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RPGっぽい異世界でだらだら冒険者生活する  作者: いかぽん
第六章 少女誘拐事件、あるいはこのあと滅茶苦茶セックスはできなかった話
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そう言えばそんな話もあったなぁ

「やぁやぁ、よぉ来てくれたわ。うちもすぐ行くから、その辺のテーブルに座っといてや~」


 俺が呼び出しを受けて冒険者ギルドに顔を出すと、ギルドの受付カウンターの向こうから、キツネ目のお姉さん──ギルド長のターニャが声をかけてきた。


 俺とパメラは、その言葉に従ってギルドの酒場スペースの空いているテーブルを一つ見繕い、席について待つことにする。


 しばらくすると、ターニャがお盆を使ってケーキと紅茶を二つずつ持って現れた。

 そして俺とパメラの前に配膳すると、自分も席につく。


 パメラは遠慮も何もなく、「いっただっきまーす♪」と早速ケーキに手を付け始めた。

 俺は苦笑しつつ、ターニャに視線を向ける。


「来賓待遇だな。……何か俺に話があるって聞いたけど」


「うん、そやねー。けど自分、今日は連れてるのパメラちゃんだけなんやね。いつもたくさんはべらせてるイメージやけど。アイヴィとか、どしたん?」


「侍らせてるって……人聞きの悪い言い方すんなよ。アイヴィは新入りを調教、じゃなかった、新人教育中だ。ティトは晩御飯の買い物で市場に行ってるよ。一緒に連れてきたほうがよかったか?」


「いや、人聞きの悪いって、事実やん……。まあ、別にええよ、カイルさえいてくれたら。常人にどうこうできる話でもないしな」


「……へぇ」


 何だか込み入った話のようだ。

 ここに来たのは、パメラから「ターニャがダーリンに話があるってよ」というざっくりな話を聞いての今ココなので、何の話なのか、俺にはまったく見当がついていなかった。


 俺が興味を持ったのを確認して、ターニャは話し始める。


「いやな、自分ら前に、うちと一緒に山賊退治に行ったことあったやろ」


「……ああ、あったな、そんなことも」


 確か俺のAランク冒険者としての審査にかこつけて、態よく山賊退治のクエストに付き合わされたことがあった。

 妙に身体能力の高い、目の血走ったヤバい山賊たちと遭遇して、そいつらとチャンバラした記憶がある。


「そんでな、そのときの山賊のねぐらに、あやしいポーションの瓶が転がってたやんか。あれを街の錬金術師に調査依頼した、っていうあたりまでは、伝えてたと思うけど」


「ああ、まあ、聞いたは聞いた気がする」


 そんなのとっくの昔に忘れてたけど、それは黙っておく。


「それの調査結果が出てな。結論から言うと、『狂戦士バーサーカーのポーション』っていう、通常販売や使用は違法とされてるポーションだったみたいなんよ。何でもヤバいポーションらしくてな」


「へぇ……。ちなみにヤバいって、どうヤバいんだ? 確かにあのときの山賊は、見た感じからしてヤバそうだったが」


「アレや、多用すると、服用した人間自身が壊れるらしいよ。服用者の能力を無理やり引き上げるせいで肉体が壊れるし、それでなくても理性に悪影響がある。しかも常習性があると来てて、本気であかんやつだってことらしいわ」


「ふむ……」


 なるほどね。

 確かにそれはヤバいやつだ。


 ……んー、しかし、つながってこないな。


「それでなんで、俺が呼ばれたんだ?」


「ああ、それな。それでその『狂戦士のポーション』の出所を調べたんよ。したらこの街のもう一人の錬金術師──あーっと、この街の錬金術師は二人いるんやけどね、調査を依頼したほうじゃない、もう一人のほうがヒットしたんよ」


「ほうほう。そいつが犯人だったと」


「いや、それがな。その錬金術師は、『俺は頼まれて作っただけだ、俺は悪くない』とか言い張りよってな。まあそいつはそいつで違法販売やから、悪くないわけなくて、普通に官憲にしょっぴかれたわけなんやけど」


