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RPGっぽい異世界でだらだら冒険者生活する  作者: いかぽん
第六章 少女誘拐事件、あるいはこのあと滅茶苦茶セックスはできなかった話
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牢屋の光

──ティト視点──


「んっ……ふぇっ? ここは……」


 目を覚ますと、そこは知らない場所だった。


 石造りの冷たい天井に、窓のない薄暗い部屋。

 私が寝ているのは柔らかいベッドの上のようで、お布団もしっかりかけられていた。


 ベッドの上で、身を起こす。

 真っ先に目に入ってきたのは、鉄格子だった。


 私がいるのは、どうやら狭い牢屋のようだ。

 ベッドのほかに家具はなくて、ひどく殺風景。

 どうして私はこんなところに──


「そうだ、私はあのとき、襲われて……」


 思い出した。

 買い物帰りに、黒ずくめの人たちに襲われて……多分、気絶させられたんだと思う。


「悔しい……」


 私は自分の両手を見て、それをぎゅっとにぎりしめる。


 私は私なりに、結構強くなったつもりではいた。

 カイルさんはもちろんのこと、アイヴィさんとかにも到底及ばないのは分かってる。

 それでも普通の人の範疇だったら、そうそう遅れは取らないつもりでいた。


 でも、それがこの様。

 こんなことじゃ、冒険者としては、いつまでたってもカイルさんの足手まといだ。


 ……ううん、そんなことよりも。


 この状況、私、大丈夫なの?

 今のこの状況、何がどうなってここにいるのか、全然分からない。


 私を襲ってきたあの黒ずくめたちが、私を誘拐してここに連れ込んだのであろうことは、だいたい想像がつく。


 でも、じゃあ何の目的で?

 あの人たちは何者?

 私はこれから、何をされるの?


「カイルさん……」


 拳を解いて、今度はローブの胸元をにぎる。

 不安だし、恐怖もある。


 でも、カイルさんがきっと、王子さまみたいに助けに来てくれる。

 私がピンチになっても、颯爽と現れて、あの黒ずくめたちをばったばったと倒して助けてくれる。


 大丈夫、落ち着いて。

 頼ってばかりの私は情けないけど、カイルさんは信じられるから。


 ……でも。

 さすがのカイルさんでも、私がどこにいるか分からなかったら、助けに来れなくない?

 そもそも、私がさらわれたことに気付いていなかったら?


 そこまで考えてしまって、ぶんぶんと首を振る。

 悪いほうに考えちゃダメだ。

 それでもカイルさんなら、カイルさんならきっと何とかしてくれる。


 ──と、私がそんな風に、思考の堂々巡りをしていたときだった。

 鉄格子の向こう側に、突然、人が現れた。


 ううん、突然っていうのはおかしい。

 普通に鉄格子の向こう側の通路を横から歩いてきて、そこに来ただけだ。


 でもそこに現れるまで、足音も気配も、何も感じなかった。

 何一つ予兆がないままそこに出てきたものだから、すごく唐突なことに思ってしまった。


 その人は、黒のコートにフードという、私を襲った人たちと同じ格好をしていた。


 いや、同じ格好というよりは、同じ人と言ったほうが、おそらくは合っている。

 背格好が、私を直接仕留めたあのときの人に、そっくりだった。

 大人の男の人というには、ちょっと小柄な体格だったから、よく覚えている。


 私は鉄格子の向こうに現れたその黒ずくめを、注意深く観察し、そして睨みつける。


「……あなたたちは何者? 私をどうするつもりですか」


 言葉にできる限りの険を込めて、そう言ってやる。

 すると、その黒ずくめはフードを背中に降ろして、素顔を見せてきた。


 びっくりした。

 ……少年?

 それとも少女? 

 とにかく、すごい美形の、私と同い年ぐらいの子だった。


 さらさらに見える銀髪は、私のそれよりも濃い灰色に近い色味で、男の子とするなら少し長めのショートカット。

 瞳は不思議な色合いの紫色だ。


 ちなみに胸は平らだから、多分男の子……かな?

 でも顔立ちから首筋、胸元にかけてまで、女の私でも見惚れるぐらいに綺麗で、可愛らしい。


 そんな、彼か彼女かは分からない子が、あまり表情を表に見せないまま、鉄格子の向こうからこんなことを言ってきた。


「ごめんね、手荒な真似をして。……でも、これからキミたちにはもっとひどいことをすることになるし、僕たちはそれに関して言い訳や謝罪をするつもりもない。今の腐ったこの国を変えるには、必要なことなんだ」


 声もすごく綺麗で、中性的だった。

 でも、どっちかっていうと少年のそれっぽく聞こえたから、私はひとまずその子を男子と認定する。


 そして、彼の言葉の中で気になった部分に関して、質問をする。


「……今あなた、『キミたち』って言いましたよね。私だけじゃなく、カイルさんたちにも何かするつもりですか?」


「カイル……? その人のことは知らないけど、ここにはキミのほかにも、何人かの少女が連れてこられているから。誰が依り代になるかは僕らには分からないけど、誰がなろうとなるまいと、キミたちの運命は変わらない。……今のうちに、欲しいものがあったら言って。最後の希望ぐらいは、できるだけ叶えてあげたいから」


「じゃあ、家に帰してください」


「それはできない」


「カイルさんに会わせて」


「それもダメ。外の人とのコンタクトは許可できない」


「……じゃあ、いいです。別に何もいりません。あなたたちの施しなんか」


「そう……。僕は必ず近くにいるから、何かあったら声をかけて」


 そう言い残して、彼はまた音もなく立ち去った。

 あれは……盗賊シーフ暗殺者アサッシンの歩法だろうか。


「……はぁ」


 私は緊張を解いて、大きく一つ息をついた。

 今の短い時間だけで、どっと疲れた気がする。


 ……何となくだけど、あの少年は、悪い子じゃない気がした。

 でも何か、一つの信念のようなものをもって、何らかの事を為そうとしている。


 説得して、何とかできるだろうか。

 あるいは何か、付け入る隙は?


 そんなことを考えていたとき──不意に、私の頭の中に声が響いた。


『あー、ティト~、聞こえるかー? 聞こえたら応答してくれー』


 頭の中に直接聞こえてきたそれは、私の愛しの王子様の声だった。


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