苦ぁいコーヒーなどを用意してお読みください
俺は自室に一人で立ち、意識を集中してティトに語りかける。
さっきはイメージをつかむために目を閉じたが、目を開いても通信が途絶えるわけじゃないから、ひとまず目は開ける。
『よかった、無事なんだな……。ちなみにこれは、俺だけが使える魔法の一種みたいなものだと思ってくれ。頭の中で言葉を伝えようとイメージすれば、俺に届くと思う』
自室でこうして一人、ほかに誰もいない空間で脳内だけで語り掛けているのは不思議な気分だ。
まあでも、実質的には携帯電話みたいなものと思えば、それなりに受け入れられる。
『それよりティト、今どこにいるんだ? 帰り道にティトの買い物カゴっぽいのが落っこちてたから、何かあったのかと思って』
そう問いかけると、ティトからは不穏な答えが返ってきた。
『それが……ここがどこだかは、分からないんです。……カイルさん、ごめんなさい。一つだけ、わがままを言ってもいいですか』
ティトの心の声は、震えていた。
不安に押しつぶされそうになっている、そんな声に聞こえた。
もうどう考えたって、平常な状況じゃない。
そして、不安でたまらないのは、俺だって一緒だった。
だからこそ、強い言葉が出た。
『ああ、何でも言え。わがままでも何でも、俺が全部叶えてやるから』
我ながら無茶を言う。
神にでもなったつもりか。
でも、それでもティトの心の支えになりたいと思った。
そしてティトは、昂った声で、こう言ってきた。
『私……カイルさんに会いたい! 今すぐカイルさんに会いたいです!』
射抜かれた。
心を、気持ちを、全部持っていかれた。
『不安なんです。ここどこなのって。私どうされちゃうのって。──カイルさんに会いたい! カイルさんの傍に居たい! 私、どうしてこんなに弱い子なんだろうって、嫌になるけど、私、私……』
『分かった。今すぐ迎えに行く。──数分待てるか?』
俺は断言した。
できるかできないかなら、多分できる。
『えっ……? カイルさん、私の居場所が、分かってるんですか……?』
『今はまだだ。でも何とかする。ティト、自分が今どこにいるのか分からないなら、分かることだけ教えてくれ。今どういう場所にいるんだ?』
『牢屋……みたいな部屋です。鉄格子がかかっていて……窓がないです。見張りが一人います。手練れの、多分暗殺者か何かだと思います。私と同い年ぐらいの、悪い子じゃない気がするんですけど……』
なんだそりゃ。
何でティトが、そんな場所、そんな状況に。
いや、それはいい。
理由なんて今はどうだっていい。
『とりあえず今すぐに、命の危険はないんだな?』
『多分……。分からないですけど』
『分かった。念話はこのままにしておくから、何かあったら教えてくれ。不安だったらいくらでも話しかけてくれていいからな』
『はい。──カイルさん』
『何だ』
『大好きです』
俺は、死んだ。
心臓を貫かれて即死だった。
『……俺もだ、ティト。すぐに行くから安心して待ってろ』
『……はい』
吊り橋効果ってやつの同類だろうな。
何もこんな時にアイラブユーしなくたっていいだろうに。
ともあれ俺は、ただちにチートスキルを新たにもう一つ取得し、自分の部屋を飛び出した。
居てもたってもいられなかった俺が飛び出したのは、必然的に、窓からだった。