 ……なんか面倒くさい話になってきたな。


 とりあえず俺もケーキと紅茶をいただきつつ、気長に話を聞くことにした。

 一口と一すすりを口に入れてから、話を続ける。


「……あー、じゃあ、あの山賊たちが、その錬金術師に依頼して、『狂戦士のポーション』を作らせたってことか?」


「いやー、それがなぁ……それだったら、話は簡単だったんやけどな。……よくよく考えると、おかしいんよ。その『狂戦士のポーション』っていうんは、材料費が高いうえに売るほうも犯罪で危ない橋渡るってことで、裏取引としても相当の高値になる。具体的には、一本あたりで金貨数十枚って取引価格になるんよ」


 ……うへぇ、金貨数十枚。

 金貨一枚が一万円として、一本で数十万円相当……そりゃ確かに、とんでもない値段だ。

 剣闘祭の優勝賞金が金貨二百枚だったし、ポーション一本の値段としては、ちょっと本気で洒落になってない。


「……なるほど、だとしたら、確かにおかしいな」


「そやろ? そんな金をポンと出せるやつが、山賊なんかしてるわけないと思うやんか」


「だよな。……何か裏があるってことか」


 俺の頭に普通に思い浮かんだのは、あの山賊たちは、何者かによって捨て駒として利用されたという可能性だった。

 裏に黒幕がいて、そいつはこの街の周辺で、今もうごめいている。


「……確かに、放置しておくには、気分のいい話じゃないな」


「そーなんよ。……だけどなー、そっから先が進まんのよ。その錬金術師のところに来た依頼人っちゅうのは、全身黒ずくめのフード付きコートを着たやつってことなんやけど、それ以上が何にも分からん。その錬金術師も、依頼人の素性とかさっぱり知らないらしくてな。ホント使えんわ」


 なるほどな……それだと、普通はお手上げだろう。

 お手上げだろうが──


「──で、繰り返しになるんだが、なんでその話を俺に?」


「いやぁ、そのことを何となくパメラちゃんに話したらな? 『そんなんうちのダーリンなら一発解決だよ。ダーリンにできないことはないからな』って」


「…………」


 俺は横に座っている付き添いの少女を見る。

 ケーキを早々に平らげた栗色ショートカットの能天気少女は、難しい話に興味はないとばかりに、手持無沙汰に椅子をきこきこ揺らしていた。


「おい、パメラ」


「ん、なにダーリン? あ、仕事の斡旋料なら、気にしなくていいぜ。いつもダーリンには世話になってるしな」


「そうじゃない。俺にできないことはないって……お前は俺を何だと思っている」


「何って……万能超人?」


「はあぁ……」


 頭いてぇー……。

 俺は憂さ晴らしにパメラの耳を引っ張りつつ、席を立つ。


「痛ててっ……ダーリン痛い痛い、何だよっ」


「勝手に安請け合いすんな。お前は帰ったらくすぐりの刑な」


「ええっ、何でだよっ」


 抗議してくるパメラは無視して、ターニャに声をかける。


「悪い、さすがに難しそうだ。一応検討してはみるが、あまり期待しないでくれ」


「そっかー。ほんならしゃーないな。うちもダメ元で聞いてみただけやから、気にせんといて。でももし何か手があるようだったら頼むわ」


「ん、分かった。ケーキとお茶、ご馳走になっただけで悪かったな」


「いやいや、それこそ今後ともご贔屓にってやつや」


 そんな会話を交わしつつ、パメラを引っ張って冒険者ギルドをあとにした。




 ところで、ギルドから出る際に、その前にクエストの掲示板を軽く確認した。

 すると、何となく一つ、気になったクエストがあった。


 それは、娘がさらわれたという誘拐事件を調査してほしいというもので、依頼人はチャーリー・ポッター三世という名前だった。

 俺は、その依頼人の名前をどこかで聞いたことがあるなーと思いながらもスルーしつつ、ギルドの扉をくぐって帰宅の途についたのだった。


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