教育
しばらく放置した上に、ショートな小ネタだけでごめんなさい。
多分二か月後ぐらいには、少しまともに動けるようになると思うので……
ちなみに更新をサボっていた期間にこんなの書いたりしたので、よろしければどうぞです。
『魔装農夫爆誕 ~装備を鍬から剣に変えました~』
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「んっ……! あ、熱い……!」
「……どうした、もうダメか? こんな程度でへたばってちゃ、先が思いやられるな」
王都での剣闘祭を終え、我が家に帰ってきた俺たち。
その剣闘祭の決勝戦で下し、「隷属の首輪」というチートアイテムの効果で奴隷にした魔族──悪魔っ娘のフェリルに、俺は「教育」を施していた。
場所は屋敷の庭だ。
はぁはぁと吐息し、頬を赤く染めたフェリルは、俺のことをキッと睨みつけてくる。
「んっ……こんな、程度……! でも、魔族の将たる私に、こんな辱めをしたこと、いずれ後悔させて──くぅぅぅっ……!」
「──ほら、フェリル、口ばっかりで、手が止まってるよ。しっかりご主人様にご奉仕しないとダメでしょ?」
そう言って、フェリルの背後から彼女に手取り足取り「教育」を施しているのは、「赤の剣士」ことアイヴィである。
物理的な戦闘能力ではフェリルに敵わないであろう彼女だが、今に限っては立派な先生役だ。
立派な先生役なのだが……フェリルの耳元で囁きかけながらはぁはぁ言っているアイヴィは、ちょっとどうかと思う。
俺は一つため息をつき、彼女を叱りつける。
「いや、アイヴィさ。『ご主人様にご奉仕』って、おかしくね?」
「えっ? じゃあティトちゃんみたいに、『旦那さま』って呼んだほうがいい?」
「そっちじゃない。『ご奉仕』のほうだ。なんで洗濯の仕方を教えてるだけなのに、そういう表現になる」
「えー、だって、カイルのも含めて一緒に洗ってるんだから、それはボクたち従者の、ご主人様に対するご奉仕でしょ?」
庭に置かれた大きめの洗濯桶。
その前に膝をついて、湯の中に手を突っ込むフェリルと、彼女の背後にぴったりと張り付いて手取り足取り洗濯の仕方を教えているアイヴィ。
そして、それを正面で見ている俺──というだけの構図なのだが、どうにもアイヴィに任せると話が変な方向に向かうな。
というか、アイヴィ語に翻訳されると、だいたいの会話がおかしくなる。
「くぅっ……こんな、湯の熱さ程度で……」
ちなみにフェリルは、どうも熱いものが異常に苦手らしい。
ゲーム的に言うと、「×ほのお」って感じだ。
いま洗濯に使っているお湯も、俺が魔法で出したものだけど、風呂湯かそれよりぬるい程度の温度でしかない。
それを、さも熱湯に手を突っ込むかのごとくに悪戦苦闘しているのだから、ちょっと面白い。
「大丈夫だよフェリル。最初は苦しくても、だんだん良くなってくるから。苦痛っていうのは、いつだってそういうものだからさ」
アイヴィがフェリルの耳元でそう囁いている。
でもそれはお前だけだと思うぞ。
「うぅっ……。カイル……この女、絶対頭おかしいでしょ……家事の仕方を教えるにしても、もうちょっとマシな指導役はいなかったの……?」
フェリルから苦情が来る。
まあ、気持ちはわかるんだが……。
「と言ってもなぁ、俺も全自動洗濯機に慣れ切ってるから教えられんし、パメラに任せるとしっちゃかめっちゃかになりそうだしなぁ。ティトは家事のエースだが、ティトにばっかり仕事押し付けるのもどうかと思うし」
「ていうか、頭おかしいとかひどくない? そんなこと言う子には──こうしてやる♪」
「あっ……ちょっ、やめっ──あああああっ!」
フェリルの両手をつかんで、ちゃぷんとお湯に浸からせるアイヴィ。
意外とドSなところもあんのなこいつ……。
まあ、攻めに回ってるアイヴィっていうのも新鮮で面白いから、構わずこの方向で行くか。
「よし、じゃあアイヴィ、あと任せた」
俺はそう言って、庭をあとにしようとする。
ベランダから上がって、屋敷の中へと入ってゆくと、後ろから悲痛な叫びが聞こえてきた。
「えっ……ま、待って、カイル……! 私を、この私を──この頭のおかしい女と二人きりにして置いていく気か……!?」
不安げなフェリルの声。
まあ確かに、人間に危害加えるなって命令してあるから、一方的にいじられるだけになる気もするが。
「おう。まあ、頑張ってくれ」
「うん、任せてよ。ご主人様の忠実な従者として、心構えからきっちりボクが教え込んでおくからさはぁはぁ」
「そんなっ……! いやっ、た……助けて、お願い……いやっ、いやあああああっ!」
頑張ってくれという言葉の矛先を勘違いしたアイヴィの返答と、正しく意味を理解したフェリルの悲鳴。
案外アイヴィって使えるかもしれないな、などと思ったのは、ここだけの秘密である。




