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RPGっぽい異世界でだらだら冒険者生活する  作者: いかぽん
第六章 少女誘拐事件、あるいはこのあと滅茶苦茶セックスはできなかった話
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ステルスミッション

 まずは屋根の上から、地面に降りる。

 三階建てだが、今の俺の身体能力なら、そこから飛び降りること自体は特に問題がない。


 ただ、労働者の皆さんが働いているところにいきなり飛び降りると、注目されること必至なので、通りに直で飛び降りることは避ける。

 家の横手、隣の家との間の地面に、すたっと着地。


 一応、着地直前に『飛行能力』を発動させて、着地時のショックは和らげておく。


 ……ていうか、思ったんだが、最初からジャンプじゃなくて『飛行能力』を使っていれば、このお家の屋根瓦を壊さずに済んだんじゃないだろうか。

 ううむ、そろそろ自分の能力を把握しきれなくなってきてるな。


 まあいいか。今のところ大事になってないし。

 もともと俺のチート能力、機能やアプリが多すぎて使いこなせてないスマホみたいなもんだし、ある程度はしょうがないよな。


 さて、そうして家と家の間の細道に降り立ったら、タイミングを見計らって、すすすっと道路上へ出てゆく。

 そして何食わぬ顔で通行人に交じり、そのままの流れで、向かいの商館の裏手側へ。

 そうして誰に怪しまれることもなく、目的地である裏手の路地に入ってゆく。


 隣の家との間の細道をすすっと入ってゆくと、少し奥まったところの地面に、上方向に開くタイプの、地下への扉があった。

 その扉は、取っ手のついた大きな石の板という様相だった。


 さて、と取っ手をつかもうとして──その前に、ふと気づく。

 この扉に、何か罠みたいなものが仕掛けられている可能性は、あるのだろうか。


 ある種の古いタイプのファンタジーゲームでは、扉があれば罠を疑え、みたいな文化がある。

 俺も元の世界でそういうゲームを遊んだことがあって、ちょっと気になったのだ。


 ──まあ、あるかどうかは分からないが、念のため、軽く調べておくに越したことはないな。


 俺は『盗賊能力』スキルに含まれる「罠探知」の能力を使い、扉周辺を調べてみる。

 スキルのおかげで、どのあたりを調べたらいいのかは、だいたい見当がつく。


 さらに『透視』スキルも活用して、素早く調べてゆくと──


「うわ、本当にあったよ……」


 すごく単純な仕掛けだった。

 無造作に扉を引っ張り上げると、その扉に取り付けられた紐が引っ張られる仕組み。

 そしてその紐の先は、木製の鐘のようなものに繋がっている。


 いわゆる「鳴子なるこ」と呼ばれる類の警報型トラップだ。

 シンプルだが、一番めんどくさい類の罠だな。


 毒針とか、矢が飛んでくるとか、そういうダメージを受けるタイプのトラップなら、正直いまの俺的には怖い気はしないんだが、こういう警報系は厄介だ。

 あまり早い段階で敵に気付かれるのは、いろいろと面白くない。


 幸いそのトラップは、一度小さく扉を引き上げ、それを戻してからもう一度開けると、うまいこと作動しない仕組みになっているようだった。


 まあ、そうだよな。

 敵さんたちが自分らで使う出入り口なんだろうから、罠を発動させずに開ける方法ぐらい、用意しておくのが当然ってものだ。


 罠の存在を看破した俺は、さらに、周囲の警戒も行なう。

 『盗賊能力』スキルに含まれる「気配察知」の能力と、『透視』スキル、『生命感知』スキルも併用して、周囲に自分を見ている存在がいないかどうか調べる。


 そして、誰にも見られていないことを確認してから、石の扉の取っ手をつかんで、上向きに開いた。

 ほどよく重みのある扉を開くと、その下には石の階段が続いていた。


 ……いやしかし、地下道って何かこう、浪漫みたいなものがあるよな。


 俺はそんな場違いな想いを抱きつつ、若干窮屈で頭上注意な感じのそこに、自分の身を投じてゆく。


 中に入ると、そこはシンとした冷たい空気が漂う、石造りの空間だった。

 やや急勾配こうばいの階段は、二十段ほど降りたところで、地下階に繋がっているようだ。


 階段の左右の石壁には、ところどころランプが掛けられていて、薄暗いながらも明かりに不自由はない。

 俺的には『暗視』スキルがあるからどっちでもいいんだが、当然ながらこの辺は、向こうさんの都合だろう。


 俺は慎重かつ素早く、石造りの階段を下りてゆく。

 この際、『盗賊能力』スキルの「忍び足」を活用して、足音や物音を立てないようにする。


 階段を下りた先は、正面は行き止まりで、廊下の道は左手に曲がっていた。


 その廊下の先から、しくしくという鳴き声が聞こえてくる。

 ティトのものじゃない。

 この地下牢に捕らえられている、ほかの少女の声だろう。


 ──さて。


 ちと厄介だな。

 捕まっている少女たちは、もちろん敵じゃないわけだが、助けてだの何だのと大声で騒がれても困る。

