?」


 俺の言葉に、あからさまに青筋を立て、さらに顔を近付けてくる男。

 まあ、口先三寸で済ませるルートも考えてはいたんだが、これはもう、古いタイプのヒロイックファンタジーをやるしかなさそうだな。


 ……え、俺のせいだって?

 いやまあ、しょうがないべ、元は三十代のプチおっさんなんだから。


「──めてんのかテメェこら?」


 もう一人の男も俺の前に立って、そっちは俺の胸倉をつかんでくる。

 いかつい荒れくれ風の男二人ににらまれて、二対一。

 きゃー、怖ーい。


 俺は一応、ステータス鑑定を発動して、二人のステータスを見てみる。

 意外にも、彼らは冒険者のようだった。

 二人とも、クラスはウォリアー、レベルは1。


 ステータスは、STRやVITが少し高めで12ぐらいあるが、ほかは10以下が目立つ。

 要するに、ただのチンピラである。


「──もう一回だけ言うぜ。さっさと消えろ」


 自分で言ってて、歯が浮くような台詞とはこのことか、なんて思う。

 しかし今の俺はイケメン美少年らしいから、きっと恥ずかしくない。


「チッ、ふざけやがって──消えるのはテメェだ、クソガキッ!」


 ついに、男の一人がおキレになられた。

 男は俺の胸倉を左手でつかんだまま、右手で拳を作り、俺の顔面目掛けて殴りかかってくる。


 が、まあ遅いこと遅いこと。

 俺は体感でゆっくり迫りくるその拳を、顔を少しだけ横に動かして回避する。


「なっ……!」


「あのさ、服がしわになるから、そろそろ放してもらってもいいか?」


「なんだと──イデデデデッ!」


 胸倉をつかんでいる男の手首をつかみ、ちょっと力を入れてやると、彼は胸倉をつかんでいた手を放してくれた。

 それを確認して、俺もそいつの手首を解放してやる。


「──て、テメェッ!」


 もう一人の方が殴りかかってくるが、俺はそれを左手の掌でパシッと受け止める。

 でもって、その男の拳を、ちょっと強く握ってやった。


「ぐあっ……な、何だこいつ、バカ力か──ぐああああっ!」


 ちょっと痛めつけてやったところで、その拳も放してやる。


「まだやるってんなら、表出ようぜ。店に迷惑かけたくないからさ」


 俺が男たちに向かってそう言ってやると、二人は顔を見合わせ、


「──お、覚えてやがれ!」


 と捨て台詞を吐いて酒場を出て行こうとした。


 だが、それはちょっと待ってほしい。

 お前らもさっきまで、この店で飲み食いしてたんだよな?

 俺は両手で、背を向けた二人の肩をつかみ、


「勘定は置いてけよ」


 そう言ってやると、二人は慌てて財布から銀貨を数枚出してテーブルに投げ出して、今度こそ逃げ去って行った。

 みみっちいと言うなかれ。

 これで俺が代わりに勘定払えとかなったら、ちょっと嫌だからな。


「……あ、ありがとう……」


 少女はポカーンとした様子で、お礼を言ってきた。


「どういたしまして」


 俺は笑顔で、そう言ってやる。

 そして、「俺も一緒に食べていいかな?」なんて言いたくなる気持ちをグッと抑え、自分の席に戻る。

 なんかそれやっちゃったら、あの二人をダシにしてお近付きになろうとしたみたいで、どうにもイヤらしい感じがしたからだ。


 しかし、自分の席に戻ろうとする俺の服を、くいっと引っ張る者がいた。

 振り返ると、俺の服の裾をつかんでいたのは、目の前の少女だった。


「あ、あのっ──もしよろしければ、一緒に……お食事しませんか。──あっ、あのっ、ちゃんと、お礼もしたいしっ……その、さっきみたいな人たちにまた絡まれても、また嫌だし……」


 少女はうつむき、顔を真っ赤にした状態で、俺の服の裾をくいっとつかんでいた。


 ──俺はそのとき、あたたかな春の息吹を感じた。

 ひゃっほい。


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