 ティトの近くにいる見張りぐらいは、騒ぎにならないよう、隠密裏に仕留めたい。


 これは事前に『透視』で確認したときの情報だが、階段の先の廊下を左に曲がると、廊下がまっすぐに続いていて、その左右に二つずつ、合計四つの牢部屋がある。


 で、その廊下の先の正面が、ティトのいる牢部屋。


 そこからもう一度廊下が左に折れて、その先の廊下に見張りの黒ずくめがいて、さらに先が一番怪しい大部屋、という構造になっている。


 いま再度、『透視』を使って壁を透過し、見張りの黒ずくめを見ると、そいつは廊下で壁によりかかって腕を組み、黙して立っている様子だった。

 ちなみに体格は小柄で、俺よりは小さく、ティトよりは大きいという具合だ。


 見張りに関しては、ティトが「悪い子じゃない気がする」と言っていた。

 ティトと同い年ぐらいの子だとも言っていた。

 とはいえ、手練れらしいし、あまり油断しすぎるわけにもいかない。


 俺は一応、『透視』と『ステータス鑑定』を併用して、見張りの能力を確認する。


 すると、なるほど手練れだ、という感じの能力だということが分かった。


 ……さて、ここから先は、もう強行突破だな。

 俺は『念話』を使い、ティトに語り掛ける。


『ティト、すぐ近くまで来た。これから仕掛ける。俺の姿を見ても、声をあげるなよ』


『──っ! は、はい』


 ティトにだけそう注意をして、作戦行動に移ることにする。


 階段を降りきる二段前から、スタートダッシュをかける準備をして──


 ──全力で駆けた。


 階段の先、左手に曲がる廊下で九十度直角に曲がり、その先の廊下を全速力で駆け抜ける。


 速度が上がり切らなかったが、それでもコンマ何秒という間で、十メートルそこそこの廊下を突破。

 狙い通り、左右の牢部屋の少女らは、廊下を通り過ぎた俺に気付かなかったか、気付いても反応と思考が及ばなかったようだ。


 そして廊下の先の正面には、鉄格子があって、その向こうには、嬉しそうに涙を浮かべたティトの顔。

 鉄格子をぶっ壊してダイブしたい気持ちをぐっと抑えて、その直前で左に方向転換。


 ただ、ある程度速度が上がっていたので、そのままの速度で完全に九十度曲がることはできなかった。

 地面を蹴って跳び、斜め向かいの壁を蹴って、三角跳びの要領で方向転換することになった。


「──っ!?」


 その先の廊下にいた黒ずくめが、この段に至って、ハッとした様子で反応する。

 それでも反応してくるあたり、さすがは手練れといったところか。


 慌てて動いたせいか、被っていた黒のフードがはらりと脱げる。

 その下には、銀髪の美少年? いや美少女? といった顔があった。


 俺はちょっと「うわぉ」って思ったが、別にそれで躊躇うこともない。

 もとより殺すつもりはないし、逆に説得するつもりもない。


 速度を落とさないまま、そいつ──仮に少年としよう──に向かって走る。


 少年は慌てて腰から短剣ダガーを取り出す。

 そして接近する俺に向かって、それを素早く突き出してくる。

 コンマ一秒単位の動きに反応してくるんだから、大したもんだ。


 でも足りない。

 俺は少年の短剣を持った手の手首をつかみ、さらにもう片方の手を少年の背後に回して首根っこをつかみ、そのまま少年を地面へと引き倒した。


「あぐっ……!」


 胸から石床にたたきつけられた少年は、苦しげな声をあげて地面にうつぶせに倒れる。

 俺はその少年の首根っこから手を放すと、その手で手刀を作る。

 そして『攻撃制御ダメージコントロール』のスキルで手加減しつつ、手刀を少年の首筋にたたきつけた。


「がっ……!」


 少年は一度びくっと跳ね上がり、それから全身から力を失い、気絶した。

 カランと、少年が手に持っていた短剣が、廊下の石床に落ちる。


 俺は廊下に倒れた少年から、手を放す。

 これでしばらくの間は、目を覚まさないはずだ。


 そして少年から離れ、ティトの捕らわれている牢部屋の前へ。

 鉄格子を力ずくでねじ開けて、ティトのいる牢部屋に入ってゆく。


「お待たせ、ティト」


「──カイルさん!」


 ティトが飛びつくようにして、抱き着いてきた。

 俺はそれを、受け止める。


「カイルさん、カイルさん、カイルさん……! 会いたかったです! ひぐっ、うわあああああ……!」


 胸の中でわんわんと泣くティトを抱き寄せて、その髪をなでた。


 我ながらいけ好かないイケメン的な行動をしているなとは思ったが、しょうがないと思った。

 だって、そうしたいんだもん、しょうがない。


 あと、ティトがわんわん泣くから、これ大部屋の怪しい連中にも聞こえるだろうなと思ったけど、まあそれはそれで別にいいやと思った。




 ──ちなみにその後、案の定大部屋から黒ずくめたちが出てきて襲ってきたけど、普通に問題なくぶっ飛ばして終わった。


 そんなわけでこの騒ぎは、一件落着となったのだった。


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